手の病気の専門医インタビュー (まえだ整形外科・手のクリニック)

手の病気

後遺障害につながる手の疾患に的確な診断と治療で臨む手外科専門医

前田 利雄先生

2017/01/10

MEDICALIST
INTERVIEW
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まえだ整形外科・手のクリニック
前田 利雄 院長
Toshio Maeda

  • 医師免許取得
  • 麻酔科標榜医取得
  • 医学博士号取得
  • 日本整形外科学会整形外科専門医取得
  • 日本手外科学会手外科専門医取得
経歴

1995年に昭和大学医学部を卒業し、医師免許を取得。昭和大学麻酔科で勤務し、1998年に麻酔科標榜医を取得、1999年医学博士号を取得。

2000年に昭和大学医学部整形外科学講座へ異動し、2001年より整形外科医員として太田熱海病院、太田西の内病院、今給黎総合病院、亀田総合病院で勤務。2008年神栖済生会病院整形外科部長を経て2009年より昭和大学病院整形外科学講座助教に就任。2015年同講座講師に。2016年10月同講座の兼任講師を務めながら、まえだ整形外科手のクリニックを開業

全国で約800名しかいない手外科専門医のクリニック

まえだ整形外科・手のクリニック

大学病院や地域の総合病院で、麻酔科医、整形外科医として経験を積むことができた私は、より患者さんと近い距離でふれ合い、信頼関係を築きながら医療をおこなっていきたいと考え、このクリニックを開院しました。

手外科と聞いて、実際に診療を受けたことがあると言う方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。

整形外科専門医が全国で約18000名いる中にあって、私の専門とする手外科は、800名程度の専門医しかおらず、手に関する専門的な診断・治療が必要な方々にとって、まだまだ十分な状況とは言えません。それだけに、開院まもない当クリニックですが、手に問題を抱えた方を中心に、整形外科における診療を求める幅広い患者さんご来院いただいています。私たちクリニックのスタッフは、患者の皆様がどんな悩みを抱えていらっしゃるかを一人ひとりしっかりとお聞きし、その解決につながる医療をおこなっていきたいと考えています。

運動器、感覚器、コミュニケーションツールでもある手の診断と治療

院長 前田 利雄 

日常生活の中で、なくてはならない手の動作や感覚。私たちはこれを少しでも損なうと、非常に不便に感じてしまいます。なぜなら手は「手作業」「手さぐり」、「手ぶり」というように、運動器、感覚器、コミュニケーションツールとしての役割を果たす体の中でも特殊な部分だからです。

動かすことの多い手は、当然、傷むことも多く、整形外科の診療範囲の中でも手に関する疾患の割合は多いと言えるでしょう。しかし、大きな力を使うことから細かな作業までを可能にし、鋭敏な感覚を持つ手の構造は非常に複雑です。見つかりにくい骨折や腱の断裂など、発見が遅れて後遺障害となってしまう場合もあります。整形外科の専門医であっても、手に関する治療にはさらに専門的な知識が不可欠で、数少ない手外科の専門医に診療を受けることが何よりも望まれるのです。

妊娠・出産・更年期の女性にも多い「手根管症候群」

クリニックの診察室

当クリニックに来院する患者さんで多く見られ、手外科専門医の治療が有効な疾患の一つに「手根管症候群」があります。これは人差し指や中指のしびれ・痛みからはじまり、最終的には親指と薬指の内側までにしびれ・痛みが広がる疾患で、特発性の場合も多く、原因は不明とされています。

仕事やスポーツによる手の使いすぎや、骨折、ケガなど様々な原因が考えられ、高齢者の割合が多いですが、若年層にも見られる疾患です。そしてもう一つの原因と考えられているのが女性ホルモンのバランスの乱れによるもの。妊娠・出産・更年期の女性に多く見られるのもこの疾患の特徴です。

特に何か傷めた覚えがないのに、眠っていると明け方突然中指・人差し指を中心に痛みが出て目が覚めてしまう。手のこわばり感があり、手を振ったり、指を曲げ伸ばしてみると症状が和らぐ場合などにはこの手根管症候群を疑ってみましょう。症状が進行すると親指の付け根の部分(母指球)がやせて、細かいものがつまめなくなり、指によるOKサインや針仕事などの細かい作業ができなくなってしまいます。

これは手首にある手根管と呼ばれる場所で起こる疾患で、手根管はトンネル状の形をしていて、その中を1本の正中神経と指を動かすための9本の腱が滑膜性の腱鞘(けんしょう)とともに通っています。この腱鞘の腫れやむくみによって、手根管の中が狭くなり、中指、人差し指などを支配領域とする正中神経を圧迫して症状を起こすのです。診断には打腱器を使ったり、エコーやMRIを使ったりしますが、レントゲンによる骨の診断では見つけることができません。設備の整った手外科専門医による早期の診断が必要です。

治療は消炎鎮痛剤やビタミンB12などの飲み薬、塗布薬を使用し、手をできるだけ安静にします。重症な場合はシーネ固定したり、手根管内腱鞘内注射などの治療もおこないます。難治性のもので母指球がやせたり、腫瘤があるものに対してはさらに手術を行います。

新治療薬で皮切手術が不要となった「デュピュイトラン拘縮」

手外科専門医による治療

また、手外科専門医による診療で患者さんの体への負担や予後を大きく改善できる疾患に「デュピュイトラン拘縮」があります。この疾患は手のひら内部の腱膜にコラーゲン異常による結節や拘縮索ができ、手指の屈曲拘縮がおきて、指を伸ばすことができなくなって日常生活に影響が出るというもの。発症の原因は不明な点が多いのですが、国内では男性の高齢者や、糖尿病患者に見られます。

これまで、進行したデュピュイトラン拘縮には麻酔下で手のひらや指を皮切し、拘縮索を切除する手術しか方法が有りありませんでした。しかし、2015年7月に注射用コラゲナーゼ(クロストリジウム ヒストリクチウム)の製造販売が承認され、これを用いての治療が可能になりました。これは、拘縮索に局所投与することで、沈着コラーゲンを分解して、拘縮索を破断する効果が期待されています。皮切手術なしでの治癒が可能で、この治療には手外科専門医の資格が必要で、当院でも治療が可能です。

超音波診断機(エコー)による積極的な治療

超音波診断機(エコー)による診察

当クリニックは開院当初から超音波診断機を導入しています。内臓の健診や、妊娠中の検査などで一般の方々にも既によく知られている検査機ですが、近年では整形外科でも広く用いられるようになってきました。整形外科の検査と言えばレントゲンによる診断を思い浮かべる方が多いと思います。

しかし、ご存知のとおり、レントゲンでは骨の異常しか発見することができません。超音波診断機では、手の治療の診断になくてはならない神経や腱や関節の軟部組織の状況など、つぶさに見ることができるのです。手の内部の神経の腫れた部分を確実に発見し、その部分への局所注射をおこなうなど、超音波診断機がなくては決してできない治療法です。また、超音波診断機は、レントゲン、CT、MRIなどと違って放射線の心配がなく安心して使用できるのも大きなメリットです。当クリニックではこの超音波診断機により、手外科専門医による精密な診断と的確な治療を行っているのです。

コミュニケーションの中から患者さんの「困った」をさぐる

患者さんとのコミュニケーション

当クリニックが大切にしているのは、患者さんとの信頼関係を築くことによってはじめてできる「インフォームド・コンセント」です。患者さんがどんなことに困って来院されているのかをしっかりと受け止め、その問題を解決できる治療を進めていくことを目的としているのです。

患者さんへの説明や、症状改善のための日常生活へのアドバイスをおこなうなど、ただ治療する、薬を処方するだけでなく、クリニックのスタッフから積極的なコミュニケーションを図っています。そしてさらに大切なのが、言葉で表現しにくい患者さん自身の抱える問題に耳をすませること。外観や機器による診断データだけでなく、患者さんの発する声に最大の注意を払って診療を行っています。

手の構造は本当に精密で、ちょっとしたことから将来的に後遺症状が残ってしまう場合もあります。「痛み」「しびれ」「動かしにくい」「力が入らない」「ものがつかみにくい」「字が書きにくい」「ボタンがかけられない」など、仕事やスポーツ、日常生活で傷めた場合はもちろんのこと、手に気になる異常が現れたら速やかに手の専門医に相談してください。

まえだ整形外科・手のクリニックの診察室

地元で愛される手と整形外科の専門クリニックとして

JR阿佐ヶ谷駅と西武新宿線鷺宮駅のほぼ中間に位置するこの街は、なにを隠そう私自身が育った地元です。このクリニックを開院したのは、自身の持つ専門性を活かして、地域で愛されるクリニックの運営を行っていきたいと考えたから。患者さんの「困った」を解決するために私とともに、真摯に向き合ってくれるスタッフもそろいました。 小学校の同級生のお母さんや、実家のご近所の方など、昔ながらの知人・友人がクリニックを訪れることもあります。診療についてだけでなく、世間話に花が咲くのもこのクリニックでの楽しい一瞬です。これからはそんな話ができる患者さんをどんどん増やしていきたいと考えています。