耳鼻咽喉科専門医インタビュー (みのり耳鼻咽喉科)

耳鼻咽喉科専門医

鼻、口、のど、耳、アゴなどの疾患に幅広く対応する、頭頚部腫瘍のエキスパート。

須田 稔士先生

2019/04/09

MEDICALIST
INTERVIEW
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みのり耳鼻咽喉科
須田 稔士 院長
Toshihito Suda

  • 医学博士・学位取得(東京慈恵会医科大学 3038号)
  • 日本耳鼻咽喉科学会専門医取得(第11613号)
  • 耳鼻咽喉科専門研修指導医登録(421号)
  • 補聴器適合判定医師研修修了(厚生労働省主催 2729号)
  • 頭頸部がん専門医取得(276号)
  • がん治療認定医取得(11100721号)
  • 緩和ケア研修会修了(厚生労働省指導)
  • 医師臨床研修指導医講習会修了(厚生労働省指導)
  • めまい平衡医学会 医師講習会修了
経歴
     
  • 平成15年 東京慈恵会医科大学医学部卒業
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  • 平成15年 東京厚生年金病院 耳鼻咽喉科
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  • 平成17年 東京慈恵会医科大学付属病院耳鼻咽喉科学講座 助手
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  • 平成20年 静岡県富士市立中央病院 医員
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  • 平成22年 東京慈恵会医科大学附属病院耳鼻咽喉科学講座 助教
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  • 平成23年 東邦大学大森医療センター耳鼻咽喉科 助教
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  • 平成25年 静岡がんセンター頭頸部外科 副医長
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  • 平成27年 東京慈恵会医科大学附属病院耳鼻咽喉科学講座 助教、専門医研修指導医
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  • 平成30年 5月 みのり耳鼻咽喉科 開院

医療の道に入る事となるキッカケ

私が幼い頃は、祖母と接する事がとても多かったのですが、その祖母から常々、「大きくなったら医者になれ」と言われておりました。医師を目指すという気持ちは、その頃芽生えたものだと思います。私が高校生の時に大病にかかり、結果として大学生の時に胆管がんで亡くなりました。この一連のことが、医療の道に入る決意を固めた瞬間だったと思います。

耳鼻咽喉科を選んだ理由

元々は手術を経験できる外科医になりたいと思っていました。偶々、一番お世話になった先輩が耳鼻科医で、頭頚部がんを専門とされていたので、自分も同じ道を選んだわけです。私は、どちらかと言うとメジャー志向というよりも、むしろ専門性の高い分野でしっかり地保を固めたいと思う方なので、耳鼻咽喉科が向いていたのかも知れません。大学病院では手術が多くて、自分の思い描いていた通りの世界でした。その後、開業してみると、今度は患者様の症状に合わせて薬を処方する事が主体となりますから、両方の世界を経験できて、率直に面白いと感じています。

診療ポリシー

耳鼻科医として言いますと、専門外の事、例えば内科や外科的な問題には割と苦手な立場にあります。例えば、セキが続く、胸が苦しいといった患者様の訴えに対して、「それは内科で診て貰って下さい」と言えるわけです。ただ、頭頚部がんを扱って全身を診てきた経験値で言うと、内科的な知識、糖尿とか血圧の問題であったとしても、ある程度の対応はしたいと思っています。もちろん、専門医の先生の領域を侵すような事をするつもりはありませんが、患者様の悩みにはなるべく幅広く対応するという事を一つのポリシーとしています。

頭頚部腫瘍

此れまで私は、頭頚部腫瘍を専門的に扱ってまいりました。頭頚部というのは、顔面から頸部までの範囲を指すものです。脳の下から鎖骨までが含まれています。この範囲に生じる、鼻、口、のど、アゴ、耳のがんを頭頚部腫瘍と呼んでいますが、脳や脊髄は含まれません。それぞれのがんについて、特徴などを少し詳しく解説させて頂きます。

喉頭がん

甲状軟骨先端と呼ばれる「のどぼとけ」の周辺(声帯周辺)にできたがんを喉頭がんと言います。喉頭には、声を出す時に振動させる声帯、食べ物の誤嚥を防ぐ喉頭蓋という蓋など、重要な機能が詰まっていますが、喉頭がんはこれらの機能を失わせます。頭頚部腫瘍の内、最も多いのがこの喉頭がんで、圧倒的に60歳以降の男性に発症します。たばこと飲酒が危険因子です。声が枯れる状態が続くのが症状の特徴と言えるでしょう。

咽頭がん

鼻の奥から食道の入口までを咽頭と呼んでいます。食べ物と空気の通り道です。上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つに分かれています。喉頭がんと同じように、中年以降の男性に多くみられるがんで、長期に亘るたばこと飲酒の影響が大きいとされています。

ただ、中咽頭がんに関しては最近の研究で、ヒトパピローマウイルスが関与しているとの報告が多くなされていて、性感染症と関与する別カテゴリーとして考えられています。40代から50代の女性に、比較的多く発症しています。

口腔がん

耳鼻咽喉科で扱う範囲としては、舌がんが中心です。舌のしこりや痛みがあります。所見では、白くて固い薄い膜のようなもの、かさぶた状のものが見受けられます。これは前がん病変と呼ばれる、がんに先行して現れる病変です。

副鼻腔がん

副鼻腔とは、鼻の周囲にある小さな空洞で、中は空気によって満たされています。典型的な症状は、繰り返す鼻血です。ただ、副鼻腔は外からは見えない場所なので、とても発見しにくいがんです。通常、定期健診などで調べる部位でもないので、副鼻腔炎など他の理由でたまたまCTを撮影した、またはPET検査のような特殊な方法でないと見つけられないでしょう。

因みにPET検査とは、陽電子放射断層撮影と言って、検査薬を点滴で注入し、がん細胞に目印を付ける検査です。小さな早期がんでも発見可能です。がん細胞は、正常細胞の3倍から8倍、ブドウ糖を取り込むという性質を利用している検査です。

がんの治療方法

頭頚部腫瘍に対する治療方法ですが、方向性だけで言えば、口腔がんは手術が中心です。喉頭がん、咽頭がんについては、機能温存の方針があるので、切る、切らないは同等に扱う事になります。副鼻腔がんは放射線が主体となります。がんの治療には、先端的且つ特徴的な治療方法がいくつもありますので、個別に解説します。

化学療法

化学療法の一つである、「超選択的動注化学療法」は、カテーテルを使って、抗がん剤をがん細胞のすぐ近くから流すイメージです。通常の点滴ですと、頭頚部のがん細胞に到達するまでに、抗がん剤は血液で薄められてしまいます。一方、「超選択的動注化学療法」では、患部のすぐ近くからなので、抗がん剤濃度が10倍くらい濃くなります。もちろん中和剤を入れて、副作用の抑制を図ります。この施術は、耳鼻科医だけではできないので、放射線科医との協働作業になります。

「分子標的治療薬」による治療も、此れまで見られなかった先端的な治療方法です。従来の抗がん剤は、自分の正常な細胞も毒されるが、がん細胞は更に毒される、という発想に基づいて使われてきました。「分子標的治療薬」の場合、正常な細胞はなるべく傷めない、がん細胞だけ攻撃する、という理念に基づいています。その為に従来の抗がん剤の副作用である吐き気、血球減少などの苦痛は軽減されます。現在日本国内では頭頚部がんで使用されている分子標的薬(セツキシマブ)は、がん細胞が正常細胞よりも多く発するEGFRというたんぱく質を識別シグナルとしています。因みに、このたんぱく質はがん細胞が増殖する為のスイッチの役割を果たしているものです。分子標的薬はこのスイッチを抑制する事で、がん細胞の増殖を抑制します。

放射線治療

「強度変調放射線治療(IMRT)」という治療法があります。従来の放射線は3方向からの3次元ビームでした。例えば、丸い形のがん細胞に対し、四角い面でアタックするようなイメージです。四角の角は、正常な細胞であっても放射線の攻撃を受けていた事になります。IMRTでは、球体に対して球体で照射するイメージとなりますから、正常な細胞をなるべく傷めずに済みます。全てコンピューター制御によるもので、プログラミングには2週間程度必要と言われています。このプログラミングは放射線科医が行います。この治療のメリットは、脳や眼・唾液腺などの重要臓器が近接する頭頚部がんでは、特に大きなものとなります。その為、IMRTは頭頚部がんでは良い適応と言われています。

免疫療法

従来の抗がん剤治療も、分子標的治療薬も、抗がん剤ががん細胞を攻撃するものでした。頭頚部がんの領域では、近年抗PD1抗体(ニボルマブ)が話題となっています。人間の体にはキラーT細胞という、ウィルス感染した細胞やがん細胞を攻撃する細胞が備わっていますが、がん細胞は攻撃されないようにPD1というたんぱく質を放出して、キラーT細胞に対するバリアを敷いています。免疫療法は、このPD1の働きを抑制して、がん細胞を攻撃しようという仕組みです。従来の抗がん剤のような副作用の心配が無いのは、この療法の大きな利点ですが、まだあくまで従来の抗がん剤治療などの治療が功を奏しなかった患者様にのみ使用可能です。その理由は、従来の抗がん剤に比較して効果が出る割合が低いからです。ですので、現状では頭頚部がんにかかり、手術や放射線、抗がん剤治療を行ってきて不幸にも功を奏しなかった場合の次なる一手という事です。

患者様の身体的負担軽減

手術を受けられた方の身体的負担を軽減する為、他の診療科専門医との連携は重要なテーマです。手術中の再建に形成外科医や外科の助力を得る、頭頚部手術に慣れた麻酔科医により、導入や術後退室までの時間を短縮する等の手術時間の短縮は、術後合併症のリスク低減に繋がります。耳鼻咽喉科に限らず、昨今の医療に於ける術後の基本方針は、早期離床です。手術が長時間化すれば、当然それに逆行します。

手術時間が長いと、それに連れて点滴時間も長くなりますので、体に水が溜まります。また、サイトカインという情報伝達物質がより多く分泌され、術後尿は出にくくなる方向に働きますので、益々水が溜まって起き上がりにくくなり、早期離床が遠のいて、術後の塞栓症や肺炎などのリスクが高まる事になるのです。結局、手術時間の短縮は、合併症のリスクを下げる事に繋がります。また、現在では早期離床を図る為、院内の疼痛緩和チームやリハビリチームなどが主治医だけでなく積極的に関わる病院が増えてきています。

補助療法

QOLの維持に対する配慮も欠かせません。手術で咽頭の機能を温存できなかったり、咽頭がんの放射線治療などで口から食べ物を摂取する事ができなくなった方には、胃ろうを提案する事もあります。また、疼痛緩和の為には、医療用麻薬を積極的に利用します。これは麻酔科医の専門的治療として定着しつつあります。正しい知識をもって使用すれば、悪い麻薬のイメージである中毒、依存などを心配する必要性はありません。

眠気、便秘、吐き気などの副作用を心配される方もありますが、眠気などはむしろ、痛みで眠れない事の方が辛いものだと思います。便秘に対しては近年麻薬性の便秘に対して有効な治療薬もあります。リハビリも重要なテーマになります。今は、言語聴覚士という専門職も出来ており、嚥下や発声の機能維持の手助けをして貰えます。凍らせた綿棒に水を含ませ、口腔内を刺激して、嚥下機能を回復させるアイス・マッサージという手法を取り入れたりします。

患者様へのメッセージ

たばこと強いお酒は危険因子である事を、充分ご理解頂けたと思います。喫煙習慣のある方、アルコール度数の高いお酒を、割らずに、頻繁に飲んでいるという方、声がしばらく枯れている、喉の痛みが1か月以上続く方は、躊躇せずに耳鼻科医の門を叩いて下さい。