小児科専門医インタビュー (いわさきしほ小児科)

小児科専門医

子育ての背景を知り、家庭ごとにアレンジした治療を提供。病気を治すだけでなく、育児不安を和らげる場所でありたい

岩崎 志穂先生

2019/04/09

MEDICALIST
INTERVIEW
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いわさきしほ小児科
岩崎 志穂 院長
Iwasaki Shiho

  • 医学博士
  • 小児科専門医・指導医
  • 周産期(新生児)専門医・指導医
経歴
  • 横浜市立大学医学部医学科卒業
  • 小田原市立病院、藤沢市民病院、松戸市立病院など
  • 横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター
  • 横浜市立大学医学部小児科(2008より准教授)
  • 2017年春 いわさきしほ小児科開業

アレルギーが形を変えながら現れるアレルギーマーチの子どもが多い

小児アレルギーを診ていてよくあるのが、アレルギー体質を持つ子が最初はアトピーのような皮膚炎を起こし、やがて喘息、鼻炎などに移行していくパターンです。赤ちゃんの時に皮膚で苦労している子を見ていると、成長に伴いゼイゼイし始めたり鼻がグズグズしてきたりしやすいです。もちろん、喘息だけ、鼻炎だけのアレルギーがあるという子もいます。
アレルギー体質が、一人の中で形を変えながら現れることをアレルギーマーチといいます。乳児湿疹がある子は食物アレルギーを起こしやすく、アトピー性皮膚炎や気管支喘息が起こりやすいと言われています。それがやがて大人の鼻炎のようなアレルギーに移行することもあります。ただ全員がそうなるわけではありません。

アレルギーマーチになる原因は、体質や環境要因が組み合わさっていると考えられています。ご両親がアレルギー体質だと子どももアレルギーになりやすいと思われますが、アレルギーにならない子もいます。環境要因については明確な原因がまだ分かっていません。日本はアレルギー患者が多い国です。もしかしたら日本のように清潔すぎる環境に原因があるかもしれないという意見もあります。まだ分かっていないことが多いのですが、生活の中のいろいろなものが原因となり、アレルギーを起こしているのではないかと考えられています。

家庭事情を考慮しながら治療方法をアレンジ、成長とともに治るケースも

このエリアは共働きの家庭が多いため、自宅で完璧にケアすることが難しいと感じています。多忙なご両親に難しいお願いをしても全部実行するのは大変です。そこで、ご家庭でどこまでならきちんとできるかをお聞きしながら、その子の症状・家庭環境に合った治療を組み立てています。
アレルギーの治療や考え方は頻繁に変わり、子どもの食物アレルギーについては特に意見が変化しています。私が医師になった頃は、アレルギーがある食材は食べさせないほうが良いと言われていました。しかし最近では定期的に食べさせた方が効果的だと考えられています。その時その時で何が正しいと言われているかを勉強していかなければ、きちんとした治療を行えないため、しっかり最新の情報をインプットし患者さんごとにアレンジしながら対応しています。 アレルギー治療で、薬をあまり使用してほしくないという親御さんも少なくありません。そのような場合、親御さんと相談しながら、どこまでならできるのかを話し合い治療方針を決めます。
小児アレルギーは成長に従って症状が改善していく子もいます。喘息と言われている子の多くは乳幼児期に治り、小学校に入っても症状が出る子は一部です。また、食物アレルギーも、0歳児の時はだめでも3歳になったら食べられたという例があります。アレルギー治療は対症療法なので根本的に治すものではありませんが、成長に合わせて良くなるケースも多く存在します。

親が神経質になり過ぎないことも大切

患者さんに接していて、親御さんが食物アレルギーに関して心配しすぎているケースが時々見受けられます。症状がないにもかかわらずアレルギーの検査を希望され、食べ物に対して神経質になっている方が少なくありません。そのため、不要な検査はしない方がいいという話や、食物アレルギーを心配してあれこれ制限すると、かえって育ちが悪くなる恐れもあるというお話をしています。
何に対してどれくらいの摂取でアレルギーが起こるかというのも人それぞれなので、一概に、無防備に全部食べなさいというわけではありません。しかし何も症状が出ていないのに心配し、例えば卵アレルギーの症状が出ていないのに、卵アレルギーになる子どもが多いからと卵を遠ざけてしまうと、かえって卵アレルギーになるリスクが高くなります。普通に生活していくことが必要です。

病気だけでなく、育児不安も含めた子育て全般をサポートしたい

長い間学病院に勤務していました。大学では患者さんの一番重大な疾患を治療し、日常診療は最寄りのクリニックにお願いすることが多いです。けれど、大学病院での診療では見えにくい生活の部分で悩まれている親御さんが多かったため、そこに関わりたいと思い開業しました。
大学で新生児医療に携わっていた際、病気ではなく障害があるわけでもない、コミュニケーションもきちんと取れる、けれど同じ年齢の他の子と比べて明らかに幼く勉強についていけないお子さんを持つお母さんに出会いました。そういう子に対してサポートがないことを悩まれていたのです。小児科は病気を診る科です。しかし、生活、家庭環境、子育て、全部まとめて診ていかなくてはいけないのではないか、開業したほうがそういったサポートができるのではないかと気づいた出来事でした。

私は診察の際、ご家族の生活スタイルをお聞きしています。それはお子さんが育つ背景を医師も共有したほうが、治療がうまく進みやすいと考えているためです。かつて新生児医療に関わっていたのですが、退院した後、深く悩まれる親御さんをたくさん見てきました。新生児の集中治療室に入っていた子は虐待される率が高いと言われています。そのようなことを減らす意味でも、医師も子育ての背景を知り、診療に役立てることが必要だと思います。診療するにしても家族形態や生活スタイルが分かっていないと、ご家庭でできること、できないことの判断ができません。どこまで食事や清潔環境に目が行き届いてるかや、昼間は誰が子供を見ているのかという情報を知っていれば、より効率的なアドバイスができます。

不安を感じたら小児科に来ていい、悪いなんて思わないでほしい

近くに相談できる人がいなくて、子どもが泣いたら連れてくるという方もいらっしゃいます。「連れてきてごめんなさい」と言われることも多いのですが、育児に関する不安を取り除けるような診療ができたらいいと思っていますので、謝る必要はありません。
また、発達障害を心配される親御さんも多く、相談されることが多々あります。子どもの成長や病気の可能性で悩むときも、気軽に相談していただければと思います。情報が氾濫しすぎ、相談しにくい世の中なので、不安を抱えている親御さんはたくさんいます。明らかな病気ではなく、親御さんの不安を和らげる目的でも良いので、小児科を利用していただければと思います。