耳鼻咽喉科専門医インタビュー (なかむら耳鼻咽喉科)

耳鼻咽喉科専門医

1〜3歳児に多く発見が遅れがちの滲出性中耳炎治療のスペシャリスト

中村 真美子先生

2017/07/31

MEDICALIST
INTERVIEW
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なかむら耳鼻咽喉科
中村 真美子 院長
Mamiko Nakamura

  • 耳鼻咽喉科専門研修指導医
  • 耳鼻咽喉科学会専門医
  • 気管食道科専門医
  • 日本耳鼻咽喉科学会認定騒音性難聴担当医
  • 補聴器相談医
経歴
  • 1999年3月 獨協医科大学卒業
  • 1999年5月 獨協医科大学病院 耳鼻咽喉科入局
  • 2002年 下都賀総合病院(現 とちぎメディカルセンターしもつが)
  • 2003年 獨協医科大学病院 助手
  • 2004年 とちぎメディカルセンターしもつが
  • 2006年 とちぎメディカルセンターしもつが 医長
  • 2017年 とちぎメディカルセンターしもつが 退職
  • 2017年 なかむら耳鼻咽喉科クリニック 開院

土呂駅直近!小児から高齢者まで安心して受診いただける耳鼻咽喉科クリニック

人の持つ五感。そのうち聴覚、嗅覚、味覚の3つの感覚に関わる耳鼻咽喉科領域は一般的に感覚器疾患ともいわれています。耳鼻咽喉科は内科と比較して、そのまますぐに生命の危機につながるという疾患は少ないです。しかし、人が人として豊かに生活する(Quality of Life)ために必要な「3つの感覚」を健康に維持すること。さらに、声を出すという機能についても私たち耳鼻咽喉科が担当する領域です。人の話を聞いて、たくさんおしゃべりをして、歌を歌って、おいしいものを食べて、お花の良い香りでウキウキするというのは耳鼻科の病気があるとできないことなのです。

私が医師になろうと思ったのは高校生のときに映画「レナードの朝」を見たのがきっかけです。その物語に登場する患者の「豊かな人生」のために奮闘する医師に大いに感銘を受けました。そして大学で医学を学ぶ中で、私は全身管理をプロである内科よりも耳鼻咽喉科の局所診断のスペシャリストになりたいと思うようになったのです。
そして大学病院、地域の総合病院での勤務経験を経てこのクリニックを開院致しました。小さなお子さまから高齢者の方まで、安心して治療を受けていただける地域の耳鼻咽喉科を目指しています。大学病院では小児難聴外来を担当していましたので、お子さまへの対応も万全です。新規開院のクリニックながら、経験のあるメンバーにも恵まれました。総合病院では時間に追われてなかなかできなかった、一人ひとりの患者さまにしっかりと向き合う医療をおこなっていきたいと考えています。

突然やって来る激痛!急性中耳炎への対応法は?

一般によく知られている中耳炎といえば、急性中耳炎を指します。急性中耳炎が起こりやすい季節は冬です。これは中耳炎が風邪の菌によって起こることが多いためです。代表的なのは、肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌など。これらの細菌によって、中耳が炎症を起こし、膿が溜まることによって急性中耳炎が起こります。小さなお子さんに起こりやすく、細菌によるものなので、保育園、幼稚園、小学校など、集団生活の中で感染する場合が多いでまた、冬以外でも、プールや海水浴などで耳に水が入って起こす場合もあります。

中耳炎の痛さは歯痛と同じで人の感じる痛みの中で最も強いものの一つといわれています。しかも夜間、お風呂上がりの就寝前などに突然起こる場合が多く、対処を悩まれる患者さんも多いのではないでしょうか。特に小さなお子さんの場合は突然大泣きして、理由も言えないということもあり、親御さんにとっては慌ててしまうこともあるでしょう。お子さんが風邪気味のときに耳を痛がるそぶりがあったときはこの急性中耳炎を疑ってみてください。とりあえず夜間の急な痛みを止めるためには市販の解熱・鎮痛剤が効きます。またこの疾患は再発しやすく、一度急性中耳炎経験されたお子さんがいらっしゃるご家庭には小児用の鎮痛剤を常備されることをおすすめします。また急性中耳炎で耳鼻咽喉科を受診された場合は通常鎮痛剤も処方します。お子さんの場合、受診から半年以内であれば、成長による体重の増加も範囲内と思われますので、残った鎮痛剤をとっておいていざというときに使うのも良いでしょう。薬で急な痛みが治まるようなら朝まで様子を見て耳鼻咽喉科で受診してください。

自覚症状が少なく発見しにくい滲出性中耳炎に注意!

中耳炎にはもう一つ代表的なものとして滲出性(しんしゅつせい)中耳炎があります。軽い急性中耳炎の後などに、滲出液という水が中耳に溜まったままになってしまう疾患です。中耳とは鼓膜の内側の部分をいい、ここに鼓膜の振動を伝えて音を聞くための耳小骨という骨があります。中耳は耳管という管で上咽頭という鼻の奥の部分とつながっています。通常、中耳に溜まった滲出液などの水分は耳管から鼻に抜けていくのですが、この滲出性中耳炎の場合、この耳管からうまく滲出液を鼻に排出することができず中耳に水が溜まったままになってしまうのです。

滲出性中耳炎の特徴は急性中耳炎と違い、痛みがないことです。しかし、溜まっている滲出液は聴覚には影響していて、音が聴こえにくい状態になってしまいます。1〜3歳ぐらいのお子さんに多く、自覚症状が少ないため気がつかずにそのまま放置されていて、診察で初めてわかる場合も多いです。しかし、本人に自覚がなくても、耳がよく聞こえていませんので、小さなお子さんの場合、言葉の発育が遅れたりすることもあります。他の人よりもテレビのボリュームを上げたがる、呼びかけになかなか反応しないなどの症状が気になったらぜひ耳鼻咽喉科を受診してみてください。

お子さんの場合は、中耳から滲出液を排出する耳管のそばの上咽頭の部分にはアデノイドという器官があります。このアデノイドが耳管の出口を塞いでしまうことがあり、滲出性中耳炎を起こすこともあります。しかしアデノイドは5歳ぐらいを境にだんだん小さくなっていきます。このため滲出性中耳炎は成長とともに症状が改善していきます。しかし滲出液によって長期間中耳が満たされていると、鼓膜はその影響で薄くなり、中耳の内側の壁に癒着してしまったりします。こうなると、滲出液が排出された後も聴力に障害が残り、子どものころの滲出性中耳炎の影響で難聴になってしまうという事態も起こりうるのです。お子さんの将来のためにも滲出性中耳炎は早期発見、早期治療が必要な病気なのです。

急性中耳炎、滲出性中耳炎、それぞれのクリニックでの治療法は?

中村真美子先生

当クリニックに来院された場合の急性中耳炎の場合の治療は、抗生剤と鎮痛剤による薬物療法と、重症の場合は中耳にたまった膿を排出する手術療法の二つです。急性中耳炎の激しい痛みは細菌によって起こる炎症と、中耳に溜まった膿によって鼓膜や中耳が圧迫されることによって起こります。薬によって細菌をやっつけて痛みを抑え、鼓膜を切開して排膿経路を作ることで膿を外へ出して治りを早くします。
手術は鼓膜切開刀という注射針程度太さの極少・極細のメスを使って鼓膜の前下方の鼓膜緊張部の光錐(こうすい)と呼ばれる部分に穴を開けます。光錐とは鼓膜を診療用のライトで照らすと光って見えることからこの名前がついています。この部分は中耳の中の器官にも影響せず、安全に切開できます。また、切開する大きさもとても小さいため、切開後も聴力にはほとんど影響しません。また鼓膜は急速に再生しますので、通常1〜2週間で穴は自然に塞がってしまいます。
滲出性中耳炎の場合は耳管から鼻への滲出液の排出が上手くいかなかったり、鼻での滲出液の分泌が多かったりするために起こるので、初めは薬物療法で鼻水を抑える薬を処方します。また急性中耳炎と同じく、鼓膜を切開して滲出液を排出する手術をおこなう場合もあります。ただ、鼓膜は切開してもすぐに再生して切開部が閉じてしまうので、鼓膜の切開部分が塞がったあとに再び浸出液がたまってしまうこともあります。症状を繰り返す場合には切開した穴に鼓膜換気チューブという小さな穴があいたチューブを留置して穴を開いたままにして、中耳を換気する治療法もあります。これらで症状が改善しない場合は、前述のアデノイドを切除して滲出液の排出をスムーズにして治療する場合もあります。アデノイドを切除する場合は入院による治療が必要になりますので、大きな病院に紹介とさせていただくこともあります。

患者さんの心に寄り添う当クリニックでの医療

滲出性中耳炎は急性中耳炎より治りにくく、治療が年単位に及ぶ場合もあります。しかし自覚症状が少ないために、患者さんが自己判断で治療を止めてしまう場合もあります。放置したために時間が経ってから難聴に苦しむ患者さんもいます。患者さんに治療の意味を理解されないのは医師の十分な説明と信頼関係ができていないために起こると考えられます。私たちのクリニックではそんなことが起こらないように、スタッフ全員が患者さんの心に寄り添った医療をおこなえるよう心がけています。
予約制によって患者さんの待ち時間を極力少なくすることも当クリニックの診療方針の一つです。開院にあたって、事務2名、看護助手2名、看護師1名のメンバーがそろいましたが、ほとんどが耳鼻咽喉科の勤務経験者です。今回開院に当たって、あらためて接遇のプロの指導による研修もおこなっています。耳鼻咽喉科に多いお子さんの治療はもちろん、年齢、性別に関係なく笑顔で地域の皆さまの来院をお待ちしています。駅チカの医療ビル内の一院であることもあり、地域活動にも活発に参加していく予定です。また、開院と同時に入会させていただいた地元の大宮医師会には、その医療姿勢や地域に根ざす方針をぜひ見習っていきたい先生も多く、自分自身もその影響を受けてこれからも成長していきたいと考えています。

院内風景

真珠腫性中耳炎のお子さんの治療をおこなって

今回は急性中耳炎と滲出性中耳炎という二つの中耳炎について紹介してきましたが、中耳炎にはもう一つ、真珠腫性中耳炎という恐ろしい疾患がありますので、症例でお話しします。
これは私が大学病院での勤務医時代に経験した症例で、とても危険なものでした。冒頭で、「耳鼻咽喉科の疾患には命に関わるものはほとんどない」といいましたが、真珠腫性中耳炎はそんな耳鼻咽喉科の病気の中でも命に関わる可能性がある病気です。
真珠腫とは側頭骨にできる表皮性の嚢胞または仮性嚢胞を総称したものです。皮膚のような成分からできている腫瘤ですが、これが中耳腔内にできてしまうのが真珠腫性中耳炎です。真珠腫自体はがんではなく良性で皮膚のような成分なのですが、腫瘤が増殖すると周囲の骨を破壊して広がって行きます。ご存知の通り中耳の位置は脳のすぐそばです。真珠腫が大きくなれば、中耳と脳を隔てる骨まで破壊し、脳に達して命の危険があるのです。

私が担当することになったのは3歳の女のお子さんです。この病気は真珠腫をきれいに摘出して経過を観察する必要があります。小さいお子さんの場合はじめは真珠腫を取り除く手術を行い、再発がないかと聴力改善目的に2回目の手術を行い、なるべく聴覚を温存できるような術式を選択するのが一般的なのです。しかしこのお子さんの場合、側頭骨という頭の骨をかなり破壊していた大きな真珠腫であったため、頭のほうまで真珠腫が大きくなってしまう一歩手前の状態でした。一度手術を行いましたが、真珠腫はすぐに再発し、2回目の手術はオープン法という方法をとらざるを得ませんでした。命を失う危険は回避されましたが、片耳とはいえそのお子さんは生涯難聴が残ってしまうことになります。勤務医時代何百という手術をおこなってきた私でしたが、主治医としてこの決断にはやはり悔しい思いがありました。この真珠腫性中耳炎の発生頻度はそれほど高くない病気ですが、発見が遅れれば聴力を失ったり命に関わる場合もあります。滲出性中耳炎も含め、あなた自身やお子さんの様子がおかしいと思ったら、早めに専門医に相談してください。

患者さんにとって病気に大きいも小さいもありません。医師にとっては何度も経験している簡単な手術で「これば簡単な手術ですよ」と言っていても、患者さんからしてみれば「手術する」といわれて、自分の身に起こることに怖くないはずがありません。医師にとって難しい治療であるか簡単な治療であるかは、患者さんにとって関係のないことです。例え医師にとって小さな病気であっても、患者さんの立場に立って心に寄り添って治療していきたい。それが私がこのクリニックで一番大切にしている方針です。