在宅医療専門医インタビュー (しろき在宅クリニック)

在宅医療専門医

住み慣れた家で家族に囲まれて、という想い。家族みんなで見送ってあげたい、という想い。患者様と ご家族のそれぞれの想いを叶える在宅医療の専門医

白木 良治先生

2018/11/13

MEDICALIST
INTERVIEW
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しろき在宅クリニック
白木 良治 院長
Yoshiharu Shiroki

  • 日本在宅医学会認定専門医
  • 日本泌尿器科学会認定専門医
  • がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了
  • 日本泌尿器科学会
  • 日本在宅医学会
  • 日本死の臨床研修会
経歴
  • 大学卒業後、石川島播磨重工業株式会社(現社名株式会社IHI)に入社。5年間広報室に勤務し主にマスコミ対応を担当する。
  • 28歳の時、父親が脳内出血で倒れ半身不随となり、介護が必要となる。この時、医学の道に進む事を決意し、3年間の勉強を経て、鹿児島大学医学部入学を果たす。
  • 受験に際して、偶々鹿児島県に於ける訪問診療実習を体験し、在宅医療の必要性を認識する。
  • 平成22年3月に鹿児島大学を卒業後、在宅医療を意識しつつ、東京大学医学部附属病院泌尿器科入局。
  • 青梅市立総合病院泌尿器科 勤務。
  • 国家公務員共済組合連合会 東京共済病院泌尿器科 勤務。
  • 医療法人ゆうの森 たんぽぽクリニック(在宅医療) 勤務。
  • 平成30年9月 白木在宅クリニック 開院。

開業に至る経緯

私が在宅医療の道に進む決意を致しましたのは、2つのキッカケがあったからです。ひとつは父親が脳内出血で倒れ、半身不随の状態になってしまった事です。その時、在宅医というものの存在を知り、在宅医療の道を意識するようになりました。
その想いを更に深めたのが、鹿児島大学医学部受験に先駆けて経験した、訪問診療実習です。ナカノ在宅医療クリニックの中野先生に、教えを乞うつもりでメールを送ったところ、訪問診療への同行を許されたのです。在宅医療の実情を目の当たりにした事が、私の決意を後押ししてくれたと思っています。
より具体的に、在宅医療にとって必要とされる基礎を学ぶ事ができたのは、当クリニックの開院前に2年間勤務していた愛媛県のゆうの森たんぽぽクリニックでの経験でした。呼吸器科や麻酔科での技法の習得や倫理観を含めた在宅医療の理念など、この2年間に醸成されたものと自覚しています。

在宅専門

この地域の在宅医療の特徴としては、外来と在宅を平行して進める医療機関が多い、という事が言えます。私どものような在宅専門のクリニックは逆に少ないわけです。例えば、容態の急変があった場合、即時対応ができる、というのは大きな特徴かと思います。
在宅でできる事も増えています。エコーは小型化されていて、泌尿器を扱う場合ですと、腎臓のチェックなどもできるようになっています。心電図や採血、採尿なども在宅でできます。抗生物質の投与なども可能になりました。
何と言ってもICTの進化が大きいですね。これは医療の世界の呼び方で、一般的には情報技術=ITと呼ばれています。電子カルテはクラウドで繋いでいますし、携帯用プリンターを携行していますから、処方箋をその場でプリントアウトする事もできるんです。ご家族が不在の場合は、E-FAXといって薬局に送信する事で、薬を薬剤師さんに届けて貰う事も可能になりました。薬剤師さんが来てくれると残薬チェックなどもして貰えるので、とても合理的な仕組みだと考えています。

漢方薬への取組

在宅医療では主に高齢者の方が対象となります。その場合、複数疾患とそれに対応する薬の種類がどうしても増えてしまうこと、それに伴う副作用の事が悩みになります。薬は5剤までが上限とは、よく言われる事です。
薬はなるべく減らしたい、という事を基本に考えていますが、副作用の心配が比較的少ない漢方薬は上手に活用するようにしています。これも当クリニックの特徴と考えています。

胃ろうの管理

在宅で対応できる事のひとつに、胃ろうの管理があります。胃ろうは、カテーテルをお腹の中に取り付けて直接胃の中に栄養を送り込む栄養摂取の方法です。ご家族による手技としても確立しているので、一般化していると言えるでしょう。カテーテルには、バルーンタイプとバンパータイプとがありますが、当クリニックでは在宅でも交換が容易なバルーンタイプを主に使います。2~3ヵ月毎に交換します。バンパータイプは交換サイクルが半年から1年と長いのですが、病院に行って処置してもらわなければなりません。
胃ろうの導入については、ご家族の希望に沿って進めるようにしています。

点滴と酸素療法

基本的には在宅での点滴は極力しない方針です。特に中心静脈という太い血管に施す点滴は、抜去などのリスクもあり、在宅では避けるようにしています。行うなら末梢静脈ですが、点滴を投与する事で、患者様の食欲を減退させることがありますから、栄養は口から摂ってもらうことを優先しています。在宅での点滴は、むくみや腹水、痰などへの影響に注意する必要もあります。
一方で、在宅での酸素療法は普通に取り入れています。特に呼吸器疾患があって酸素がうまく取り込めない患者様などには有効です。器具を扱う専門業者と連携しながら対処しています。

医療機関連携

24時間対応の在宅医療にあっては、他の医療機関との連携がとても大切です。3大重要拠点があるのですが、病院、ケア・マネージャー、訪問看護ステーションの3つです。
病院は目黒地区ですと、東京共済病院や厚生中央病院、三宿病院、東邦大学大橋病院、東京医療センターという5つの大きな病院があり、日頃から連絡を取り合っています。急性期の患者様を受け入れて頂けるような体制を採っています。ケア・マネージャーの方とは午前、午後の連係プレーが決め手になります。重篤な患者様のところへは、2回伺う場合もあります。訪問看護ステーションやケア・マネージャーの方のオフィスは、この地域に120ヵ所くらいあるのですが、当クリニックの開院前に殆どのところに挨拶廻り致しました。
病院やクリニックとの交流も含め、地域の医療連携ネットワークの構築を強く意識してまいりました。

看取りのこと

当クリニックでは、「最期の時を住み慣れた自宅で迎えたい」と考える患者様、ご家族の希望に沿って、「看取り」のサポートをさせて頂いております。在宅医療に於ける「看取り」を滑らかに進める為には、患者様が感じる身体と精神、それぞれの苦痛を取り除いて差し上げなければなりません。
緩和ケアの一環として、身体的苦痛に対しては医療用麻薬であるオピオイドという薬を使う事があります。
痛みの程度や継続性など状況によって使い方を工夫する必要がありますが、私が開院前に2年間勤務していた愛媛県のたんぽぽクリニックで専門的に学んできた領域でもあり、得意としている分野です。精神的苦痛に対処する事は、更に困難なテーマですが、私共はいつも患者様に寄り添っている事で、安心を届けたいと思っています。
日本では、8割の方が病院で亡くなっています。家庭での「看取り」は我が国の文化として定着しているものとは言えません。家族の方にとって「死」は未体験の事であり、不安ばかりが募るのは当然の事だと思いますが、最期の時がどのように訪れるかを知って頂いた上で、「死」と向き合う為のサポートをさせて頂きます。
患者様ご自身とご家族がそれぞれ自然死というものを受入れ、最愛のご家族に囲まれながら、苦痛無く安らからに旅立たれることが当クリニックの願いであり、在宅医療の本質だと思っています。