肝臓疾患の専門医インタビュー (銀座しまだ内科クリニック)

肝臓疾患

人口の3割が抱える非アルコール性脂肪肝、初期なら半年の治療で多くの人が改善できる

島田 昌彦先生

2019/04/09

MEDICALIST
INTERVIEW
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銀座しまだ内科クリニック
島田 昌彦 院長
Masahiko Shimada

  • アメリカ肝臓学会正会員
  • 日本肝臓学会指導医・専門医
  • 日本消化器科内視鏡学会指導医・専門医
  • 日本肥満学会 肥満症専門医
  • 日本糖尿病協会療養指導医
  • 日本消化器病学会専門医
  • 日本内科学会認定医
  • 日本糖尿病学会会員、日本胆道学会会員、日本膵臓学会会員
  • 臨床研修指導医
  • 身体障害者診断指定医 肝機能障害領域
  • 東京都難病指定医
  • TNT(Total nutritional therapy)プロジェクト担当医
経歴
     
  • 平成8年 金沢医科大学卒業
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  • 平成8年 東京女子医科大学消化器内科入局
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  • 平成13年 同医局 日本を代表するNASH研究施設の東京女子医大消化器病センターにてNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の研究
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  • 平成14年 同医局 (NASHに関する論文にて)医学博士取得 医療練士課程修了 助手
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  • 平成16年 金沢医科大学 消化器内科 助手(NASHとアルコール性肝障害を研究)
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  • 平成18年 同医局 准講師
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  • 平成22年から24年 アメリカ バージニア州立大学(Virginia commonwealth university )消化器・代謝内科にて世界的なNASHの権威であり米国肝臓病学会のPresidentをされたProf. Sanyalの研究室に留学。NASH(非アルコール性脂肪肝炎)に関する基礎・臨床研究に従事
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  • 平成24年10月 東京女子医大八千代医療センター 消化器内科 助教
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  • 平成27年8月 藤崎病院 内科副部長 および 東京女子医大八千代医療センター 消化器内科 非常勤講師 および 埼玉県朝霞台中央総合病院 肝臓専門外来担当

非アルコール性脂肪肝を抱える患者が多い

肝臓の病気がいろいろある中で最近問題になっているのが、お酒を飲まない人の脂肪肝(非アルコール性脂肪肝)です。検診によると人口の約3割が非アルコール性脂肪肝になっていると言われており、その一部は進行性の非アルコール性脂肪肝炎 (NASHナッシュ) を生じています。

肝臓は沈黙の臓器なので、基本的には症状が出ない人が多いです。しかし全く症状がないのかというとそうではなく、肝臓が悪いとだるさ、疲れを感じる場合があります。肝臓には神経がないので肝障害を生じても肝臓自身は髪の毛と同じで痛みを感じることはできません。ただし肝臓を覆う被膜には神経があるため、脂肪肝になり肝臓が腫れてくると、その被膜が伸び、右のお腹の脇あたりに痛みや引っ張られるような違和感、いわゆる伸展痛を認めることもあります。また、「最近、疲れが取れない。過去に肝機能障害を指摘されたことがあるが、だるさや疲れが肝臓に関係しているのではないか」と心配され受診される方もいます。しかし、これらの自覚症状がないケースも珍しくありません。

生活習慣病が肝臓で現れたものが非アルコール性脂肪肝

非アルコール性脂肪肝の原因について研究が進められている最中ですが、生活習慣病が肝臓で発現したものと考えると分かりやすいでしょう。生活習慣病が糖代謝で発現すると糖尿病になり、血管で発現すると高血圧になるように、肝臓で出た場合が非アルコール性脂肪肝であり、そこで長年肝臓の炎症が続き、肝臓が硬くなり線維化が生じた状態が非アルコール性脂肪肝炎 (NASH) です。NASHは肝硬変や肝がんを生じる可能性があり要注意です。

最近ではそこまで太っているわけではない隠れメタボの人にも非アルコール性脂肪肝を認めるようになってきています。仕事が忙しくて夕食を食べる時間が遅くなってしまい、その時に炭水化物を食べる量が多いという人や、以前はたくさん運動をしたけれど最近動いていないという人にも非アルコール性脂肪肝は生じやすいです。

患者の症状に合わせオーダーメイドで治療を行う

患者さんの病態・進行度によりますが、一番のスタンダードな治療は食事・運動療法です。けれど食事を制限しましょうと言われても、「分かっているけれど食べたい」のが普通ですし、運動を勧められても「分かっているけれど忙しくて」という方も多いと思います。

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の場合「これを内服すれば治る」という絶対的な薬があるわけではありませんので、基礎疾患がある場合はその基礎疾患を治療する薬を使います。例えば高脂血症や高コレステロール血症などのお薬を用いて肝臓の細胞の中にたまった中性脂肪を燃やす治療や、脂肪肝が酸化して壊れるのをとりのぞく治療を行っていきます。これらの薬剤は患者さんの病態に合わせた薬を処方することになるので、治療内容はそれぞれ変わり、患者さんごとに違うオーダーメイドの治療となります。

これらの治療に使うのはビタミン剤やフィッシュオイルのようなサプリメントに近いお薬です。医者から脂肪肝があるから食事を減らしなさい、体重を減らしなさい、運動しなさいと言われるだけでは外来に来るのも嫌になってしまい、そこで診療は終了になってしまうと思います。しかし、これらのサプリメントに近いお薬を使うことによって「今回は忙しくて運動はできなかったけれど、薬は飲んでいたから、数値的な変化があるかもしれない」と期待して通院できるようになります。外来に来られた時に、体組成計や血液検査などの結果から何からの改善点を見出して、「もしかしてこれは薬剤だけの影響でなく、なにか気を付けられた点はないですか?」と伺うと「たしかに、運動はできなかったけど夜の炭水化物は少し減らしました」などと大なり小なり患者さんも努力されていると思います。そこで「せっかく肝臓が良くなってきたので、今度は通勤時の駅でも階段歩行を取り入れて、さらに肝臓の状態を良くしちゃいましょう」などのように、改善できた点を動機付けにして、少しずつではありますが食事・運動療法も行っていくことが可能となります。何よりまずは受診を継続してもらわないことには治療続けられなくなります ので、まずは通院していただくことが大変重要であると思います。

初期の段階なら半年で多くの患者が回復する

当院はクリニックなので、比較的病気が進行してない方が来られます。肝臓の硬さを測定する特殊なエコーである「肝フィブロスキャン」にて肝臓がちょっと硬いと言われている方の場合、だいたい半年の治療で80%ほどの方が改善されます。半年を一つの目安として考えていただけると良いと思います。

もちろん、受診するタイミングは早ければ早い方が良いです。検診で肝機能に異常が出たら、肝臓専門医を受診してくださいとのコメントはよくあると思います。ただし肝臓専門医といってもそれぞれ得意としている分野がありますので、脂肪肝を指摘されている人は脂肪肝を専門としている医師に診ていただくのがおすすめです。

脂肪肝が肝機能障害を起こす前に、予防することはとても大切です。睡眠時間をしっかり取る、夜遅く食事をしない、座りっぱなしにならず、時々立ちあがるなどのちょっとしたことが予防になります。人口の30%が非アルコール性脂肪肝で、そのうちの約数%が脂肪肝炎を起こしていると言われています。NASHを治療せずに放置した場合、10年から15年をすぎると肝硬変になってしまうこともあります。非アルコール性脂肪肝になっている人の多さを考えても、予防はとても重要になってくるでしょう。

また、病気を自覚することも大切です。脂肪肝はなかなか症状が出にくいので、検診や他のクリニックで肝障害だと言われたことがある人や、ご自身が脂肪肝かなと思ったら、一度ご来院していただければと思います。脂肪肝の程度を数値化し、肝臓の硬さも測定できる「肝フィブロスキャン」を使えば苦痛を感じずに保険診療で検査できますので、あまり敷居を高く思わず、気軽に相談していただきたいです。とくに当院では肝フィブロスキャンのなかでも肥満の方でも測定可能な「XLプローブ」を有している全国的にも数少ない施設ですので、他の病院に行ったけど脂肪肝の的確な説明がなかった方や積極的に脂肪肝を改善させたい方などお待ちしています。受診時は空腹でご来院いただければ当日に肝フィブロスキャンを行い病態のご説明をさせて頂きます。

これまで学んだ経験を多くの人にフィードバックしたい

当院は開院して40年になります。先代の渡辺先生が38年間消化器系を中心に診療されていましたが、ご高齢になられて後継を探されているとのことで、2年前に私が引き継ぎました。当時、世界で有数のNASH研究施設である米国バージニア州立大学(VCU)で研究を行い帰国し、脂肪肝をさらに研鑽するため、脂肪肝と密接に関係する糖尿病を学ぶため糖尿病専門医取得の研修をしておりました。あと1年で受験資格取得可能であり「このタイミングで開業していいのか」と悩んだのですが、脂肪肝に悩む多くの人に対して今までライフワークとしてNASHの臨床および研究してきた経験を生かしフィードバックできるのはこのタイミングであると開業を決意しました。

食べたい気持ちはよく分かる、甘いものを食べながら患者に寄り添う医療を

生活習慣病の診療は、患者さんとの信頼関係がないと続きません。そこで、特に初診の患者さんとは制限時間を設けずにじっくり話し、人と人との信頼関係を構築できるように心がけています。

信頼感が構築されていれば、食べてしまったことや運動できなかったことを正直に伝えてくれますので、その情報をもとに治療や指導ができます。何より、きちんと通い続け治療を継続してくれることが大事なので、まずは患者さんが通いやすい環境であるようにと心がけています。

病院に通うことが患者さんの負担にならないようにという意味でも、できないことを押し付けて頭ごなしに否定する診療をするのではなく、患者さんに寄り添う診療をしています。正直なところ私も食べるのが大好きなので、患者さんの気持ちはよく分かるのです。ですから、アイスを夜食べたくなって食べてしまったとしても、それにストレスを感じて落ち込むのではなく、翌日5分多く歩こう、天気が良い日に頑張って運動しよう、総合的に今より少し改善すれば良いではないかと、そういう指導をしています。私も甘いものが好きなので、アイスを食べながら患者さんに寄り添っています(笑)。