小児神経専門医インタビュー (うさぴょんこどもクリニック)

小児神経専門医

しっかり社会生活が送れる大人を目指して 長い未来を見据えた診療を提供する小児科専門医

橋本 祐至先生

2018/12/18

MEDICALIST
INTERVIEW
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うさぴょんこどもクリニック
橋本 祐至 院長
Yuji Hashimoto

  • 日本小児科学会 専門医・指導医
  • 日本小児神経学会 専門医
  • PALS(小児二次救命処置法)プロバイダー
  • NCPR(新生児蘇生法)Aコース プロバイダー
  • JATEC(外傷初期診療ガイドライン)プロバイダー
  • 元DMAT(災害時派遣医療チーム)隊員
経歴
  • 2000年 富山医科薬科大学(現 富山大学)卒業
           千葉大学医学部附属病院小児科
  • 2001年 東京都立墨東病院小児科
  • 2002年 松戸市立病院新生児科
  • 2003年 千葉県立東金病院小児科
  • 2004年 千葉大学医学部附属病院小児科
  • 2005年 千葉県立佐原病院小児科(千葉県こども病院神経科兼務)
  • 2006年 成田赤十字病院小児科(新生児担当)
  • 2007年 帝京大学ちば総合医療センター小児科
  • 2008年 千葉市立海浜病院小児科
            10年間てんかんをはじめとした小児神経疾患、小児救急疾患、小児一般診療に従事
  • 2018年 3月 千葉市立海浜病院小児科 退職
         5月 うさぴょんこどもクリニック 開院

長年、二次救急医療機関で小児神経専門医として小児科診療に携わっていると、小児のてんかん患者さんを診る機会が自然と多くありました。小児のてんかんには、抗てんかん薬で容易にコントロールできるタイプのものから、抗てんかん薬による効果が乏しい難治性のタイプまで様々なケースがあります。小児のてんかんの、その予後や治療について解説していきます。

「てんかん」とは

院長

てんかんとは、「大脳の神経細胞に激しい電気的な興奮が起こり、そのために過剰な電気が発生してしまうことで、繰り返し発作(てんかん発作)をきたす疾患」と定義されています。原因にはいろいろなものがあり、小児のてんかんの場合、成人になる前に治るものもありますが、一般的には年単位で、長くお付き合いする病気です。小児のてんかんの患者さんは成人より多く、100人に1人ぐらいと言われています。意外に多いという印象だと思います。抗てんかん薬でコントロールすることで、一見てんかんでない方と同じように普段の日常生活を送っている患者さんが多くいるということが、その理由だと思います。

小児期に発症するてんかん

診察室

小児のてんかんで最も多いのは、1歳までに発症するてんかんです。その大部分は、てんかん発作を引き起こす明らかな原因が存在するてんかんで、「症候性てんかん」と言います。その原因としては、周産期障害、先天性の脳形成異常、てんかん性脳症、染色体異常、先天性代謝異常、神経皮膚症候群など様々なものがあります。いずれも、抗てんかん薬でコントロールすることで、ある程度てんかん発作を抑えることはできますが、原因となっている疾患が治ったという訳ではありません。そのため、長期的に抗てんかん薬が必要になります。原疾患からくる知的障害を伴うことも多いのが現状です。 一方、「症候性てんかん」がてんかんの原因となる病変や原因があるのに対し、脳のMRI画像検査や各種検査で明らかな原因が認められない「特発性てんかん」があります。特発性てんかんは、幼児期から学童期に発症するてんかんに多く、ある程度決まった年齢でてんかんを発症します。発作は比較的容易に抗てんかん薬で抑えられ、年齢と共に徐々にてんかん発作が起こらなくなり、最終的には成人までに抗てんかん薬を中止できることが多いのが特徴です。
中でも、小児で最もよく遭遇する特発性てんかんに、4~9歳頃に好発する「中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん(ローランドてんかん)」があります。「中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん(ローランドてんかん)」は、ほとんどが入眠期や朝の起きがけの睡眠中など、覚醒と睡眠の移行期に発作が起こります。発作型は、片側の顔面のけいれんで、よだれが多くなり、意識は保たれていても声がうまく出せない発語不能となることがあります。そのまま自然に発作が止まることもありますが、全身性のけいれんに移行することもあります。脳波は、頭の中心・側頭部にローランド波と呼ばれる非常に特徴的な脳波異常を認めるため、比較的容易に診断することができます。発症当時は脳波異常が認められても、年齢が上がるに従って脳が成熟し脳波異常が認められなくなると、自然に発作は起きなくなり、大部分の患者さんでは、抗てんかん薬を中止することができます。
その他に、下記の特発性てんかんもしばしば遭遇します。
「Panayiotopoulos(パナイトプロス)症候群」:3~6歳頃に発症することが多いてんかんです。発作は睡眠時に多く、悪心や嘔吐ではじまり、その後、眼球偏位を認めた後、全身性または片側の発作、または脱力して意識障害をきたしているような発作を起こし、しばしば30分以上持続するような重積発作をきたします。脳波では、後頭部領域に、脳波異常を認めます。多くは3年以内に軽快するため、抗てんかん薬を中止することが可能です。
「小児欠神てんかん」:4~10歳頃に発症するてんかんで、覚醒時に10秒程度、突然反応がなくなります。倒れたりすることはありません。最初は、ボーッとしている子と言われますが、頻回になってくることで受診されます。バルプロ酸という種類の抗てんかん薬によく反応します。年齢と共に発作は起こらなくなることが多いです。

もちろん、幼児期から学童期に発症するてんかんが、すべて特発性てんかんではありませんので、抗てんかん薬で発作は抑えられるが中止することができない場合や、抗てんかん薬の反応が乏しく難治性の経過をたどるてんかんも多く存在します。

てんかんを分類する意義と先の見通し

診療室

無熱性けいれんを繰り返し、明らかにてんかんを疑わせる状態であれば、脳波検査、頭部画像検査(MRI検査)が重要になります。こうした検査で診断をつけて、てんかんを詳細な分類に当てはめるということは、治療の方向を決めるためだけでなく、先行きを見通すためにも非常に大事なことです。できるだけ詳細な分類に当てはめられるように検査をするわけですが、すべてのてんかん患者さんを、きれいに詳細な分類に当てはめるのは現実的には難しいこともあります。そこで、てんかんを前出の「症候性てんかん」と「特発性てんかん」の2つと、全身のけいれんではじまる「全般てんかん」と意識減損のみや部分的なけいれんではじまる「局在関連性(焦点性)」の2つで、大きく4つに分類し、どのカテゴリーに入っているかによって、おおよその予後を見通すことができます。この4つに分けた分類をてんかん類型分類と言います。

  
局在関連性(焦点性) 全般性
特発性
  • 中心・側頭部に棘波をもつ良性小児てんかん
    Panayiotopoulos症候群 など
  • ほぼ100%寛解
  • 小児欠神てんかん
    若年性ミオクロニーてんかん など
  • 80%寛解
症候性
  • 前頭葉てんかん
    側頭葉てんかん
    後頭葉てんかん など
  • 50~60%寛解
  • West症候群
    Lennox-Gastaut症候群 など
  • 20%寛解
    (多剤併用、知的障害が多い)
 

例えば、脳波は異常があったけれど、頭部のMRIは異常がない、知的にも正常、2~3回全身性のけいれん発作を繰り返したものの抗てんかん薬で治まっているという場合、特発性で全般性の可能性が示唆されます。抗てんかん薬の内服で、けいれんが抑制されると、それ以上の情報は得られないため詳細な分類には至りませんが、抗てんかん薬で発作をコントロールしていけば日常生活には支障がなく、てんかん類型分類から将来的には減量・中止の可能性が高いといった先行きを予見することができます。もちろん、予後があまり思わしくないカテゴリーに分類される場合もありますが、治療の方向性を示す上では非常に重要なことだと考えています。
抗てんかん薬でなかなか発作がコントロールできないなどの場合には、解像度の良いMRIでの再検査、脳の血流や糖の取り込みをみる検査(SPECT、PET)、ビデオ脳波同時記録による発作時脳波検査など、さらに進んだ検査を行い、てんかん外科(手術による治療)の適応がないかの評価を行うことが重要です。

薬物療法は確実、かつシンプルに

クリニック

てんかんの治療は、抗てんかん薬による薬物療法が中心になります。一般的に、1人のてんかん患者さんに起こる発作型は1つであることが多いです。抗てんかん薬は、1つの発作型に対して1薬剤を使用するのが原則のため、まずは単剤によるコントロールを目指します。最初に選択した抗てんかん薬で発作が抑えられない場合、抗てんかん薬の効果を判断するために、まずは抗てんかん薬の血中濃度を指標に、最大用量まで使用して効果について評価するようにしています。それでも効果がなければ、そこではじめて薬を変えることを検討します。実際には1発作型でも2~3剤併用しなければ発作が抑えられない場合もありますが、発作が抑えられた場合に今まで使用していた抗てんかん薬を減量することができないかを必ず検討するようにし、できるだけシンプルな処方を心がけています。ご家族としては、やっと発作がコントロールできるようになったため、薬を減らすということに躊躇される方もいらっしゃいますが、数種類の薬を服用することの弊害もあります。発作をコントロールすることはもちろん重要ですが、日常生活もしっかりできるようできるだけ最小限の薬となるような治療をおすすめしています。
各種の抗てんかん薬を使用しても、発作を十分コントロールすることができない場合は、てんかん外科手術の可能性を検討します。最近のてんかん診療ガイドラインでは、3剤程度の抗てんかん薬で発作をコントロールができない場合は、早めに検討するべきと述べられています。てんかん外科手術までの期間が長期になるほど認知機能が低下するという報告もあり、以前に比べて発症早期からのてんかん外科の検討が必要とされています。

小児科から内科への橋渡し

受付

特発性てんかんは、多くは思春期頃に自然と発作が起こらなくなり、抗てんかん薬を減量・中止できることが多いですが、実際には抗てんかん薬の継続が必要で、薬を服用しながら成人になる方もいます。一旦、社会に出てしまうと、医学的には抗てんかん薬の減量・中止が可能と考えられる患者さんでも、仕事・車の運転などの社会的な背景から、なかなか抗てんかん薬の減量・中止にチャレンジすることが難しいというのが現実ではないでしょうか。患者さんが社会に出るまでにどうしてあげられるのか。可能な条件が揃えば、社会に出る時期から逆算して、一度減量・中止をチャレンジできるタイミングを考えてあげるようにしています。目の前の1回の発作を怖がって減量・中止にチャレンジせずに、漫然と服用し続けることは決して良いことではありません。もっと長い人生の先を見据えて、減量・中止にチャレンジすることも大事だと考えています。もちろん、抗てんかん薬を中止して社会に送り出してあげられればベストですが、抗てんかん薬を止めると発作が起こる場合には、薬を内服し続けなければいけないという治療方針を決めてあげることも、その後の患者さんの人生を考える上で非常に大切なことだと思っています。 いつまで小児科で診てもらえば良いのか。実際、私も大学生や社会人の方で現在もずっと診ている方もいますが、30~40歳になると成人に特有の病気が出てくることもあるでしょう。いつからといった線引きをする必要はありませんが、社会に出る時や転居する時など、何かの機会に内科領域に繋げていくことも、小児科の役割だと考えています。

小児科専門医として地域に貢献

長年携わってきた地域の中核病院における小児科診療では、紹介状を持参し、重症度が高いであろうことが事前にわかっていましたので、構えて患者さんを診ていました。一方、地域のクリニックでは、風邪をはじめとした一見軽症と思われる患者さんの中から、重症な病気の方を適切にピックアップしなければいけません。これは意外と難しいことだと感じていますが、やりがいも感じますし、地域の小児科専門医の使命だと思っています。