内視鏡検査
患者さんが納得して受け入れるためのアプローチを心がける消化器専門医
2018/06/12
国領内科・消化器内科クリニック
高田 康裕 院長
Yasuhiro Takada
- 医学博士(慶應義塾大学医学部消化器内科)
- 日本内科学会 総合内科専門医
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本消化器病学会 消化器病学会専門医
- 日本内科学会
- 日本消化器病学会
- 日本消化器内視鏡学会
- 日本肝臓学会
- 経歴
- 平成13年 慶應義塾大学医学部 卒業 慶應義塾大学医学部 内科研修医
- 平成15年 慶應義塾大学医学部 内科専修医 埼玉社会保険病院(埼玉県)
- 平成16年 佐野厚生総合病院(栃木県)
- 平成17年 慶應義塾大学医学部 内科学(消化器) 助教 主に炎症性腸疾患の臨床と研究に従事
- 平成21年 日本鋼管病院 医局長、消化器内科医長
- 平成24年 横浜旭中央総合病院 消化器内科医長
- 平成30年 国領内科・消化器内科クリニック開設
バリウム検査VS内視鏡検査
内視鏡検査は、バリウム検査と対比して語られてきました。バリウム検査は影絵の原理で病変部を見つけるため、バリウムが重力に従ってうまく流れるようにする必要があります。そのためには、胃や大腸の空気の出し入れや、体位のポジショニングなど、実は非常に技術的に難しい検査です。また、検査時に意図をもって撮影をしない限り再現性が無く、後から振り返って診断をすることの出来ないリアルタイムの検査で、早期がんの発見には非常に難しい検査と言えます。指導する医師やバリウム検査のできる技師が減っているのが現状です。
一方、内視鏡検査は、内視鏡を挿入してモニターに映して見るという点では、非常に簡便な検査と言えます。研修医制度が導入されて以降、各専門機関における教育制度が充実し、早い時点から実際に内視鏡に触れられるようになったことが大きく、施設によっては、人体モデルを用いたトレーニングをしています胃の内視鏡に関していえば、器用な医師であれば3ヵ月程で、口から挿入して胃の中の全体を見て抜くといった一連の操作が出来るようになります。
大腸の内視鏡に関しても、3ヵ月~半年で、大腸の一番奥まで挿入して抜くという操作は出来るようになります。これには、ここ数十年で挿入法が確立してきたことに加え、スコープに硬度可変や受容湾曲といった機能が付加され、挿入性が向上したという両方の側面があります。内視鏡検査は、訓練された医師が、確立された手技により検査を行いますので、安心してお受け頂ける検査だと思います。
内視鏡による診断と治療法の確立
内視鏡検査で最も大きく変わったのは、早期がんの診断と治療法が確立されたことです。内視鏡システムに、拡大観察や特殊光観察が搭載されるようになり、病変部の血管や腺管構造を見ることができるようになりました。これによって、その病変部が腫瘍なのか否か、良性なのか悪性なのかといった、腫瘍そのものの性質までもが診断できるようになっています。以前はさまざまな見解が挙げられていた診断方法ですが、国立がんセンターを中心に、統一した基準を作る方向に進んでいます。
内視鏡の特徴のひとつに、検査と同時に治療もできるということがあります。大腸の場合、以前は5ミリ以下のポリーは経過観察ということになっていました。しかし、特殊光観察を含めた画像診断の進歩によって、がんになる可能性の高い腺腫と診断されたポリープは、5ミリ以下でも切除することがすすめられています。内視鏡でポリープを切除する際に、以前は熱凝固により切除と同時に止血をする方法が一般的でした。しかし、最新のコールドスネア切除法では、熱を加えないため切除の際に出血するものの、傷が治る過程で新生血管が起きないため、数日後の出血や穿孔などの偶発症が少なく、より安全に治療できるようになりました。
経鼻内視鏡に求められていること
内視鏡の進歩のひとつに、細いスコープの開発があります。最も細いと言われている最新のスコープでも、レーザー光源が搭載され、昔のハロゲン光源と比較して光量が強く、非常に明るく鮮明な画像になりました。また、カメラの性能自体も向上し、解像度も従来の経口用内視鏡と同等の画質が担保されています。さらに、組織採取が出来るようになったことで、一度の胃のスクリーニング検査で、組織検査まで出来るようになりました。
大腸の内視鏡検査とは異なり、胃の内視鏡で病変部が見つかったとしても、治療を行うことはありません。必要なのは診断目的の組織検査ということになります。経鼻内視鏡は、経口内視鏡で苦痛を感じていた方に、大きなメリットとなります。
直接臓器を見る検査で「がんを見逃さない」
内視鏡検査をおすすめする理由は、「がんを見逃さない」ことです。がんを見つける検査として、CT検査やレントゲン検査、前立腺がんなどでは優れた腫瘍マーカーがありますが、これらの検査でごく早期のがんを発見することは非常に難しく、見逃す可能性も否定できません。一方、消化器は直接内視鏡で見て、がんの早期発見、診断、予防、治療が出来る唯一の臓器と言えます。
内視鏡検査は、がんの発見に限らず、ピロリ菌感染や大腸ポリープの有無を確認することによって、その後の検査のプランニングを決めることが出来ます。胃がん検診は40歳、大腸がんは40歳以降に腺腫が増えると言われています。現在(2018年度)、調布市では、胃がんおよび大腸がんの内視鏡検診は取り入れられておらず、費用の問題も発生しますが、40歳あるいは45歳といった節目や、少しでも胃腸の不調を感じている方は、がんを見逃さないために、1回は内視鏡検査を受けることをおすすめします。
「苦痛の少ない内視鏡検査」をするという責任
最近の内視鏡検査では、苦痛を和らげるために鎮静剤を使用するのが一般的です。寝ている間に検査をするという方法もありますが、高齢の方では誤嚥性肺炎や、基礎疾患のある方では呼吸が弱くなるなどのリスクを伴います。意識下鎮静法と言って、意識があり、息を止めてくださいといった指示が分かる程度の鎮静が望ましいと考えています。
スコープの挿入も一度に限定することはありません。一度挿入しても、嘔吐反射が強く過敏な方の場合には、細いスコープに変えたり、挿入方法を経鼻に変更するなど、あらゆる手段を考えます。一度、辛い経験をして内視鏡に対して悪いイメージを持ってしまうと、その後内視鏡を受けられなくなることもあり、その方の「がんのリスクを上げてしまう」ことに繋がりかねません。「苦痛の少ない内視鏡検査をする」ということに、大きな責任があると考えています。苦痛が少なく楽な検査を受けていただき、かつ有害な事態にならないようにする、そのさじ加減が大切だと考えています。
内視鏡検査をうけるきっかけとピロリ菌
ピロリ菌感染は胃がんのリスクを高めることがわかっており、除菌が保険適応になって以来、ピロリ菌の検査がすすめられています。ピロリ菌に感染していることがわかると、抗生物質を使用して必ず除菌をしなければならないと思っている方も少なくありません。しかし、除菌と同時に、免疫やホルモンの生成に重要な役割のある腸内細菌叢も一掃され、腸内環境が一変してしまうことも忘れてはいけません。また、除菌によって腸の大量出血やアレルギーなど、リスクが無いわけではありません。
内視鏡検査では、ピロリ菌感染に特徴的な胃の所見が見られると同時に、胃炎の状態がわかります。ピロリ菌感染があり、粘液が増えて赤みが強い進行した胃炎が認められれば、すぐに除菌をおすすめします。しかし、感染しているからと言って、押しなべて除菌する必要はないと思っています。現在の胃の状態と除菌によるリスクを勘案して、治療の選択肢を提示し、除菌するかしないかは患者さんのご希望に沿うのが良いと思っています。
20代ぐらいの若い方は、ピロリ菌感染の世代ではありませんが、家族にピロリ菌感染で胃炎や胃潰瘍を患っている方がいる場合には、感染している可能性が高くなります。内視鏡検査を受けるひとつのきっかけとして、一度、ピロリ菌感染を調べてみると良いと思います。
納得した治療をお受け頂くために
炎症性腸疾患を専門に、長く消化器診療に携わってきました。クローン病や潰瘍性大腸炎などは特定疾患で、治療の難しい患者さんにも向き合ってきました。その中で、診療する上で心がけていることは、本来やるべき治療や検査を、患者さんに納得してお受け頂くようにしていることです。治療の選択肢を提示して、患者さんの判断で選んでもらいます。命の危険性や後遺症が残るような場合には、もちろん強く誘導しますが、受け入れられない場合でもその理由を考え、納得して受けてもらうというアプローチをすることで、患者さんは少しでも良い方向に進むと思っています。
今まで突き詰めてきた消化器の専門医としてだけではなく、町の一般内科医の役割として、検査から治療まで、このクリニックだけで完結することが望まれます。一方、患者さんのメリットを考える上では、必要に応じて線引きをして、他の専門医や大学病院に紹介するコンシェルジュになることも、必要だと思っています。
患者さんとの会話をとても大切にしています。専門性の高いことでも気軽に相談していただき、また専門外のことでも、私の持っている情報は惜しみなく提供していくことで、患者さんが幸せになればと思っています。
団塊の世代が全員75歳以上になる2025年、認知症患者が現状の約2倍に達する2045年を乗り越えて、長く地域の方々が健康で生きられるように、地域医療に貢献していきたいと思っています。