内視鏡検査の専門医インタビュー (新板橋クリニック)

内視鏡検査

説明と納得させる、管理と管理される縦の関係ではなく、医療者と患者さんが横の関係で、対等に合意によって治療をすすめる 心によりそって、病気・病をもった人を診る内視鏡専門医

清水 公一先生

2017/06/13

MEDICALIST
INTERVIEW
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新板橋クリニック
清水 公一 院長
Kouichi Shimizu

  • 日本外科学会認定医
  • 日本消化器外科学会認定医
  • 消化器内視鏡学会専門医
  • 日本癌治療学会がん治療認定医
  • 日本緩和医療学会暫定指導医
経歴
  • 1991年 千葉大学医学部卒業
  • 1991〜1997年 東京女子医科大学消化器病センター外科勤務
  • 1997〜2000年 米国ミシガン大学腫瘍外科に留学
  • 2000〜2006年 東京女子医科大学消化器病センター外科助手として勤務
  • 2001〜2006年 東京女子医科大学消化器病センター外科腫瘍免疫・癌免疫学細胞療法チーム主任、臨床試験責任医師を兼任
  • 2003〜2006年 東京女子医科大学緩和医療チームを兼任。癌疼痛治療マニュアル作成委員
  • 2006年4月 新板橋クリニック開院

患者さんの安心を大切にする「人を診る科」を実践するクリニック

清水公一先生

新板橋クリニックは2006年に私と元冲(にすい)永功太副院長とで一緒にはじめたクリニックです。消化器科・胃腸科、外科を中心に、一般内科、肛門科の診療をおこなっております。また、生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症など)の診療もおこない、身近なかかりつけ医(ホームドクター)として、温かくわかり易い診療で地域の皆さまのお役に立てるよう、これからも努力を続けていきたいと考えています。また、当クリニックの理念は、患者さんが安心することを何よりも大切に医療をおこなうことです。いくつかの専門の診療科目はありますが、もし誰かに「何科ですか?」と聞かれれば、私は「人を診る科です」と答えたいのが本音です。私たちの仕事は病気を診るのではなく人を診ること。病気の治療にあたるのはもちろんのこと、それ以前に患者さんの気持ちに寄り添って医療をおこなっていきたいと考えているのです。「ここに来ると安心する」訪れる人からそう言ってもらえるクリニックであることをいつも目指しています。

精度の高い検査が可能だが苦痛や抵抗も大きい内視鏡検査

内視鏡検査にはさまざまな種類とメリット、デメリットが存在します。まず、のど、食道、胃、十二指腸までの検査をおこなう一般に「胃カメラ」と呼ばれる上部内視鏡があります。そして、直腸、結腸、大腸の検査をおこなう「大腸カメラ」と呼ばれる下部内視鏡検査があります。最大のメリットは、カメラで直接消化管を医師が確認できることにより、精度の高い検査が可能になると言うことです。一方でデメリットとしては、上部内視鏡では咽頭部の反射によって患者さんが苦痛を感じるというところです。下部内視鏡は、上部に比べて苦痛は少ないですが、肛門から内視鏡を挿入するという検査方法自体に抵抗を感じる方が多いのも事実です。だからこそ実際に内視鏡検査を体験した人の言葉として、「内視鏡検査は苦しい、痛い」ということが一般に広まっているのです。

無痛内視鏡検査で患者さんが安心しながらクオリティの高い検査を実施

清水公一先生

当クリニックで実施しているのは、精度の高い検査が可能でありながら患者さんが苦痛に感じてしまうという内視鏡の問題点を軽減する「無痛内視鏡検査」です。これは静脈注射による薬剤の投与によって睡眠を促し、その間に内視鏡検査を実施するというものです。いわゆる麻酔とちがい、睡眠をオン・オフするというのが「無痛」の方法で、麻酔のように神経を麻痺させて痛みを感じなくさせるというものではありません。上部内視鏡の場合、咽頭部への麻酔をおこないますが、それ以外はあくまで睡眠であり体への影響も少ないのが利点です。この無痛内視鏡検査は、使用する薬剤に関する知識と実技、そして何らかのトラブルが発生した際の対応力が求められ、医師だけではなく看護師や助手によるチームでの施術が必要です。当クリニックではこの無痛内視鏡検査に熟達したチームが検査にあたります。上部内視鏡ではほとんどの場合この無痛内視鏡検査をおこないますが、苦痛の少ない下部内視鏡では通常の検査をおこなうことも可能です。ただし女性の場合などは、眠っている間に検査ができる無痛内視鏡検査の方がご本人の抵抗感も少なく、安心して検査を受けていただけるというメリットもあります。そして無痛内視鏡検査でのもう一つ重要なメリットとして、医師がじっくりくまなく消化管の状況を確認できるということです。検査の際、患者さんが苦痛を感じられていると医師は当然内視鏡の操作が制限され、充分な確認ができていなくても早く検査を切り上げることになってしまいます。これでは、せっかく精密な検査が可能な内視鏡であっても微少な病変を見つけることはできません。患者さんが楽に安心して検査を受けられること。これは医療サイドにもとても大きなメリットなのです。

経口型、経鼻型の違い、超早期がん発見が可能となった現在の内視鏡

上部内視鏡には、鼻から挿入する経鼻型内視鏡と、口から挿入する経口型内視鏡があります。内視鏡を使用する医師によってさまざまな考え方や検査をおこなう状況等も関わってきますが、当クリニックでは経口型内視鏡を使用しています。経口型を使用する第一の理由はカメラの性能の違いです。CCDの技術の進歩により、経口型より細径の経鼻型のカメラも大いに性能が上がりました。しかしそれでも経口型のカメラの解像度、表現力には未だ及びません。ミリ単位の病変を発見するためには、より性能の高い経口型の内視鏡を用いる方が確実なのです。また、経鼻型のメリットとされる検査時の苦痛の少なさですが、男性の8〜9割の方は経鼻型の使用で苦痛が軽減されるといわれていますが、女性の場合、7〜8割の方が経鼻型でも痛みを感じ、鼻血が出てしまう場合もあるとの統計があります。経鼻で苦しい場合は経口でと検査方法を変えているのが実情なのです。
当クリニックの場合、無痛内視鏡検査をおこなえば、患者さんの苦痛は経鼻でも経口でも変わりません。それならばしっかりと検査できる経口型内視鏡を用いるのは合理的な選択だといえるのです。現在当クリニックで使用する内視鏡は、現在当クリニックで使用する内視鏡は、ハイビジョンでの撮影が可能で、がんなどの病変を発見しやすくするNBI(狭帯域光観察)にも対応しています。わずか1~2ミリの超早期がんの発見も可能で、検査による大きな成果をあげています。

待合室

説明・納得させるのではなく、合意を。患者さんと一緒にすすめる治療

当クリニックに内視鏡検査で訪れる方には基本的に3つのパターンがあります。まず1つ目は、職場や自治体、人間ドックなどの健診で、胃カメラ、大腸カメラの検査をすすめられた方。2つ目はどうもおなかの調子が悪いという、何らかの自覚症状をお持ちの方。そして3つ目が特に自覚症状はないが、念のため検査を受けておいた方がいいと考えて自主的に検査を受けに来られる方です。それではさっそく内視鏡で診てみましょうというのが一般的かも知れませんが、当クリニックでは、まず患者さんの不安や心配についてじっくり耳を傾けるようにしています。内視鏡検査を喜んで受けたいという人などはいません。健診に引っかかったから、調子が悪いから、一応念のために、と患者さんはやむを得ず「内視鏡検査を受けなければ」と考えて来院されているのです。そこには共通して「重い病気だったら…」という不安があります。その不安を聴き、受け取って、共感することなく、検査だけをやっても患者さんの気持ちは楽になりません。内視鏡検査のメリットを説明するのはあくまで二番目。本当に一番大切なのは説明して納得してもらうことではなく、患者さんの不安を取り除くために患者と医師が不安な気持ちを共有・共感しながら合意して検査や治療に取り組めるようにしていくことなのです。患者さんの不安を払拭する最善の方法として内視鏡検査をおこなう。医療は一歩間違えば凶器にもなります。患者さんとじっくり話をして、医師と患者が合意してはじめて、本当の医療が一緒におこなえるのだと私は感じています。

「人を診る科」の発想は家族が原点

清水公一先生

私は前述のとおり専門家であると同時に「人を診る科」をめざして医療をおこなっています。しかしこの人を診るということは実は誰もがいつも自然におこなっていることでもあります。例えばあなたの家族の具合が悪そうだったら、その家族が言葉にしなくても、あなたはそれに気がつくはず。親しい友人がなにか困った様子だったら。これにもあなたは必ず反応できるはずです。人は知らず知らずのうちに家族や仲間の健康を案じ、言葉にならない不安や心配を察知しているのです。私たち医師は「共同体感覚」を家族だけでなく患者さん全体や地域・コミュニティ・社会レベルまで拡げているのです。訪れる患者さんを家族や友人と同じコミュニティ・社会の仲間と思う。そうすれば、患者さんが言葉にできない不安や心配を抱えているときに、医師は患者さんの気持ちに寄り添っていくことができるのです。医師は専門知識と技術を持っていますが、立場は患者さんとあくまで対等です。同じコミュニティ・社会・共同体の仲間として協力して病気を治していく。そんな気持ちを患者さんと一緒に持っていきたいと思っています。

がんの発見と基幹病院との連携

当クリニックでの内視鏡検査の結果、がんが見つかった場合には近隣の基幹病院に紹介してそちらでの治療をおこなっていただくことになります。連携している板橋中央病院や医療公社豊島病院は、私の勤務した病院の関連病院でもあり、今も多くの医師と先輩後輩の間柄で密な連絡が可能です。これまで、基幹病院でがんの治療に入られた患者さんには上記の病院にかかわらず、可能な範囲で入院中の面会にうかがっています。私自身基幹病院で消化器外科として勤務した経験がありますので、タイミングとしては患者さんが落ち着かれた手術の1週間後あたりをねらってうかがうようにしています。こちらも経過が心配ですし、私がうかがうことで、患者さんが少しでも安心していただければと思っています。
また、現在のがん治療はさまざまな方法がありますが、手術後に化学療法(抗がん剤治療)をおこなうのが一般的です。手術を受けた病院で継続治療を受けることができますが、当クリニックでは地元で安心して治療を続けたいという患者さんの希望で、抗がん剤による継続治療もおこなえる体制を整えています。何よりも患者さんが安心して治療できる場所を。これからもそれを目指して医療を続けていきたいと考えています。