認知症の専門医インタビュー (シニアメンタルクリニック日本橋人形町)

認知症

第二の認知症と言われるレビー小体型認知症の国内トップクラスの専門医

井関 栄三先生

2017/01/11

MEDICALIST
INTERVIEW
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シニアメンタルクリニック日本橋人形町
井関 栄三 院長
Eizo Iseki

  • 日本老年精神医学会専門医・指導医
  • 日本認知症学会専門医・指導医
  • 日本精神神経学会専門医・指導医
  • 精神保健指定医
  • 病理解剖認定医
経歴

1979年に新潟大学医学部医学科卒業、1983年に同大学大学院博士課程(脳研究所・神経病理学)を修了。1984年より横浜市立大学医学部附属病院神経科、常盤台病院、藤沢病院で精神医学の臨床研修後、横浜市立大学医学部・精神医学助手、米国留学後に講師を務める。

1993年横浜市立大学医学部附属病院・老人性痴呆疾患治療研究センター長、1997年横浜市立大学医学部・精神医学助教授、2000年横浜市立大学医学部附属病院・神経科診療部長を歴任。2004年からは順天堂大学医学部・精神医学助教授として順天堂東京江東高齢者医療センター・メンタルクリニック医長、2007年順天堂東京江東高齢者医療センター・PET/CT認知症研究センター臨床研究部門長に。2010年に順天堂大学医学部・精神医学教授に就任。2016年4月よりシニアメンタルクリニック日本橋人形町開業

老年精神医学・認知症を専門とするクリニック

シニアメンタルクリニック日本橋人形町の受付と待合室

当クリニックでは認知症やうつ病など初老期・老年期の精神疾患を診療の対象としています。患者さんの年齢は45歳以上。これらの精神疾患の特徴は、脳の加齢による変化が大きく影響しているところにあります。認知症はそんな初老期・老年期精神疾患の代表で、超高齢化社会となる我が国において、認知症医療の充実は喫緊の課題となっています。

当クリニックは、地域における老年精神医学・認知症の専門クリニックとして、患者さんとご家族に寄り添い、認知症の診断と治療に貢献するために、2016年4月に開業いたしました。

鑑別診断が重要な認知症治療

認知症には、もっとも広く知られているアルツハイマー型認知症(全体の50~55%)と、「第二の認知症」といわれ、近年注目されているレビー小体型認知症(全体の15~20%)、さらに血管性認知症(全体の10~15%)があり、この3疾患が3大認知症と呼ばれています。

認知症のインタビュー時の井関先生

このほかに前頭側頭葉変性症、特発性正常圧水頭症などがあり、認知症の治療を行うためにはこれらの疾患を鑑別することが重要です。また、認知症には前駆状態である軽度認知障害(MCI)があり、アルツハイマー型認知症に進行していくのか、レビー小体型認知症に進行していくのか、それとも加齢による自然なものかを鑑別診断することが非常に難しく、専門医としての知識と経験が要求される部分となっています。

早期治療のきっかけとなる本人、家族の気づき

クリニックの問診室

認知症とは「認知機能が後天的な脳の器質的障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障を来した状態」とされています。認知症治療において肝心なのは、その前駆状態である軽度認知障害、少なくとも認知症の初期のうちにを発見し、予防治療を行っていくことにあります。

よく「ちゃんと会話できているから大丈夫」「日常生活ができているから大丈夫」といった話を聞きますが、会話のつじつまが合わなかったり、日常生活に支障を来すようになっているとしたら、それは認知症がかなり進行した状態と考えなければなりません。 「これまでしていたことをしなくなった」「これまでとは様子がちょっと違う気がする」そんなご本人やご家族の「小さな気づき」が認知症の早期発見につながることが多いのです。

具体的には、忘れっぽい、言葉が出づらい、日付があいまい、計算が苦手、段取りができない、怒りっぽい、億劫がる、いないはずの人や小動物が見える、動作が遅い、周囲に配慮がない、性格が変わったなど。日常のちょっとした変化にご本人が気づかない場合はご家族の気づきが大切です。ご本人の気持ちに配慮して、プライドを傷つけないように受診を勧めてください。

現在当クリニックに通院されている患者さんの中には、軽度認知障害と診断されても日常生活では何ら変わりなく、仕事も継続して行われている方もたくさんいらっしゃいます。早期の診断と治療によって、認知症の進行を遅らせ、以降の生活をより良いものへと変えていくことができるのです。

アルツハイマー型認知症の前駆状態

アルツハイマー型認知症は最も頻度の高い認知症であり、一般に認知症としてイメージされているのはこの認知症で、それも進行した状態を指しています。アルツハイマー型認知症の前駆状態は、忘れっぽい、すなわち記憶障害で気づかれることがほとんどです。怒りっぽい、億劫がるなどの性格変化も初期からみられる症状ですが、認知症の前駆症状はであることは後から気づかれます。忘れっぽいことで専門医に受診することから、比較的早く気づかれやすい認知症だと思います。

特徴的なレビ−小体型認知症の前駆状態

レビー小体型認知症の前駆状態の特徴として、レム睡眠行動障害が上げられます。夜間睡眠時に大声を上げたり、激しく体を動かしたりする場合には、このレビー小体型認知症の前駆状態を疑います。また、においを感じにくくなるのもこの疾患の前駆症状の一つです。

レビー小体型認知症の本

レビー小体型認知症では、忘れっぽいなど記憶障害に加えて、いないはずの人や小動物が見えるなど幻視、歩くのが遅く転びやすいなどパーキソニズムが現れます。初期の記憶障害はアルツハイマー型認知症より軽度ですが、注意障害、構成障害、視空間障害、遂行機能障害などにより日常生活の支障が早くから現れます。

このレビ−小体型認知症においても早期の発見がその後の生活を大きく左右します。少しでも気になったら、できるだけ早く専門医に相談してください。

高度な知識と経験を要する認知症専門医

井関先生

私は横浜市立大学でレビー小体型認知症の発見者である小阪憲司教授(現名誉教授)とともに助教授として12年間にわたり同疾患を中心とした認知症研究に取り組みました。

さらに順天堂大学では、順天堂東京江東高齢者医療センターの精神医学教授として画像や神経心理を用いた認知症診療と早期診断のための臨床研究を行ってまいりました。国内においてもっとも広く知られる認知症専門医のひとりです。

認知症の前駆状態である軽度認知障害の段階で診断し、どのような認知症疾患に進むかを予測して適切な予防治療に結びつけるには、専門医としての高度な能力が不可欠です。しかし、専門の疾患以外に認知症も診ている多くのクリニックでは精神科、神経内科、老年内科の医師が多く、この中で認知症の専門医と呼べる医師はごく一部。まだまだ国内の認知症専門医の数は十分とは言えない状況です。当クリニックでは軽度認知障害など認知症の初期から、認知症が進行して対応が困難な場合まで、適切な診断と治療を行って患者さんとご家族に安心していただける医師とスタッフがそろっています。

まごころの診療と大学病院・外部検査機関との連携

クリニックの入り口

30年間にわたって大学での研究と臨床に携わってきた私は、より患者さんの近くで認知症やうつ病など初老期・老年期の精神疾患の治療に専念できるよう、このクリニックを開業しました。

当クリニックの理念は、患者さんとその介護に当たるご家族の方々に寄り添い、信頼関係を築くこと。認知症の診断・治療には、患者さんからもご家族からも「あの先生やスタッフになら安心して何でも話ができる」と感じていただくことが必要です。

診察には患者さんそれぞれの個性に応じて話題を変えてコミュニケーションを行っています。コンピュータやカルテをのぞき込むことより、まず患者さんと近い距離で、患者さんの顔を見て話をすること。訪れた時には不安でも帰る時には安心して帰っていただけることをクリニックのスタッフ全員が目指しているのです。

また、認知症の診断には神経心理検査と画像検査が欠かせません。神経心理検査は、大学病院で長く私と一緒に働いてきた信頼できる臨床心理士により当クリニックで行っています。画像検査には外部の連携病院との協力体制も欠かせません。画像診断も専門とする私にとって、日常的に行う頭部CTやMRI検査は連携する近在の画像検査機関で私の要望に応じた画像撮影を行ってもらい、私自身が診察しながら患者さんやご家族に説明しています。

また、現在も非常勤で勤務している順天堂東京江東高齢者医療センターとの連携も緊密で、脳SPECTやFDG PETなどを活用した高度な検査を依頼したときは、結果を私自身が当クリニックで説明し、臨床における最新情報の共有も活発に行っています。さらに、認知症に伴う合併症や、認知症が進行してご家族が対応困難な精神症状や行動異常(BPSD)のための入院治療もスムーズに依頼できます。

シニアメンタルクリニックの診察室

地域に根ざす認知症治療のクリニックとして

当クリニックが位置する人形町という街は、地下鉄が3路線集まる便利な場所です。そして昔ながらのおいしい食事ができるお店や、お土産もの屋さんがたくさんある誰もが訪れて楽しい街です。当初大学病院時代に関わった患者さんのフォーローを目的に、この場所を選びましたが、患者さんからは「あのお店がおいしい」「このお店が良かった」など周辺のお店の話題も上がり、当クリニックへの診察に楽しみにしてもらえるという効果も出てきました。

現在は医師会を通じて、認知症専門医の役割である行政を巻き込んでの「認知症ネットワーク」構築に取り組んでいます。地域包括支援センターで認知症の啓蒙のために一般の方を対象とした講演を行い、厚生労働省が認知症治療環境の充実に掲げる「認知症サポート医」や「かかりつけ医」への指導や「認知症サポーター」の養成などの講習会も行っています。認知症の早期発見、早期治療をおこない、患者さんやご家族の不安を取り除いて、その人にもっともふさわしい生活をおくっていただけるよう、地域社会の整備にも貢献していきたいと考えています。