精神科専門医インタビュー (アイさくらクリニック)

精神科専門医

原因不明の慢性の疼痛「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」を専門的に治療する精神科専門医

木村 昌幹先生

2017/11/10

MEDICALIST
INTERVIEW
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アイさくらクリニック
木村 昌幹 院長
Masamiki Kimura

  • 厚生労働省認定:精神保健指定医
  • 日本精神神経学会:専門医
  • 日本心身医学会: 専門医
  • 日本医師会:認定産業医
  • 日本抗加齢医学会:正会員

線維筋痛症は全身が痛む病気です

線維筋痛症についてインタビュー

痛む部位、痛みの度合いはさまざまです

アメリカのレディ・ガガさんが闘病中であると告白したことで認知されてきた線維筋痛症ですが、病気の概要についてはまだあまり知られていないのが現状です。線維筋痛症は、全身に広く痛みが生じます。痛みは常にあり、患者さんの生活に大きな影響を与えます。全身の痛みの他にも、関節痛など範囲が限られて痛むこともあります。痛みは軽度の場合もありますが、強く激しい痛みである場合が多く、とてもつらい病気です。

気温や天候などで傷みの強さが変わることもあります

痛みが始まるとき、痛みが強まるときのきっかけがある場合も多く、一日の中では朝に悪化する傾向が多く見られます。また、激しく運動したときや反対に全く動かなかったとき、疲労や睡眠不足などの身体的ストレス、悩み事などの精神的ストレス、大きなけがや病気の治療なども痛みのきっかけになります。

線維筋痛症は痛み以外にもこんな症状があります

痛みのために自律神経が乱れやすく、こんな症状が起こります

線維筋痛症の患者さんは、常に痛みを感じるため、自律神経のバランスが乱れやすくなります。自律神経は、活動時の交感神経と、休息時の副交感神経が交互に働いて体の状態を保っているので、痛みのために交感神経が優位な状態が続いてしまい、さまざまな悪影響が起こります。

交感神経が活動し続けるので、副交感神経が働けず、睡眠や食事といった休息が取れなくなります。不眠症状を抱える線維筋痛症の患者さんはとても多いです。他にも疲労や倦怠感、抑うつ症状も多く見られます。

他にもこんな症状が出ます

線維筋痛症の大きな特徴として、症状がとても幅広いことが挙げられます。身体症状、精神症状、神経症状、消化器症状、アレルギー症状などが現れ、患者さんそれぞれでも異なります。

身体症状としては、軽度から重度の疲労や倦怠感、発熱、口腔内や眼の乾燥、手足の指が腫れたりこわばったりする、寝汗が増えるなどがあります。動悸や体重の変動なども起こります。

精神症状では、不眠や抑うつ、不安感や焦燥感、集中力の低下などが多く見られます。意識障害や失神を伴う発作を起こすこともあり、注意が必要です。

神経症状には、頭が重たい感じや頭痛、震えやめまい、耳鳴りや難聴、まぶしさや見えにくさ、筋力の低下などがあります。

消化器症状では、腹痛や腹部膨満感、下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群の症状を訴える患者さんが多く見られます。各種アレルギー症状もよく見られます。

繊維筋痛症は他の疾患を伴うこともあります

線維筋痛症は、他の疾患を伴わないことが多いのですが、30%ほどの割合で、リウマチ性疾患などに合併して発症するとの報告もあります。基礎となる疾患に、関節リウマチや変形性関節症などの合併症は気をつけなければなりません。

男性よりも女性、中高年に多い病気です

繊維筋痛症は男性よりも女性、中高年に多い病気ことの説明

線維筋痛症は、以前からあるのですが、比較的新しく注目されている病気で、はっきりとした統計はまだとられていません。しかし、国内で200万人の患者数が推計されており、そのうち重症の患者さんは50万人いると考えられています。

線維筋痛症は、女性に多い病気で、男性1に対して女性5の割合で発症しています。欧米の報告では、男性:女性=1:8‐9と、さらに女性に優位な病気です。中高年に発症し、発症数のピークは55‐65歳です。しかし、子どもでも全体の4%ほどに発症が見られます。

血縁内で線維筋痛症の患者さんがいると、発症しやすいとの報告もありますが、直接的に遺伝的関係があるのではなく、物理的・精神的ストレスなどの環境要因が、大きなきっかけとなることが多いと思われています。

線維筋痛症は検査で異常が出にくい病気です

線維筋痛症は、痛みの原因が特定できず、診断に時間がかかることが多い病気です。痛みで受診すると行うことの多い検査には、レントゲンやMRI、炎症反応や筋電図、血液検査などがありますが、これらのどの検査でも異常が見つからないのが線維筋痛症です。

このため、発症してから病院やクリニックを転々として、診断を得られるまでに数年かかってしまう患者さんも多く見られます。線維筋痛症の痛みを生じるメカニズムに、脳の痛覚過敏が起きていて体の様々な部位の刺激が伝わると脳の中でそれを「激痛」として感じることが分かってきましたが、しかしまだまだ研究途上の病気です。

線維筋痛症は医師の間でもまだ十分認知されていない疾患です。

医師の間でもまだ十分認知されていない線維筋痛症について

痛みに対して行うレントゲンやMRIなどの通常検査では異常が発見されない線維筋痛症ですが、内科、リウマチ科、膠原病科もしくは心療内科や精神科などで診断を行うことができます。いずれも線維筋痛症に詳しい医師に診療してもらう必要があります。

 

  • ①全身の広い範囲で起こる痛みが3ヶ月以上続いていること
  • ②1週間のうちに3領域以上に痛みがあること
  • ③精神症状やしびれ・こわばり・乾燥症状(ドライマウス・ドライアイ)、耳鳴り、めまい、蕁麻疹、抜け毛、頻尿、レストレスレッグ症候群などのその他の症状が続くなどの特徴があります。

線維筋痛症の治療は薬物療法が中心です

まだまだ研究途上の病気であるため、線維筋痛症の患者さんにはこの薬、というような特効薬がまだ見つかっていません。これまでに線維筋痛症に効果があった薬は、線維筋痛症の薬ではなく、他の病気のために開発された薬が、線維筋痛症にも効果があったというものでした。近年、ようやく線維筋痛症の薬が保険適応承認を受けて、処方されるようになりました。

当院では、症状に合わせて健康保険の適応内で、主にリリカやサインバルタ、リフレックス、セレコックス、ノイロトロピンという薬で治療を行っていきます。注射や投薬は医療行為です。必ず医師の診察を受けていただき、医師と話し合って治療内容を決めていきます。

プレガバリン(商品名:リリカ)

リリカは、NSAIDs (鎮痛薬)などの今までの痛み止めとはちょっと異なった疼痛治療薬です。痛みを発する過剰に興奮した神経系に対して、各種の興奮性神経伝達物質の放出を抑制することで鎮痛作用を発揮します。世界105の国と地域で承認されており、日本では2010年6月に満を持して発売されました。線維筋痛症にも効果があると見込まれ、2012年6月に保険適応の承認が下りた薬です。(当院も治験に参加いたしました。)1日2回服用します。

デュロキセチン(商品名:サインバルタ)

抗うつ薬として知られている薬ですが、薬の効果で下行性疼痛抑制系を賦活化し、鎮痛効果も持っていると推測されています。2010年1月に「うつ病・うつ状態」の適応で承認され、その後、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」(2012年2月)、「線維筋痛症に伴う疼痛」(2015年5月)と適応が追加され、更に2016年3月に慢性腰痛症に伴う疼痛に対しても保険承認がおりています。(当院も治験に参加いたしました。)うつ病・うつ状態と疼痛治療に使用されている薬です。1日1回 朝服用します。

ミルタザピン(商品名:リフレックス・レメロン)

これまでのSSRIやSNRIとは全く異なる作用によって、飲み始めの1週目から効果を得られる新しい抗うつ薬でNaSSAと言われる新しい薬剤です。直接「ノルアドレナリン」や「セロトニン」を放出させる (作動性)作用と「セロトニン」を正しい受容体へ導く作用がある (特異的)があると言われています。日本でも線維筋痛症に対しての適応拡大の治験が行われ(当院も治験に参加いたしました。)、保険適応の承認待っているところです。

セレコキシブ(商品名:セレコックス)

セレコックスは、分類的にはロキソニンやボルタレンと同じ類型に属するNSAIDs(消炎鎮痛薬)です。しかし、痛みに関する酵素により選択的に作用するため、通常のNSAIDsに生じる胃腸障害や臓器障害がとても少ない新しいタイプの鎮痛薬です。痛みを抑える効果も強いため、大変期待が寄せられている薬です。1日2回服用します。

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名:ノイロトロピン)

ノイロトロピンは、通常の消炎鎮痛薬(バファリン、ロキソニン、ボルタレンなど)とは全く異なる作用があり、痛みを感じる神経の感受性を低下させることで鎮痛効果を発揮する薬です。他の消炎鎮痛薬のように胃腸障害や臓器障害を起こすことはほとんどなく、安心して長期でも使用できます。発売は古く、1976年です。しかし、最近になって難治性の痛みに対する効果が高まることが分かり、注目を集めています。飲み薬と注射があります。

ノイロトロピンの注射

3mlを腕に皮下注射します。当院では、注射の痛みが最小限になるよう、極細の注射針を使用しています。ノイロトロピン注射は、腰痛症、頸肩腕症候群、症候性神経痛、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、蕁麻疹)に伴うそう痒、アレルギー性鼻炎などには健康保険が適応されます。

ノイロトロピンの錠剤

1日2回、1回につき2錠を服用します。(1日4錠)
帯状疱疹後神経痛、腰痛症、頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、変形性関節症などの疾患に保険適応があります。

薬物療法以外にこんな治療も効果的です

運動療法

運動は​慢性疼痛、線維筋痛症にも効果が証明されています。動くときはしっかり動き、交感神経の働きを高めましょう、そうすると休息時の副交感神経の働きもはっきりと表れることができるようになります。低強度の有酸素運動が効果的です。有酸素運動により前頭前野の脳血流量増加、セロトニン活性やHPA(Hypothalamic-pituitary-adrenal)axisへの好影響、体力向上、気分転換、周囲からの評価の向上、自尊感情の高まりなどが医学的に確認されています。痛いからといって過度な安静は逆効果です。

認知行動療法

線維筋痛症の患者さんは、ストレスの影響を受けやすいことが分かっています。ストレスを解消するためには、ストレスの根源や考え方の癖を知り、より楽でストレスの少ない考え方に変えていくことも必要です。気持ちは考え方に影響されます、痛みがあると抑うつ気分が生じます、うつ状態だと痛みに対する閾値が下がることが知られています。考え方を修正することが出来れば痛みの感じ方も軽減されます。

生活習慣の改善と維持

運動、食事、睡眠がしっかりなされている、健康的な生活習慣に変えていきましょう。特に、夜間にしっかりと良質な睡眠をとることは脳と身体を休める事としてとても重要です。理想の睡眠は何時間睡眠を取ったかではなく、何時頃から寝たかの時間帯が重要です。早寝・早起きの習慣が痛みに強い体質を作っていきます。

線維筋痛症は心療内科・精神科へ

線維筋痛症は根治が難しいとされる難病ですが、適切な治療で症状をコントロールし、生活の質を上げ、社会復帰も可能にすることができます。思い当たる症状がある方はお気軽にご相談ください。

また、当院では患者さんの満足度向上のための取り組みも行っています。

遠隔診療

当院は福岡市の天神という、交通の便が良い場所に位置しているため、諸島部を含めた九州各地からも多く来院されています。しかし、遠隔地からの来院は患者さんにとって交通費や時間の負担が大きく、継続的な通院が難しいという患者さんもいらっしゃいました。そこで当院ではスマートフォンを活用した遠隔診療サービスを導入することにより、患者さんの負担を減らし、利便性の向上を図りました。

アイさくらクリニックはストレス社会の中で戦うあなたの心と身体のオアシスになれたらと思っています。線維筋痛症だけではなく、慢性疼痛・ストレス・うつ・あがり症・パニック障害・不眠・更年期・月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)・睡眠時無呼吸症候群などでお悩みの方、禁煙・プラセンタ治療などお気軽にお問合せください。