内視鏡検査の専門医インタビュー (まつもとクリニック)

内視鏡検査

検査の技術力と判断する診断能を磨き続ける消化器の専門医

松本 浩次先生

2018/06/29

MEDICALIST
INTERVIEW
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まつもとクリニック
松本 浩次 院長
kouji matsumoto

  • 医学博士
  • 日本消化器病学会専門医・指導医
  • 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
  • 日本肝臓学会肝臓専門医
  • 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
  • 日本外科学会専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会
  • 専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
  • 日本内視鏡外科学会技術認定医・評議員
  • 日本肝胆膵外科学会高度技能指導医・評議員
経歴
  • 1993年 昭和大学医学部卒業
    順天堂大学外科研修
  • 1995年 順天堂大学第2外科入局
  • 1996年 東京労災病院外科
  • 2002年 越谷市立病院外科
  • 2004年 順天堂大学肝胆膵外科 助手
  • 2007年 同愛記念病院 外科
  • 2010年 板橋中央総合病院(外科診療部長)
  • 2018年 まつもとクリニック開設

大腸がんの発がんリスクを抑えるには

日本の最近のがん統計によると、新たに大腸がんと診断された方(罹患)の割合は、男女とも増加しています。女性は1位の乳がんに迫る勢いであり、男性は喫煙や飲酒の影響もあり3位ではあるものの、増加傾向であることに変わりありません。大腸がんが増加している理由や、何が発がんに対して影響を与えるかなど、すべてが医学的に証明されているわけではありませんが、いくつかわかっていることもあります。

・食習慣の改善

大腸がんが増加している原因として、食事の影響があります。近年の欧米化した食事には、動物性たんぱく質や脂質成分が多く、胆汁と言う消化酵素の分泌が増加します。この胆汁に含まれる胆汁酸が大腸に長い時間留まっていることが、大腸がんの発がんを促すメカニズムであることが、医学的に証明されています。特に昔の食事と比較して、食物繊維の量が減っているため、胆汁酸が腸内に留まる時間が長くなることも原因のひとつです。動物性たんぱく質や脂質成分の量を少なくして胆汁酸を減らし、食物繊維を多く摂って便通を良くすると、大腸がんの発がん率が下がるということも明らかになっています。こうした現代の食事を完全に排除したり、食物繊維ばかりを摂るということは難しいことですが、できるだけ心がけて食生活を改善することが重要です。

・運動習慣

運動の習慣も、大腸がんを抑える方向に導くことがわかっています。運動をすると、身体に連動して腸の動きも良くなり、排便を促します。また大腸に限らず、心肺機能の向上や、脂質異常症や糖尿病など大腸がんのリスクとなる生活習慣病の予防、改善も期待できますので、定期的に体を動かすように心がけましょう。

・飲酒、喫煙

飲酒は、大腸がんの発がんに対して何らかの影響があると考えられています。しかし飲む量や習慣によって異なるため、その影響は確立されていません。一方、喫煙は明らかに大腸がんの発がんに影響があると考えられていますので、まずは禁煙ということです。

血糖値、血圧、脂質の値など、目の前の数値の改善に注目しがちですが、その先の発がんへの影響や、脳梗塞、狭心症といったさらに重篤な病気を予防することを見据えて、検査、治療をしていくことが重要です。

大腸内視鏡検査で大腸がんの芽を摘む

大腸がんの発がんには、2つのメカニズムがあります。ひとつは、大腸ポリープから大腸がんに進展するケースと、いきなり大腸がんが発がんするケースです。大腸ポリープには、過形成ポリープといって、放置してもがん化しないポリープもありますが、そのポリープが、がんになる可能性のある腺腫か否か、実際に目で見て見極めて切除することは、がんの芽を摘むことになり、非常に有意義な検査です。

さらに、内視鏡システムや診断技術の進歩の成果として、NBIという特殊な光を照射し、拡大内視鏡で詳細な観察が可能となり、ポリープの形態的な特徴はもちろん、その表面構造から腺腫の悪性度や、どの程度がんに近づいているかといった異型度なども、診断することができるようになりました。診断の結果、無理のない範囲で内視鏡的治療に挑み、完治することができれば、患者さんにとって非常に負担の少ない治療となります。その後の顕微鏡による組織検査などで、腹腔鏡手術や開腹手術など外科的な追加切除が必要になる場合もありますが、患者さんの負担がなるべく少ない治療法を順次選んでいくべきと考えています。

機械の進歩もさることながら、最も大事なことは、判断する医師の診断能です。そのためにも、学会や研究会に参加し、研鑚を積む努力が必要と考えています。

ピロリ菌感染は胃の内視鏡検査で

胃がんは未だ罹患数は多いものの、その発症の70%にピロリ菌が関わっていることがわかっています。それにより除菌の効果が広く浸透し、大腸がんと比較して相対的に減少傾向にあります。胃がんの場合は、大腸がんと違い、ポリープから胃がんに進展するケースは非常に少ないため、胃の内視鏡には、大腸内視鏡検査とは違った意義があります。ピロリ菌に感染している胃では、胃粘膜にピロリ菌感染が疑われる胃の表情が観察できます。ピロリ菌感染があっても、必ずしも胃がんになるわけではありません。一方、胃炎、胃潰瘍のほか悪性リンパ腫など、さまざまな病気の発症に影響があることもわかっています。そのため、日本ヘリコバクター学会や「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」で提唱されているように、ピロリ菌に感染していることが分かった場合には、除菌がすすめられています。呼気や血液検査でピロリ菌の抗体の有無を調べる検査などもありますが、最初は内視鏡による画像診断を受けることをおすすめします。

また、胃の内視鏡検査では、食道も観察することができます。胸やけなどの症状のみで逆流性食道炎と診断されるケースもありますが、胃液の逆流によって食道粘膜にどの程度の傷が出来ているのか、目で見て診断するには、内視鏡検査が非常に有用です。食道の粘膜に損傷のないNERD(非びらん性胃食道逆流症)でも、胸やけやげっぷなどの症状がある場合があり、症状と内視鏡所見の両方で診断することが、適切な治療に繋がります。

辛い記憶が残らない内視鏡検査をする責任

胃の内視鏡は、スコープが細くなり、カメラの性能や画質が向上するなど、技術的な部分は非常に進歩しています。しかし、どんなに上手に挿入しても、少なからず異物が入る違和感を覚えるのは否めません。当クリニックでは、技術的には経鼻内視鏡も行いますし、経鼻用の細い内視鏡を口から挿入する方法も行います。さらに、精神的な部分には、不安を取り除くために、希望があれば鎮静剤を使用するようにしています。不安を取り除き、辛いと言う記憶が残らない検査が、将来の検査をも可能にし、病気の方を一人でも少なくすることに繋がると考えています。

大腸内視鏡は、胃内視鏡検査と比較して技術的に高度で、500~1000件と言った経験が必要です。まず、挿入技術を習得した上で、お腹の張りや、スコープのしなりによって感じる痛みに対して、鎮痛剤を使用することを考えます。眠くならないまでも、痛みが和らげられることで、落ち着いて検査を受けられる方が多いようです。大腸内視鏡検査でも、不安を取り除くために鎮静剤を使用することがありますが、患者さんとの意思の疎通ができなくなることで、体位の変換がしづらくなったり、痛みの訴えが出来なくなるなど、偶発症が起こる場合があります。鎮静剤や鎮痛剤は、あくまでも患者さんの不安や検査への抵抗感を少なくするというのが目的ですので、それ以上に技術力や診断能を身に付けることの方が大事だという考えの元、日々努力しています。

内視鏡検査を受けるタイミング

内視鏡検査を1度受けていただき、その結果によって、以降の検査の時期が決まります。全く問題が無いと診断された場合には、2~3年に1回、また以前、手術を受けた方や、ポリープを切除した方の場合には、1年に1回は内視鏡検査を受けることをおすすめします。 長年、進行がん、特に肝臓に転移した大腸がんの手術に携わってきました。もちろん手術や術後の抗がん剤治療など積極的な治療は重要ですが、肉体的にも、精神的にも、経済的にも負担が大きいことも事実です。内視鏡検査には不安や痛み、下剤を飲む大変さなどが伴い、敷居が高いと感じている方も多いと思います。病気と検査を天秤にかけると、検査がいかに楽かということを多くの方にお伝えし、がんを未然に防いだり、早期に対応するために、クリニックを開院しました。 検査をして何もなくても、それは検査をしない方が良かったのではありません。検査をして何もないことを知るということが大事だと思います。是非一度、内視鏡検査をお受けいただきたいと思います。