外科専門医インタビュー (横浜青葉そけいヘルニアクリニック)

外科専門医

そけいヘルニアに気づいたら 専門医による診断で病状を見極め 必要な場合は早期の手術を

田上 創一先生

2017/09/22

MEDICALIST
INTERVIEW
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横浜青葉そけいヘルニアクリニック
田上 創一 院長
Souichi Tagami

  • 日本外科学会 専門医
  • 日本消化器外科学会 専門医・消化器がん外科治療認定医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
経歴
  • 2002年 山梨医科大学(現:山梨大学)卒業、医師免許取得、河北総合病院
  • 2008年 長野市民病院
  • 2014年 川崎幸病院、湘南東部総合病院
  • 2016年 イムス富士見総合病院

そけいヘルニアの日帰り手術と一般外科の幅広い医療で地域に貢献

田上 創一院長

私はこれまで地域の総合病院で外科医として15年間勤務し、悪性腫瘍から良性疾患まで様々な手術を手がけてきました。入院が必要な場合、入院施設の整った総合病院で手術をおこないますが、現在では外科手術のための器具や設備、そして技術は格段に進歩しており、これまで入院が必要だった手術でも日帰りが可能になりました。入院の必要が無ければ、患者さんにとって身近なクリニックでおこなえる手術も増えてきています。

そけいヘルニアは、クリニックで日帰り手術をお勧めする疾患の一つです。当クリニックはそけいヘルニアをはじめ、日帰り可能な様々な手術に対応し、さらに咄嗟のケガや熱傷など一般外科の領域で、地域の皆さまに医療で貢献していきたいと考えています。

40代以上の男性に多いそけいヘルニアという病気

田上 創一院長

「そけい」とは、太ももの付け根の部分をいい、「ヘルニア」は体の組織の一部が本来あるべき場所からはみ出してしまっている状態をいいます。体の表面には皮膚があり、その下には皮下脂肪があります。腹部ではその下に筋膜と呼ばれる丈夫な筋肉の膜が形成されていて、さらにその内側に腹膜があり、その腹膜は腸などの内臓を覆っています。そけいヘルニアとは、本来筋膜の内側に納まるべき腹膜や小腸、大腸の一部、大網と呼ばれる組織が、筋膜の隙間から飛び出し、皮膚の下にはみ出して膨らんでくる病気です。女性の場合は卵巣が飛び出す場合もあります。初期には痛みもなく膨らみも小さいので、患者さん本人もなかなか気づかないこともあります。症状が進行すると2〜3cmのピンポン球大になり、異常を感じてはじめて医師に相談されるという場合が多いです。

腹圧によって腹膜が筋膜の外へと押し出されることから起こる病気ですので、立ちっぱなしの仕事をされる方、重い荷物を持ち上げたりすることの多い方、また妊婦の方にもよく起こります。そけい部の筋膜の衰えも関係していますので、40代以上の方に多く、男性の場合は、そけい部に胎児のときに精巣が体内から外へ出るために通る筋肉の隙間が存在していますので、女性よりも高い割合で起こります。便秘がちな人や、肥満気味で内臓脂肪の多い方にも起こりやすい病気です。

そけいヘルニアは「脱腸」と呼ばれることが多いです。腸がはみ出るイメージが強いですが、必ずしも腸がはみ出ている訳ではなく、時には腹膜だけがはみ出している場合や大網という腹膜内の組織がはみ出している場合もあります。

出たり戻ったりするそけいヘルニアにどう対応するべきか?

田上 創一院長

ピンポン球より大きくなったそけいヘルニアは、その内部に腹膜のほか小腸や大腸の一部がはまり込んでしまったり、その他の組織が入ってしまったりします。しかし横になってさすってみると、はまり込んだ腸や組織がまた体内に戻ることも多く、ヘルニアが出たり戻ったりしているこの段階では特に痛みもなく、緊急で治療をおこなわなければならないということもありません。

しかし、一度ヘルニアになってしまうと、自然に治ってしまうということはありません。腹圧などによって徐々に大きくなっていき、腸などがはまり込む可能性も大きくなっていきます。この病気で危険なのは嵌頓(かんとん)と呼ばれる状態に病状が進んでしまうことです。小腸、もしくは大腸がヘルニアにはまり込んで鬱血して抜けなくなり、壊死を起こしたり、腸閉塞を起こしてしまったりする状況のことです。嵌頓を起こすと、突然飛び出している部分が戻らなくなり、痛みも出はじめます。そして血流が悪くなることから急激に壊死を起こし、次第に激しく痛むようになります。腸閉塞を起こすと激しく嘔吐し、便もガスも止まってしまいます。こうなると病院で緊急手術をしなければなりません。少しでも痛みや腹部の違和感や不快感を感じたら、早期の治療をおすすめします。

また、そけいヘルニアは良性疾患ですので、悪性腫瘍の病気のように放っておくと進行して寿命が短くなる病気ではありません。ですが、嵌頓すると緊急手術が必要になり入院期間は長くなります。また、嵌頓を起こさずとも痛みがないまま時間の経過とともにヘルニアは大きくなっていきます。時々10年~20年そのままにされている方もいらっしゃいます。私自身ご高齢の方でバレーボール大にまで大きくなったヘルニアの患者さんを腹腔鏡で手術したことがあります。手術するかどうかはあくまで患者さんの判断になりますが、ご自身で日程を決められる早期にのうちに日帰りで手術することをお勧めしています。

再発率1%未満 クリニックで日帰りが可能なメッシュを使った各種手術

田上 創一院長

現在、そけいヘルニアの治療法は、メッシュを使った手術が一般的です。ヘルニアは前述の通り、筋膜の隙間から腹膜や他の組織がはみ出てしまう病気ですので、この筋膜の隙間部分にメッシュを敷いてふさぎ、腹膜が外に出ることを防ぐ治療法です。従来の手術はメッシュを使わず筋膜の隙間を縫い合わせる方法でした。しかしこの方法では、そもそもヘルニアを起こすほどに弱くなっていた筋膜が縫合に耐えられず、20~30%の高い割合で縫合した部分がはじけてヘルニアが再発してしまうことがありました。メッシュ治療が導入されてからは再発率が1%未満と大変優れたな結果を残しています。

このメッシュ治療をおこなう手術には「前方アプローチ」と呼ばれる開腹手術と、腹腔鏡を用いた「TAPP法」と「TEP法」の手術があります。

前方アプローチはお腹を3〜4cmほど切開してメッシュを敷きます。メッシュを皮下脂肪と筋膜の間に敷くか、筋膜と腹膜の間に敷くか、また患部から少し離れた場所を切開して鉗子を使って手術をおこなうか、患部を直接切開してメッシュを敷くかなど、前方アプローチの中でもいくつかの手術方法があります。

腹腔鏡手術は、TAPP法とTEP法がありますが、TAPP法が腹腔鏡を使って腹膜の中から手術するのに対して、TEP法は腹膜内に鉗子やカメラを入れず、筋膜と腹膜の間の腹膜前腔という部分に鉗子とカメラを通して手術をおこいます。

これら前方アプローチ、TAPP法、TEP法などの手術方法はそれぞれに利点と欠点を持っていて、患者さんの病状に合わせて選択する必要があります。当クリニックではこのいずれも日帰りで手術しています。またそけいヘルニアの手術は健康保険が適用されますので、患者さんの自己負担を低く抑えることができます。

院内風景

術後の経過が良好なTEP法

TEP法の最大のメリットは、切開する箇所が極めて小さいことのほかに、腹膜の内部に鉗子やカメラを入れないので、腹膜内に無用な癒着を起こさなくて済むということです。同じ腹腔鏡手術である、TAPP法は腹膜内に器具を入れることで、わずかではありますが癒着を起こすリスクがあります。

私はこのそけいヘルニアの治療法である腹腔鏡のTEP法を長野市民病院で6年間にわたって研鑽し、豊富な臨床での実践経験を持っています。長野市民病院は1996年の開院当初より、TEP法を導入していた病院で、国内でのTEP法の拡大拠点でもあります。

TEP法はいくつかあるメッシュ治療の中でもっとも術後の経過が良好な腹腔鏡手術です。しかし、それだけに適用は厳格で、ヘルニアの大きさが腹腔鏡で対応可能な大きさであること、前立腺など腹膜前腔に手術歴や癒着がないことなどが条件となります。また、鉗子とカメラを腹膜前腔という狭い場所で手術をおこなうため、手術をおこなう医師自身の手技や経験も重要です。

当クリニックではヘルニアの状態、そのほかの全身状態、手術歴などから適切な術式をご相談させていただきます。

緊急手術時ではメッシュを使えません

田上 創一院長

そけいヘルニアには大変有効なメッシュ治療ですが、嵌頓を起こし、緊急手術となった場合には使用できません。手術には必ず細菌やウィルスによる感染症のリスクがありますが、感染症に対抗するには、人が本来持っている免疫システムが正常に作用していることが必要です。白血球などの免疫が機能するためには、血液が患部に届いている必要があります。メッシュのような人工物にはもちろん血流はありませんので、メッシュが感染巣となってしまうのです。嵌頓により壊死や腸閉塞を起こした患部は、細菌感染などによってひどい状態になっています。そのような状態で人工物を挿入することはとても危険なことなのです。

以上のような理由から、緊急手術時にはメッシュ治療はおこなえず、従来の筋膜を縫合する再発率の高い手術をせざるを得ません。これらのことを考えても、そけいヘルニアは痛みが出る前にメッシュ治療による手術をおこなっておくことをおすすめします。

またTAPP法については、2013年以降多くの医療機関で導入されています。ですが、この手術法の急速な広がりに対して医師の熟練度が追いついておらず、統計上では再発率が若干上がってしまっている状況です。そけいヘルニアの腹腔鏡手術全体の中でTEP法の割合は20%前後とまだまだ普及しているとは言えない術式です。TEP法によるそけいヘルニアの腹腔鏡手術は、ぜひ経験豊富な専門医にお任せください。

当クリニックでは、神奈川県ではじめてオリンパス社製の4Kカメラを装備した腹腔鏡を導入しています。最新、最高水準の治療をぜひ当クリニックで体験してください。