喘息(咳)の専門医インタビュー (草加きたやクリニック)

喘息(咳)

呼吸器のアレルギー疾患の専門医が考える最も有効なぜんそく治療のありかた

星加 義人先生

2017/03/23

MEDICALIST
INTERVIEW
20

  • シェア
  • シェア
  • LINEで送る

草加きたやクリニック
星加 義人 院長
Yoshito Hoshika

  • 日本内科学会 認定内科医
  • 日本呼吸器学会 専門医
  • 日本プライマリケア学会
  • 日本アレルギー学会
  • 日本旅行医学会
  • 医学博士
経歴

埼玉医科大学医学部卒業
順天堂大学大学院医学研究科博士課程終了 医学博士取得
順天堂大学医学部付属静岡病院
東京厚生年金病院 内科
東京都保健医療公社 東部地域病院 内科
順天堂大学医学部付属順天堂医院 呼吸器内科
越谷市立病院呼吸器科 医長
2016年6月『草加きたやクリニック』開院
順天堂大学呼吸器内科 非常勤助教

「家庭医」を目指して呼吸器系を軸とした幅広い診療に対応

受付

草加きたやクリニックは2016年6月に開院したまだ新しい呼吸器、循環器、アレルギーなどを幅広く診療する内科クリニックです。開業に際して私が目指したのは、専門である呼吸器疾患の対応するのはもちろんのこと、地域の皆さまが日常生活の中でかかる病気や、小さなケガ、健康に関するあらゆる困りごとに最初に相談していただく「家庭医」になることです。そのためには小さなお子さんから高齢の方までが安心して来院いただける親しみやすい雰囲気をつくることを心がけています。開院前に隣接した敷地にあった埼友草加病院の移転により、地域の医療体制に不安を感じていた皆さまにお応えできるよう、様々な診療に柔軟に対応していきたいと考えています。
また一方で、私の得意とする呼吸器に関する専門的な診療もおこなっており、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や睡眠時無呼吸症候群、禁煙外来などの治療も積極的におこなっています。中でもぜんそくに関しては遠方からも相談にいらっしゃる患者さんもいて、開院して短期間のクリニックながら、家庭医として、さらに呼吸器系治療の専門医として、幅広く認知いただいています。

誰もがなり得るぜんそくとは?実は多い日本のぜんそく死亡者数

院長 星加 義人

皆さんの周囲にもぜんそくで悩んでいる方がいらっしゃるではないでしょうか。またはご自身や家族にぜんそくの症状が出たり、治療をおこなっていると言う方もいらっしゃるはず。一般にぜんそくというと子どもがかがかるというイメージが強く、成長とともにおさまっていくものと考えられる方も多いと思います。これは小児ぜんそくと呼ばれる症状で、多くは子どものアレルギーに対する過敏反応から起こり、成長によってこの過敏反応がおさまっていき、自然と改善される場合が多いです。しかし最近は小児期から持続する例や一旦改善した後に再発例も少なくないことがわかってきました。また、ぜんそくはこの小児ぜんそくだけでなく、成人になって発症する成人ぜんそくもあり原因であるアレルギーが特定できない「非アトピー型」が多いとされています。インフルエンザや風邪などのウイルス感染、たばこ、ストレス、鎮痛剤の投与やその他の原因によって起こるものなど様々で、特に高齢者にとっては重症の場合、死に至るケースもゼロではありません。統計を見ると、日本のぜんそくによる10万人あたりの死亡者数は2.0人(2007年)と米国の1.3人(2004年)、フランスの1.2人(2005年)、ポルトガルの1.5(2001年)と比べて高いものとなっています。

ぜんそくの診断方法は?来院からぜんそく診断までの手順

星加院長

ぜんそくとは、気道が慢性的に炎症を起こし、呼吸に伴って「ぜいぜい」という喘鳴や呼吸困難、咳がおこる疾患のことをいいます。繰り返し起こる咳や運動時や作業時の呼吸困難、発作性の呼吸困難、胸苦しさ、夜間や早朝に出やすい咳などがその特徴です。風邪による咳との違いはわかりにくいですが、熱など、風邪の他の症状がなく、長期に咳が続く場合などはぜんそくを疑う必要があります。
「ぜんそくでは?」と診断を求めて当クリニックを来院される方は、この長く続く咳を患っていらっしゃる場合が多いです。診断の方法としては、夜間から早朝にかけて咳が起こりやすくないか、引っ越しや職場の異動、ペットの飼育開始など環境の変化はなかったかなど問診を詳しく聴き、症状が起こる時期が一致するようならぜんそくを疑います。冷たい空気を吸うなど、急激な気温の変化によって起こる咳もぜんそくの症状である可能性があります。
次に胸のレントゲン写真を撮影しぜんそくの症状を持つ他の肺の病気がないかどうかを調べます。問診などによってこれらのぜんそくの特徴と一致する場合、スパイロメトリーと呼ばれる機械を使い呼吸機能を測定し、その後ぜんそくの治療薬の一つである「気管支拡張剤」を吸入し、呼吸機能が改善するかどうかを調べます。また、血液検査でアレルギーの検査や喀痰検査などを行い、これらを総合して判断しぜんそくと診断します。

吸入ステロイドを用いた効果的な治療を実施

星加院長

ぜんそくの症状は気道の炎症によって、気道が狭くなり、咳や呼吸困難が起こるということは申し上げたとおり。この気道の炎症は気道の内側の上皮が剥がれて過敏になっている状況で、この部分への刺激によって気道が狭くなって呼吸のための空気を通りにくくしているのです。また、気道の炎症が持続すると気道の内側にコラーゲンの沈着による基底膜肥厚などを起こし気道のリモデリングと呼ばれる変化により気道壁が厚く硬くなります。これらが進行すると重症化、難治化していきます。
この炎症による気道狭窄に有効なのは「吸入ステロイド」です。ステロイドというと、強い副作用をイメージする方もいらっしゃると思いますが、現在のぜんそくを治療するための吸入ステロイドは、大変進化しており、以前の注射などで全身投与するタイプのステロイドと異なり、副作用も充分抑えられています。吸入スタイルとなっているのも、薬による治療効果が必要な気道や肺にのみとどくようにするためで、体の他の部分への影響はほとんどないよう安全につくられています。
アレルギーやその他の原因による炎症を抑え、咳を止め、呼吸をスムーズにしてくれる吸入ステロイドは、ぜんそくの治療になくてはならない薬です。当クリニックではぜんそくの治療をおこなう患者の皆さまに、その人に合った吸入ステロイドを十分な説明の上、処方しています。

受付

ぜんそくの悪化、再発を起こさないための継続治療を

日々の生活に大きく影響するぜんそくは、治療によって大きく改善することができます。当クリニックでも「1年近くも続く咳に悩まされていた」と語る患者さんに、吸入ステロイドによる適切なぜんそく治療をおこなったところ、ピタリと症状が治まり、「本当に楽に生活ができるようになった」と喜ばれた例が多数あります。小さなお子さんは保護者の方が注意していて早めに来院いただけるケースが多いのですが、仕事の忙しい成人や高齢者のほうが、長期間がまんされたり、放置されたりして、重症化してから診療を受けられる例が多いようです。ぜんそくに限らず、呼吸器の病気は早めの治療が効果的です。体の不調を感じたら、医師の診察をできるだけ早く受けてください。
そしてもう一つぜんそくの治療で大切なのが継続的に治療をおこなうことです。吸入ステロイドによる治療は、症状が出た時だけにおこなうのではなく、症状が治まっている間でも予防的におこなっていくのがぜんそく治療の鉄則です。よく症状がおさまったので薬を使うのを辞めてしまう患者さんがいらっしゃいますが、実はそれは再発、悪化してしまう危険性がとても大きいのです。症状が完全に治まってから3ヵ月程度様子を見てステップダウン(薬の量を減らす)していくのが一つの目安。その後症状が出ない最低量で長く吸入を続けることが重要です。
「もう症状が治まっているのに薬が必要なのか」というご質問を私自身もよく受けます。しかし、気道の炎症は薬によって緩和されているだけで、一朝一夕で治るものではありません。薬を使わずに放置すると、必ず再発、悪化という道をたどるのです。

薬剤師と連携した吸入指導を実施

星加院長

ぜんそくの治療には気管支を拡げる薬、アレルギーを抑える薬を前述の吸入ステロイドと併用していきます。症状の改善に伴って薬の種類を減らしていきますが、やはり大切なのは吸入ステロイドです。国内でぜんそくの治療に使用されている吸入ステロイドは患者さんに合わせて数種類あり、吸入器や容器も様々で、吸入する方法も違います。吸入した薬剤をしっかりと患部に送るためにはその薬に合わせた吸入法が必要で、小さなお子さんや高齢者など、強く呼吸ができない人の場合、時間や量を処方どおりに吸引しても、うまく吸引できず治療効果が得られていない場合もあるのです。
当クリニックでは私自身がそれぞれの吸入ステロイドの吸入指導をていねいに行うとともに、薬局にも連携していただき、薬剤師にも患者さんにわかりやすく、間違いのない吸引方法の指導を行ってもらっています。安全に適切に薬を患者さんに使用していただくことが、ぜんそくを快方に向かわせる一番の近道なのです。

禁煙でぜんそくが改善!たばこは呼吸器系疾患の大きな原因

ペットが原因であったり、ハウスダストなど生活環境が影響していることも多いぜんそくですが、ぜんそく患者さんで喫煙者の方は禁煙は必須です。実際当クリニックで治療中のぜんそくの患者さんで、禁煙の成功によって、ぜんそくの症状が大きく改善した方がたくさんいらっしゃいます。一度は寛解したと考えられていたぜんそくが再発するきっかけになるのもたばこの場合も多いです。また、喫煙者の家族、特にお子さんにぜんそくが出やすいのも事実。呼吸器に不安のある方には、薬や環境改善とともに禁煙が大変効果的であることをおぼえておいてください。