内視鏡検査の専門医インタビュー (牟礼高山診療所)

内視鏡検査

内視鏡によるピロリ菌の診断・除菌で見えてくる国内の胃がんの根絶。

山本 薫先生

2017/04/11

MEDICALIST
INTERVIEW
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牟礼高山診療所
山本 薫 院長
Kaoru Yamamoto

  • 博士(医学)
  • 日本外科学会認定医
  • 外科専門医
  • 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
  • 日本消化器病学会 消化器病専門医
経歴
  • 杏林大学医学部卒業
  • 杏林大学大学院医学研究科 外科系専攻外科学修了
  • 三鷹市内の公立中学校校医
  • 三鷹市介護認定審査会委員
  • 2014年牟礼高山診療所開院

外科専門医、消化器内視鏡専門医としての経験がいきる「まちの診療所」

院長先生へのインタビュー

私が生まれ育った三鷹市牟礼のまち。牟礼高山診療所は、私の自宅に隣接した敷地に2014年に開院しました。もともとこの場所には田中医院があり、2011年に田中先生の引退を受けて閉院。地域の方々はかかりつけ医を失い、不便な状態が続いていました。それまで基幹病院で消化器外科医としてチーム医療をおこなってきた私でしたが、地元の医療に貢献したいという思いから、この診療所の開業を決意し、現在に至っています。

この診療所の特長は、総合内科診療をおこなうとともに、生活習慣病の全般の治療、けが、虫刺され、打撲・ねんざ、しこり、熱傷など広範な外科治療をおこなっています。また私の消化器外科医としての経験と、消化器内視鏡専門医としての専門性を活かして、上部内視鏡検査に力を入れています。地域の皆さまのプライマリーケアを担当し、気軽に相談いただけるまちの診療所を目指しています。

胃がん発症した人のほとんどがピロリ菌の感染者

近年国内の胃がんの罹患率が減少しているのは、日本人の食事・生活環境の変化と、それに伴ってピロリ菌の感染者が減っているためだといわれています。ピロリ菌は人の胃の中に棲む細菌で、胃炎や潰瘍を起こしたり、がんの原因になることがわかっています。ピロリ菌は経口的に人の胃に入るといわれていますが、日本人の場合、高齢者に感染者の割合が多く若い人ほど感染の確率が低くなっています。日本の以前の食生活や生活環境など、衛生面の問題も含め、ピロリ菌が感染していたのではと考えられています。

ただ、若年者であっても親から口移しでものを食べたり、他の人と食器を共用したりしてピロリ菌が感染していると思われる人もいます。 ピロリ菌は胃の強い酸の中でも生存が可能な細菌です。ピロリ菌が発見される以前は、胃の中では細菌は生存できないと考えられていました。ピロリ菌は胃の中でアンモニアをつくり出し、胃酸を中和して生きているのです。ピロリ菌がいると胃は徐々に萎縮を起こし、炎症や潰瘍などの不調を招きます。また、がんが発病する場合もあります。

但し、ピロリ菌の感染者のすべてに胃の不調が出たり、胃がんになったりするわけではなく、全く症状が出ない人もいます。しかしその一方で、胃がんを発症した人の99%以上がピロリ菌の感染者という報告もあり、胃がんとピロリ菌が密接な関係にあることは確実なのです。

ピロリ菌の発見方法と上部内視鏡による診断

ピロリ菌に感染しているかどうかは、胃がんのリスクを調べるABC検診や、検便や血液検査、尿素呼気検査などいくつかの方法でわかります。ABC検診では血液検査でピロリ菌の抗体価と、血液中のペプシノーゲンⅠとペプシノーゲンⅡの比率を調べます。このふたつで、ピロリ菌の有無と、胃粘膜の萎縮の状況を知ることができるのです。ABC検診によって被験者は胃がんの危険性が低いA群から最も高いD群の4段階に分けられます。また、以前にピロリ菌の除菌治療を行ったことがある方はE群というグループに分類されて判定の対象にはなりません。A群はピロリ菌未感染のグループ、B群はピロリ菌の感染があるが萎縮があまり進んでいないグループ、C群はピロリ菌感染があり萎縮が進行したグループ、D群は高度の萎縮でピロリ菌が検出できなくなったグループです。その中で、B群以上の方に二次検診が必要です。

二次検診として最も確実なのが胃カメラともいわれる上部内視鏡による検査です。この上部内視鏡検査で胃粘膜に炎症などの病変が見つかり、採取した組織からピロリ菌が見つかると、ピロリ菌の除菌をおこないます。 ABC検診等でピロリ菌の有無がわかった場合、上部内視鏡検査を行わず、そのまま除菌することも可能ですが、その場合は自費診療となります。

制酸剤と抗生物質でピロリ菌を徹底除去

胃にピロリ菌がいることがわかり、胃粘膜の炎症が見つかると除菌をおこなうこととなります。 除菌の方法は、抗菌剤(抗生物質)2種類と、胃酸の分泌を抑える薬を一週間投与します。除菌が成功すると、胃炎や、潰瘍だけでなくがん化も防げると考えられています。一度の除菌でピロリ菌が除菌できない場合には、違う抗生物質を使って再度除菌をおこないます。

ピロリ菌は幼少期に感染した場合、10代20代には自覚症状は全くなく、30代40代で胃炎や胃潰瘍の症状が出だし、50代60代でがんへと進行するという長い道筋をたどる場合もあります。特に胃に関して自覚症状が無い状態であっても、さまざまな検査によってピロリ菌が見つかった場合には、どんな年齢であっても早期に除菌をおこなうことをおすすめします。

経鼻型の細径内視鏡で患者さんに苦痛を与えない検査を

細径の経鼻タイプの上部内視鏡の説明

当診療所では新型で直径わずか5.4ミリという細径の経鼻タイプの上部内視鏡を使用しています。上部内視鏡には経口タイプと経鼻タイプがあり、それぞれメリットがありますが、経鼻タイプのメリットは経口タイプと比べてのどにつかえたり、苦しい反射が少ないことにあります。また当診療所の内視鏡には粘膜下の血管の状況の確認やがんの発見を容易にするNBIという機能も装備されていて、より正確な診断が可能になっています。内視鏡自体のしなやかさも上がり、極細の径と合わせて随分患者さんの苦痛が少ないのもこの器機の特長です。

また、当診療所では、内視鏡検査での麻酔は鼻、のどへの局所でスプレータイプのものを用います。検査は意識下でおこなわれ、痛みや違和感はよくコントロールしていきますが麻酔でボーッとすることもなく、検査後も早く仕事や日常生活に戻ることが可能です。

以前は胃カメラといえば苦しい検査の代表のようにいわれたものでしたが、現在では患者さんが気軽に検査を受けていただける状況になってきています。何より、食道、胃、十二指腸の一部の状況を知るためには、医師が直接目で見て、組織採取もできる内視鏡以上の検査法はありません。ピロリ菌の有無はもちろん上部消化管に関する確実な診断のためにも、内視鏡検査を受けることをおすすめします。

内視鏡の挿入自体は約10分。予約から実際の検査までの流れ

内視鏡を鼻から挿入しての上部内視鏡検査の時間は約10分程度です。その前に鼻に麻酔を掛けるのですが、これが効くまでに30分程度。麻酔の効きが悪い場合は麻酔のかけ直しなどの対応もおこない、患者さんの苦痛ができるだけ小さくなるよう、ていねいに検査をおこなっていきます。概ね全体で1時間ほどの検査時間となります。

また、当診療所では内視鏡検査を希望される方には事前に肝炎や梅毒などの感染症検査も受けていただいています。まずは来院いただき、血液検査を受けていただき、内視鏡検査の予約をしていただくという手順です。

前日の夕食は早めに済ませ、遅くとも午後11時以降は飲食しないようにしてください。当日は検査が終わるまで飲食と内服は禁止です。但し、降圧剤を処方されている方は朝少量の水で内服してください。

検査時の注意事項はしっかり説明していきますので安心して医師の指示に従ってください。検査後はのどの麻酔がとれるまで1〜2時間は飲食を控えてください。検査のために空気で胃を膨らませますので、検査後おなかが張ることがありますが自然に治ります。

マンガの主人公に憧れて消化器外科の専門医に

私が医師になったきっかけは、誰もが知る有名マンガの主人公である天才外科医に憧れたからです。私は医師となってから消化器外科の道を選び、基幹病院でチーム医療に携わってきました。胃がんや大腸がん、膵臓がんから、胆石、鼠径ヘルニアといった病気まで、消化器の病気に数多く向き合ってきました。消化器外科の治療というと手術をイメージされると思いますが、手術の前の検査や、手術後の状況の確認など、内視鏡検査は欠かせないものです。また、開腹手術をおこなわなくても、胃アニサキス症や大腸のポリープなど、内視鏡でできる治療もあります。私は消化器の検査・治療に不可欠なスキルとして内視鏡の技術を磨き、専門医としての資格も取得しました。

病院でおこなっていたチーム医療から、開業医として単独でおこなう医療へ。患者さん一人ひとりにじっくり向き合えるこの仕事に今大いにやりがいを感じています。この地域の方々に、内視鏡検査を含め一番身近なまちの医師として、親しんでいただけるよう努力していきたいと考えています。