うつの専門医インタビュー (つきじ心のクリニック)

うつ

うつの患者さんが快方に向かうには家庭や職場など周囲の人々の理解と協力が必要です

榊原 聡先生

2017/07/05

MEDICALIST
INTERVIEW
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つきじ心のクリニック
榊原 聡 院長
Satoshi Sakakibara

  • 精神保健指定医・判定医
  • 精神科専門医・指導医
  • 医学博士
  • 日本医師会認定産業医
  • 学会認定精神鑑定医
  • 国境なき医師団海外派遣医師
経歴
  • 旭川医科大学医学部卒業(1994年)
  • 北海道大学附属病院精神科勤務(1994-95年、1998-2002年)
  • 北海道大学大学院医学研究科卒業(2002年)
  • 北海道立向陽ヶ丘病院(網走)(1995-97年)
  • 札幌花園病院(1997-98年)
  • 国立十勝療養所(2002-03年)
  • 国立国際医療センター精神科(2003-04年)
  • 国境なき医師団(2004年:パレスチナ自治区、新潟中越地震にて活動)
  • 札幌トロイカ病院精神科副院長(2004-11年)
  • 東京都立松沢病院精神科医長(2011-17年)
  • つきじ心のクリニック開院(2017年)

完全予約制!心療内科・精神科などの心のケアをおこなう専門クリニック

榊原聡先生

私がこの築地の街にクリニックを開業しようと思ったのは、周囲にはたくさんのオフィスがあり、働く多くの方々に便利に利用いただける場所だということ。また、曾祖父が近くの新富町に住んでいて、先祖ゆかりの地であることも理由の一つです。この街に長くお住まいの地元の方々にも「心のかかりつけ医」として気軽に来院いただきたいと考えています。
私はこれまで長く患者さんの心の治療に携わってきました。しかし今でも心の専門科である心療内科・精神科の敷居は高く、必要な方々になかなか受診していただくことができません。「もう少し気軽に受診していただくことができていれば、早く良くなることができたはずなのに」と思う機会が少なくありません。私がぜひ受診いただきたいと考えているのは、精神的、心理的問題を抱えたサラリーマンや主婦などのごく普通の方々です。その方たちが無事に仕事や生活に戻る手助けをしたい。そんな気持ちからこの「つきじ心のクリニック」を開院致しました。
当クリニックは完全予約制で患者さんを極力お待たせしないようにしています。電話やWebで当日の予約も可能ですので、どうぞお気軽に受診ください。

「動悸がする」「眠れない」それは「うつ」の症状かも知れません

入り口

マスコミでも取り上げられ、今や社会的に広く認知される「うつ」という病気。しかし、うつには人によって様々な症状があらわれ、実は診断が難しい病気でもあります。仕事や日常生活で何らかの理由からストレスを感じてうつになる方は少なくありません。そのストレスを自覚して、自ら「限界だ」と感じて当クリニックのような心療内科に相談される方がいる一方、自分ではうつだと感じていなくても、「動悸がする」「眠れない」などの症状が起こり、実はうつになっているという患者さんもいるのです。
「突然動悸がするようになったので循環器内科に相談したら、異常が見つからないので心療内科で相談するようにいわれた」そんな患者さんがいらっしゃることも珍しくありません。また、心療内科に相談された患者さんで、実は心ではなく体の疾患が原因で不調を起こされている場合もあり、心療内科は他科との連携する場合が多い診療科でもあります。
体が原因であっても心が原因であっても、体の不調を放置することは決して良いことではありません。もし自分の不調が「心のトラブルのせいでは?」と思ったら早めに心療内科に相談することをおすすめします。そしてもしそれが体の不調が原因の場合でも、当クリニックでは他の医療機関へのスムーズな連携が可能です。

うつに起こる様々な症状と家族の方からの受診へのサポート

うつのときにおこる代表的な症状としては

  • 1.状況によって動悸がする、息苦しくなる
  • 2.夜中に目が覚めて眠れない
  • 3.食欲がなくなる
  • 4.口数が少なくなる
  • 5.元気がない
  • 6.怒りっぽくなる
  • 7.仕事や作業でミスを多発してしまう
    • などです。当クリニックに来院される患者さんの多くは20代から40代の働き盛りの世代で、男女の差はありません。自分の容量を超える仕事に追われ、生活のバランスを崩していらっしゃる方に多く見られます。先に家庭でその影響があらわれ、やがて仕事場でも支障を来すという傾向にあります。本人から自発的に専門医に相談いただければ良いのですが、心療内科への受診は敷居が高く、かなり悪化してしまうまでなかなか受診されないことが多いのが実情です。
      自らの心のトラブルにできるだけ早く対応するのはもちろんのこと、家族や周囲の人が気づいてあげることも回復のために重要です。もしあなたの家族に上記のような症状があらわれたら、本人の判断に任せるだけでなく、ぜひ心療内科への受診をすすめてください。
      もし、本人に受診への抵抗感があるようでしたら、「動悸がする」「眠れない」などの心が原因で体にあらわれた症状に具体的に対応できるのが心療内科なのだと説明してあげてください。本人にとってつらい症状を解決する方法があると考えると前向きに受診していただける場合が多いのです。

うつが起こる原因は?心療内科での患者さんとの向き合い方と家族受診のススメ

榊原聡先生

うつが起こる原因は、症状は同じでも人によって違います。性格的にもろい人や、こだわりの強く現実と折り合えない人はうつの症状が出やすいといわれています。また発達障害の人はその個性・特性で失敗を繰り返してしまうこともあり、それに対して指摘を受けると自信を失ってうつになってしまう場合もあります。例え同じようなうつ症状があらわれても、その背景にある原因は様々です。この原因によって周囲の人がとるべき対応法や治療法も変わってきます。どうしてうつが起こったのか、その人の性格や背景までを分析して、適正な治療をおこなっていくのが我々心療内科医の仕事なのです。
しかし、そうした適正な治療をおこなうために、心療内科では他の科のように検査機器を用いて病気を発見したり状況を知るということができません。患者さんとゆっくり向き合い、話をして、患者さんの状況を一つひとつお聞きしていくしか方法がないのです。患者さんが心に抱える本当の悩みは、たとえ専門医であっても簡単に聞き出すことはできません。本人が言い出しにくいこと、隠したいことを患者さんに代わって話せるのは、家族の方だけです。医師が治療を進めるためにもご家族のお話しは重要な情報となります。また、うつの患者さんを抱える家族の皆さまも対応に悩まれることが多いはず。もし患者さんの受診に家族の方が同伴いただければ、患者さんに対してどんな対応をしていくべきかも医師と相談していくことが可能です。患者さんの1日も早い回復のために、できるなら受診の際に、配偶者や親御さんなど、家族の方が同伴されることをおすすめします。

健康的な仕事と生活を取り戻すために。職場への対応も専門医への相談を

先に述べた通り、当クリニックに相談に訪れる患者さんの多くは仕事を抱えています。うつと診断されても、「仕事を休めない」「会社に迷惑を掛けられない」といって、休むことを拒む方が多いです。しかし、うつの治療に不可欠なのはまずは休業です。ストレスから心を解放することがうつの状態から抜け出す大きなきっかけになるのです。
うつは「気の持ちよう」や「心構え」でどうにかなるものではなく、医師に相談して治療を受けなければならない正真正銘の病気です。たとえば交通事故で怪我をしたり、胃潰瘍で入院することになったりしても、治療せずに仕事をし続けるという人はいないはず。うつの治療をせずにそのまま仕事をし続けるというのは、これと同じことなのです。仕事と病気の板挟みとなって、会社に言い出しにくい、上司から理解が得られないなどの状況の場合はぜひご相談ください。産業医としても活動している私は、患者さんの希望があれば診断書の提出はもちろん、職場での理解が得られるように、患者さんの所属する企業に状況を説明することも可能です。うつに対する企業の対応は大企業を中心に改善が見られますが、まだ対応が遅れている企業も多くあります。社会的に改善が進むよう、私も皆さまの職場に働きかけていきたいと考えています。

うつに対する薬物療法と行動療法のケーススタディ

榊原聡先生

うつの患者さんには診断によって薬剤を使った治療をおこなう場合があります。抗うつ薬にはいくつかの種類があり「不安を抑える薬」「睡眠をとりやすくする薬」など様々な効能を持っていて、患者さんに合わせて医師が処方していきます。薬への依存に注意して、医師の処方、用量を守って服用してください。一時に大量に服用したり、お酒と一緒に服用することはとても危険です。特にお酒はうつ症状にも睡眠にもよくありません。うつの症状が改善するまでは飲酒は避けなければなりません。
薬物療法とともにうつの患者さんがおこなうのが行動療法です。当クリニックで治療を継続中の30代の男性は、うつにより電車に乗ると動悸が激しくなるという症状で、会社にいくことができなくなりました。会社の協力を得られたこの男性は休職して治療をスタート。不安を抑える薬を服用しながら、徐々に電車に乗る行動療法をはじめてもらいました。その患者さんの自宅と会社との中間地点となる新宿まで電車で来られるようになるのに約半年、会社まで来られるようになるのに1年半を要しました。その間1週間に1度のペースで受診していただき、生活チェックをおこなってきました。現在は通勤ができるようになり、次は1時間勤務する、次は2時間というように段階を踏んで、いずれ完全な職場復帰ができるように治療を続けていきます。
いきなり治ることを目指すのではなく、抑うつ状態から日常生活に戻るまで一歩一歩進むのがうつの治療の基本です。このケースのように電車に乗る、職場で短時間働くなどの段階をクリアしていき、それが問題なくできることが患者さんの自信へとつながっていきます。その自信の積み重ねが、患者さんをもう一度健康な生活へと戻す力になっていくのです。