超音波専門医インタビュー (はぎクリニック)

超音波専門医

40代以下の女性にすすめたい、苦痛のない超音波検査による発見率の良い乳がん検査

羽木 裕雄先生

2017/10/24

MEDICALIST
INTERVIEW
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はぎクリニック
羽木 裕雄 院長
Hiroo Hagi

  • 医学博士
  • 日本外科学会認定登録医
  • 日本超音波医学会認定専門医
  • 日本超音波医学会認定指導医
  • 日本医師会認定産業医
経歴
  • 杏林大学医学部付属病院 外科
  • 稲城市立病院 外科
  • 至誠会第二病院 外科
  • 東京都老人医療センター 外科

湿潤療法と超音波検査で、地元だけでなく沿線地域からの来院も多い外科クリニック

羽木裕雄院長

はぎクリニックはJR中央線の武蔵小金井駅から徒歩1分という便利な場所に開業した、外科と超音波検査を中心に幅広い医療を提供するクリニックです。当院ではケガ・やけどの治療には“湿潤療法”を行なっています。消毒をしないためカサブタをつくらず、傷口から出る浸出液で湿った状態を保ち浸出液の中にある自己修復細胞による傷の回復が活発になります。ケガ・やけどを消毒して乾燥させるという従来の治療より傷跡が残りにくく痛みが少ないのが、この治療の特徴です。

私は超音波検査の専門医と指導医の資格を取得し、超音波検査を生かした外来診療を実践しています。

超音波検査は軟部組織や液体の描出に優れるため、腹腔内(おなかの中)の多くの臓器、乳腺や甲状腺、筋肉の状態等をチェックするのに有効です。その一方で、骨や空気を伝播しないため頭蓋内や肺や消化管の観察は困難です。

超音波検査は、受ける患者さんに苦痛を与えることが無く、検査用ゼリーさえあれば時間と場所を選ばず行なえるので、外来診察においてまずはじめに選択される検査の一つです。近年の機器の性能の進歩により、検査精度も上がっています。

当クリニックは、患者さんの不安を取り除きながら治療をおこなっていくことを目指しています。ご自身の病状や治療に関しての質問には、専門用語の羅列を避けわかりやすい説明を心がけています。

聴診器のように手軽に使えて侵襲性のない超音波検査の利点

羽木裕雄院長

CTやMRIという大型の検査装置は、大学病院や公立病院といった規模の大きな医療施設に設置されていることが多く、クリニックでは一般的でありません。一方、超音波検査装置は、多くのクリニックで導入され、活用されているため、患者さんにとって身近な検査機器なのではないでしょうか。機器自体がコンパクトなので、当院では外来診察室の片隅に設置し、いつでも検査できるようにしています。手軽で簡易な検査ではありますが、大型の検査装置よりも優れた点があります

その最大の長所が非侵襲性です。侵襲とは、検査によって起こる体への悪い影響(害)のことを指します。レントゲン検査やCT検査は放射線を使うため、検査を受ける人は微量とはいえ放射線に被曝してしまうため、侵襲性があります。MRIは放射線被爆が無い点では非侵襲性ですが、鎮静薬を投与して検査をするケースがあり、とりわけ鎮静化させた小児では呼吸抑制などのリスクを伴います。一般の方が超音波画像で真っ先にイメージされるのは胎児の画像ではないでしょうか。妊娠中の女性にも行えるほどに超音波検査は安全性において優れています。

また、色々な方向から観察することができるのも超音波検査の優れた点です。複数の臓器と隣り合う病変を発見した場合、どの臓器から発生したのかを確認することが重要です。リアルタイムに任意の方向から観察すれば、“病変がどの臓器と連続しているか”“病変がどの臓器と一緒に動くか”を確認することができ、病変の発生した臓器の特定が可能になります。さらに、病変を圧迫して周囲臓器との動きの違いを観察することで、病変の硬さや浸潤の範囲を知ることができます。貯留する液体を発見した場合には色々な体位を取ってもらい移動の様子を観察することで、サラサラした液体なのかドロドロした液体なのかを見きわめることができます。

超音波検査は医師、看護師、臨床検査技師、診療放射線技師が実施することができるため、様々な医療の現場で活躍しています。また、一般に予約の必要は無く、検査結果もその場(リアルタイム)でわかります。

精密検査には専門医による読影を

羽木裕雄院長

前述のように超音波検査は医師だけに許された検査ではないので、検者(検査担当者)と診断医(読影担当者)が異なることが多々あります。

検者は、見落とすところが無いようにプローブ(患者さんの体に当てる部分)を動かし色々な角度から観察をし、白黒の2次元画像を記録として残すのですが、プローブの動かし方は画一ではありません。観察されない場所があってはならないわけで、病変により様々の工夫が必要になります。診断の根拠となり得る質の高い情報を残すには、検者にそれなりの知識と経験が必要で、画像を正確に記録できる技量が求められます。もしも、検者が病変を見逃してしまい記録されなかったとしたら、どんなに優秀な診断医でも病変を指摘することはできません。

診断医は、検査された部位の正常像をイメージして読影を始めます。検査して得られた画像から立体像を頭の中に創り出し、予めイメージしていた正常像と比較することで異常を発見し、病変を読み取っていきます。診断にも経験が大きく影響するので、“病変が描出されているにも関わらず、病変を発見できない例がある”のも事実です。
優秀な検者が検査を担当し優秀な診断医が読影をするというのが望ましく、少なくとも検者と診断医のコミュニケーションがしっかり取れていないと正確な読影は困難となります。

『超音波検査は、殆どの病気の診断に非常に役立っており、しかも身体に優しい検査法として良くご承知のことでしょう。超音波検査は大変簡便な検査法なのですが、正確な診断や治療法決定には十分な知識と経験が必要です。日本超音波医学会では超音波医学を専攻する優れた医師を専門医として認定しています。』
《https://www.jsum.or.jp/specialists あなたの街の超音波専門医 日本超音波医学会 ホームページより》

院内風景

やりっぱなし健診に待った! 知っておいて欲しい超音波検査の受け方

健康診断(健診)を受けただけで判明する病気もありますが、病気を指摘されても自覚症状がなければそのまま放置してしまうのが大多数でしょう。健診で何らかの異常が見つかった場合は、その異常の原因を突き止めるのが望ましいのですが、実際どうすれば良いのか悩まれることでしょう。
採血検査データに異常がある方に検査をすることで、高率に胆石や脂肪肝が見つかります。ときに、肝硬変や膵臓腫瘍が見つかることもあります。
血尿を契機に腎臓結石はもとより膀胱癌が発見されることもあります。
閉経前の女性に貧血が見つかった場合、子宮筋腫が原因のことが多いので産婦人科での精密検査を勧められるかと思います。ただ、産婦人科での超音波検査は膣内に機械を入れて検査を行なうため、抵抗感がある方が多いと思われ「恥ずかしい・怖い・痛い」と言う声をよく耳にします。子宮筋腫は腹壁からの超音波検査で見つけることができることをご存知でしょうか?当院では、腹壁からの超音波検査で子宮筋腫の有無をチェックできます。

羽木裕雄院長

自覚症状がなくても病気が進んでいる可能性はあります。超音波検査はそんな無症状な時期の病変の発見に大いに力を発揮します。健診で異常があった場合の精密検査の方法として、とても有効です。

また腹痛の精密検査を希望して来院された患者さんに「明日検査しましょう」では患者さんの気持ちに寄り添えません。当院では、患者さんの状況に応じていつでも検査を行なえるようにしています。
とは言うものの、最良の条件で検査を受けるには“朝食を取らずに午前中に来院いただく”のが理想です。そして意外に知られていないのが、検査前に排尿しないで欲しいということです。来院直前に排尿される方がかなりいらっしゃいますが、検査する際に膀胱に尿が溜まっていると、女性の子宮や卵巣、男性の前立腺などの骨盤内にある臓器を観察しやすくなり、おのずと異常の有無の診断が容易になります。尿を溜める目安は2〜3時間ほどなので、診察予定の2時間ほど前に排尿し来院されるのがよいと思います。

繰り返しますが、超音波検査時は“空腹で尿が溜まっている状態”が理想です。検査直前の排尿はなるべく我慢してください。

40代以下の女性に有効な超音波による乳がん検査

羽木裕雄院長

食生活の変化などから乳がんにかかる女性が増えているのが、現代の日本の大きな問題となっています。行政主導の乳がん検診では、専らマンモグラフィー検査が行なわれていますが、検査に際し放射線被曝を避けられなかったり、乳房を板で挟むため痛みを伴ったりするので、抵抗を持つ女性がいる現状があります。しかし一方で40代以下の若い女性には、マンモグラフィー以上に超音波検査で乳がんを発見しやすいということはご存知でしょうか?

マンモグラフィー検査では、乳腺の豊富な乳房は白く映り、脂肪の多い乳房は灰色に映り、乳がんは白い影として映ります。超音波検査では、乳腺は白く映り、脂肪は灰色に映り、乳がんは黒い影として映ります。
一般的には40歳以下の女性の乳房は乳腺が豊富で、60歳以上では乳腺が乏しく脂肪が多くなります。
40歳以下の女性の乳がん検診では、超音波検査が“白い背景から黒い影を探す”のに対し、マンモグラフィー検査は“白い背景から白い影を探す”ことになります。メリハリのついた画像ほど読影が容易なのは明らかで、超音波検査の方が若年者の乳がんを見つけやすいと言えます。

当院でも超音波による乳がんの検査事例が増えています。超音波検査は放射線被曝が無く痛みを伴わないので、若い女性にも気軽に受けていただきたいと思います。

超音波検査による様々な疾患の発見例

超音波検査器

超音波検査は“守備範囲の広い検査”です。たとえば肝臓を観たいと検査をしたとして、胆のう、膵臓、脾臓、腎臓、その他諸々を同時にチェックすることができるので、思いもしない病変が見つかる場合があります。
当院では、近隣の医療機関(内科、産婦人科、耳鼻咽喉科)から精密検査を勧められて来院されたり、がんを疑われた患者さん自身がセカンドオピニオンを求めて来院されたりのケースが多く、肝臓病変、胆のう病変、膵臓病変、脾臓病変、腎臓病変、膀胱病変、前立腺病変、子宮病変、卵巣病変、消化管病変、乳腺病変、甲状腺病変、唾液腺病変などを診ています。当院で、悪性と診断した患者さんは、紹介元にお戻しするか、大学病院や公立病院等を紹介しています。

★『転倒により左脇腹を強く打ってから痛みが強いと40代の男性が来院されたときのことです。皮下や腎臓、脾臓などに出血や傷などの異常が無いかを検査するために超音波検査を行ないました。目的とした左側に異常は無なかったのですが、偶然に十二指腸の腫瘍を発見することができました。引き続き大学病院の後輩に診てもらい、手術を受け事なきを得ています。』

★『階段で転倒して、左下腿を強く打ったと10代の男児が来院されました。超音波画像からは“筋肉が裂け、出血した血液の貯まりが見て取れた”ので、公的医療機関の整形外科に治療をお願いしました。後日、「半日待たされて診察を受けたのに『異常ありません』と言われ帰された」と憤慨したご家族と共に再来され、やむを得ず当院で治療を継続したということがありました。』

★『私の友人の50代女性ですが、夜間に膣からの出血と下腹部痛がみられ某大学病院(杏林大学病院ではありません!)の救急外来を受診しCT検査を受けたところ「緊急性はありません」と言われ、十分な説明が無いないまま帰されたとのこと。帰宅後も同じ症状に悩まされ続け、来院されました。超音波検査を行なったところ卵巣がんを疑う所見だったので、先輩の産婦人科医にコンサルトをし公的医療機関の産婦人科で手術を受けることができました。早期の卵巣がんだったとのことです。』

前述したように、同じ検査を行なっても医師によって診断が違う場合があります。納得のいく施設で検査なり治療を受けるようにしてください。