眼科専門医
角膜感染症治療のゴール、完成度の高い角膜再生に期待する前眼部・感染症の専門医
2019/04/12
西早稲田眼科
寺井 和都 院長
Kazuto Terai
- 日本眼科学会認定眼科専門医
- 医学博士
- 眼科PDT認定医
- 日本眼科学会
- 日本角膜学会
- 日本眼感染症学会
- 日本網膜硝子体学会
- 日本眼科手術学会
- 経歴
- 平成8年 防衛医科大学校医学部 卒業、防衛庁 医官
- 平成13年 京都府立医科大学 大学院生
- 平成14年 米国Johns Hopkins, Wilmer Eye Institute Research Fellow
- 平成15年 米国University of Cincinnati, Department of Ophthalmology Assistant Professor
- 平成18年 明治鍼灸大学(後に明治国際医療大学に改名) 助教
- 平成22年 明治国際医療大学 講師
- 平成23年 品川近視クリニック名古屋院 医師
- 平成26年 ばん眼科 副院長
- 平成28年 ばん眼科 院長
- 平成30年 西早稲田眼科 開業
眼の感染症は、その感染部位や原因菌の違いによって数多くの種類がありますが、日常診療では、いわゆるものもらいと呼ばれる麦粒腫(ばくりゅうしゅ)と感染性結膜炎で約9割を占めています。一方、頻度は高くないものの、ひとたび発症すると重篤な機能障害を惹き起こす感染症もあります。身近な眼の感染症について解説していきます。
麦粒腫(ものもらい)
麦粒腫、いわゆる「ものもらい」は、お子様から高齢の方まで年齢層は幅広く、非常に患者さんの多い感染症です。原因菌として高頻度で検出されるのは結膜嚢(まぶたの裏側から白目の表面にかけての袋状の部位)に常に存在している常在菌である表皮ブドウ球菌です。麦粒腫が1回だけできた場合は、特別な原因が何かあったということでは無く、たまたまできたと考えて良いと思います。ただ、度々繰り返す場合には、原因のひとつとして、マイボーム腺の機能低下が考えられます。マイボーム腺は、まぶたを支える瞼板という軟骨組織の中にあり、涙の蒸発を抑制する脂を分泌しています。本来は、分泌されたさらさらの脂がマイボーム腺内に迷入した細菌を排出し定着できないシステムになっています。このマイボーム腺の機能が低下して、脂が固まりやすかったり、マイボーム腺が詰まりやすかったりすると、感染のリスクが高くなります。特にものもらいが場所を変えて繰り返し出てくる場合には、マイボーム腺の機能低下が疑われます。この場合、脂をさらさらにしてマイボーム腺の詰まりを取り、機能が回復すれば感染が起こりにくくなると考えられています。温罨法といい、入浴時などを利用して、温めたタオルなどを目の上に置き眼瞼を温め、軽くマッサージをするという方法です。1~2回ですぐに良くなるということはありませんが、気長に続けることで、体質改善が期待できます。ものもらいが出来るたびに抗菌薬の治療をしているような方には、ひとつの方法としておすすめします。
ものもらいの治療方法としては、抗菌薬の目薬を使う方法と、膿点という膿がたまっている部位を切開して排膿する方法があります。切開すれば確実に排膿でき、抗菌薬の目薬も奥の病巣に届きやすくなるため、早く治る可能性は高く、また同じ場所で再発することは少なくなります。切開することに大きなデメリットは無いと考えていますが、切開することに抵抗のある方や、じっとしていることが難しいお子様などでは、目薬による治療を選択することになります。
細菌性結膜炎
細菌性結膜炎の原因菌は麦粒腫と同様、結膜嚢の常在菌である表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌などグラム陽性球菌というカテゴリーの菌であることが多いです。汚い手で目を触ったなど特別な原因がなくても、常在菌が何かをきっかけに感染を成立させて、結膜炎を発症することがあり得ます。原因菌として考えられるグラム陽性球菌に対して効果のある抗菌薬の目薬を使用すれば、多くの場合短期間で治ります。グラム陽性球菌以外の病原体が原因である場合や、投与薬剤に対する耐性を獲得している場合、通常の治療では反応が良くないことがあります。
細菌性結膜炎の症状のひとつに「目やに」があります。細菌感染による目やにの場合、その性状はどろっとして色が着いた膿性になることが多いです。細菌感染が明らかな結膜炎には、抗菌薬の目薬を使う意味があります。一方、目やにというと、すぐに抗菌薬の目薬が必要と思われている方が多く、眼科でも比較的簡単に処方されることも少なくありませんが、実は抗菌薬の目薬の必要がない、感染性ではない目やにの場合が少なからずあります。目やには生理的な分泌物で、常に目の表面で作られており、涙液量が十分あれば自然と流れていきますが、ドライアイで涙液量が減ると分泌物が十分に流出できなくなり、目やにが増える場合があります。このような場合は、人工涙液を使うだけで症状軽減が期待できます。以前から眼感染症学会や眼感染症における有識者は、耐性菌の出現によって治療が困難になることを危惧し、安易な抗菌薬の目薬の乱用に対し警鐘を鳴らしています。感染性か否かは慎重に判断し、感染性が否定できる場合には、抗菌薬の目薬を使用しないことが必要です。
流行性角結膜炎(はやり目)
流行性角結膜炎は、アデノウイルスを原因とするウイルス性結膜炎で、他の人への感染力が非常に強いことが特徴です。アデノウイルスはタイプが分かれており、そのうちのいくつかが流行性角結膜炎の原因になりますが、タイプによって症状の激しさや炎症の強さに違いがあります。アデノウイルスに直接効果のある薬は無いので、ウイルス自体は患者さんの免疫の機能で排除することになります。流行性角結膜炎の治療の目的は後遺症を残さないようにすることと、他の人にうつさないように指導することです。後遺症としては、まぶたの裏側に線維素が固まった膜を作る偽膜形成と、角膜に斑状の濁りを生じる角膜上皮下混濁があり、炎症が強いほど後遺症を残す可能性が高いことがわかっています。アデノウイルス性結膜炎と診断した時点で、炎症を取るための点眼薬を使用し、後遺症を遺さないことを目的とした治療をします。流行性角結膜炎で重要なことは、他人にうつさないようにすることです。子供の学校は出席停止なりますが、大人の場合、仕事を休むのを納得してもらうのが非常に難しいと感じています。感染力が強い発症後約2週間は、他の人との接触を極力避けるようにしてもらいたいと思います。
細菌性角膜潰瘍
細菌性角膜潰瘍は、細菌感染が角膜に生じたもので、外傷などの契機がなければコンタクトレンズ装用が原因であることが圧倒的に多いです。結膜の感染症と比較すると頻度は低いですが、視力低下など重篤な機能障害を惹き起こす可能性があります。コンタクトレンズに関するトラブルとしては、感染症よりもドライアイやアレルギー性結膜炎の方が頻度は高いのですが、これらの疾患と比較すると細菌性角膜潰瘍は圧倒的に重篤な状態と言えます。コンタクトレンズを使用の際には、重篤な合併症のリスクがあることを認識し、定期的な検査を受けることが重要です。
角膜感染症治療の最終的なゴールとは
角膜感染症の原因が、アカントアメーバや真菌といった難治性の病原体であった場合、時に薬による治療は非常に難しく、感染した角膜の部分を切除する治療が必要になることがあります。その場合、本来透明であるべき角膜に濁りを生じ、永続的な視力障害の原因となります。また、感染そのものは投薬で鎮静化できても、やはりそれまでに受けたダメージにより角膜に濁りを残してしまうことがあります。つまり、角膜感染症の治療のゴールは、感染の鎮静化だけではなく、濁った角膜を透明化し、視機能を回復することにあります。そのための方法として考えられるのは移植か再生と思われますが、本邦ではアイバンクによる角膜提供数が少なく、法的制度の整備や完成度の高い人工角膜の開発、角膜実質の再生技術の発達に大いに期待がかかるところです。
以前は、角膜潰瘍に対する薬の効果・角膜創傷治癒過程におけるシグナルトランスダクション・角膜実質再生・角膜内皮再生などをテーマに基礎研究に携わってきました。その後、いくつかの眼科で診療経験を積み、幅広い年齢の方の身近な目の病気を診るために、この地で開業しました。患者さんの目の状態や治療の方法について、疑問やわからないことが無いように、出来る限り説明を心がけています。何か目でお困りのことがあれば、受診していただければと思います。