循環器専門医インタビュー (産業振興センター診療所)

循環器専門医

特定が難しい不整脈が起こる様々な疾患に対応する循環器のスペシャリスト

松下 浩平先生

2017/09/22

MEDICALIST
INTERVIEW
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産業振興センター診療所
松下 浩平 院長
Matsushita Kohei

  • 内科認定医
  • 医学博士(乙号)
  • 循環器専門医
  • 日本医師会認定産業医
  • 日本体育協会公認スポーツドクター
  • 日本不整脈学会日本心電学会認定不整脈専門医
  • 日本不整脈学会評議員
  • 日本自動車連盟国内A級ライセンス(ドライバー)
  • 身体障害者福祉法第15条指定医
  • 難病指定医
  • 小児慢性特定疾患指定医
  • 日本内科学会総合内科専門医
経歴
  • 平成07年 横浜市立大学医学部卒業
  • 平成07年 横浜南共済病院 研修医
  • 平成09年 共立蒲原総合病院(静岡県) 循環器内科医員
  • 平成12年 横浜市立大学附属病院 CCU常勤特別職
  • 平成19年 横浜市立大学附属病院循環器内科 助教
  • 平成25年 横浜市立大学附属病院臨床検査部 助教
  • 平成26年 横浜市立大学 循環器腎臓内科学講座 講師
  • 平成27年 産業振興センター診療所 所長

循環器内科から一般外科、内科を網羅する産業振興センターにある診療所

松下浩平先生

私は横浜市立大学附属病院で循環器疾患、特に不整脈を中心に診療・研究・教育をおこなうとともに、地域の病院・クリニックで一般内科の診療にも携わってきました。これらの経験により循環器内科、一般外科、一般内科の幅広い診療に対応できる医師としての知識と技術を身につけています。また、神奈川県最大の工業団地である横浜金沢産業団地内にある診療所の特性から、健康診断や産業医活動も積極的におこなっており、周辺の数多くの事業所の産業医も勤めさせていただいております。

当診療所の特徴は、腹痛や風邪、ケガや打撲など、皆様の生活に日常起こりうる様々な病気や疾患に関して、迷わずに最初に相談いただける医療機関であることです。中でも私の専門とする循環器内科、不整脈に関しては、大学病院と同等の診断・治療をおこなえると自負しています。

不整脈の診断は致死性の疾患かそうでないかの見極めが重要です。

松下浩平先生

私たちはひと言で「不整脈」といいますが、不整脈は色々な原因や疾患によってあらわれる疾患群の総称で、単一の病名ではありません。例えば健康な人であっても、たまたま一定のリズムから突然外れた脈が出ればそれは不整脈の一種で誰にでも起こり得ます。気づいていない方も多いかもしれませんが、多くの方は何等かの不整脈を持っていることが多いです。
それでは治療が必要な不整脈とはどんなものでしょうか。不整脈が自覚症状として表われる場合は、「動悸」「息切れ」「めまい」などが多く、これらの症状を感じて医師に相談される方がほとんどです。また患者さん本人に自覚症状がなくても健康診断の心電図検査などで異常が見つかり、循環器の専門医に受診される場合があります。

心臓が拍動することで血液が体内の循環し、人の生命が維持されていることは皆さんもよくご存知のはずです。不整脈はその心臓の拍動のリズムに乱れが出るという状態で、動悸や息切れ、めまいなどを感じると、患者さん自身も不安に感じることでしょう。不整脈は急いで治療しなければならない致死性のものと、その人の体質であったり、経過をみながら特に治療の必要のないものまで幅広くあります。この治療を急ぐべき不整脈か、それほど心配のないものかは専門医の診断によるべきところです。安易な自己判断はせず、早めに専門医の診断を受けていただくのが安心です。

「頻脈」「徐脈」の違いとは?血栓の原因となる「心房細動」とは?

松下浩平先生

不整脈には心臓が一定のリズムより多く拍動する「頻脈」と遅くなるあるいは止まってしまう「徐脈」とがあります。
頻脈によって脈拍が増えると患者さんは「動悸が激しい」と感じます。そしてさらに頻脈がひどくなると、心臓は収縮や拡張が上手くできず、けいれんを起こしたような状態になります。最近話題の「心房細動」とは、このけいれんが左心房の部分におこることで、心臓からの血液の拍出が通常時の70%ぐらいに落ち込んでしまいます。

心房細動が起こると、血流量が落ちてしまうため、動くとすぐに息切れしたりするようになります。しかし、安静にしていれば痛みなどの自覚症状はなく、「疲れているのかな」「年齢的なものかな」と考えて患者さん自身が気づかずに見逃してしまうこともあります。しかし心房細動が怖いのは、息切れするだけではなく、血栓がおこりやすい状態になってしまうことです。血液は流れていることによって固まらないようになっていますが、血流が滞ると固まりやすくなります。左心房には左心耳というリザーバータンクのような小さな袋状の部分が存在し、ここに血液が滞留しやすくなっています。心房細動を起こすとこの左心耳で滞留した血液が固まり、ときには数cmほどの大きな血栓をつくります。この血栓が血管を通って脳にいってしまえば脳梗塞に、腎臓や肝臓など、全身にいけば全身塞栓症となってしまうのです。

また心房細動など、頻脈の病気が恐ろしい一方で、徐脈もその症状によって安心して放置できるものではありません。心臓突然死はこれまで頻脈によってなくなる場合が多いと予想されていました。しかし24時間を装着して日常生活での心電図を検査できる「ホルター心電図」の計測中に亡くなった方の原因を調べてみると、徐脈によって亡くなる方のほうが頻脈によって亡くなる方よりも多いという結果が出たのです。いままでいわゆる「心不全」といわれるような心臓のトラブルによる死亡例の中には徐脈による死亡が多く含まれているのではと今では考えられているのです。

心房細動などの頻脈を治療するカテーテルアブレーション。

松下浩平先生

心臓がどうやって拍動を起こしているのか。それは電気による興奮によってだということを覚えておいてください。頻脈は、本来必要な電気的興奮とは別に心臓の拍動を乱す電気的興奮が起こっているということ。心房細動は左心房につながっている肺静脈の中から異常な電気的興奮が起こって不整脈を起こしていることが多いことがわかっています。この電気的興奮は左心房で1分間に300〜600回ほども起こっています。心臓全体の電気信号を調整する房室結節という部分によって間引かれますが、それでも脈拍数は上がり、通常70回前後の脈拍が100〜200回というような頻脈になってしまうのです。

この症状を改善するためには左心房で起こっている異常な電気的興奮をマネージメントすることが必要です。通常の脈を維持しようとする抗不整脈薬による治療(リズムコントロール)、頻脈を抑え症状や心不全をコントロールする治療(レートコントロール)、血液を凝固しにくくして脳梗塞を予防する薬剤治療(抗凝固療法)、「カテーテルアブレーション」という根治治療などの選択肢があります。カテーテルアブレーションとはカテーテルという極細の治療器具を太ももの付け根から血管を通して心臓まで挿入し、高周波電流(最近では冷凍凝固やレーザー等も)によって患部を焼灼し、異常な電気信号を起こさせないようにする不整脈の根治療法です。現在では有効で安全な治療法ですが、患者さんの病状によって適用できる場合とできない場合があり、治療の実施には専門医による正確な診断が必要です。

院内風景

徐脈にはペースメーカの植え込みで対応。

一方の徐脈の治療にはペースメーカを用います。ペースメーカは心臓に一定のリズムの電気的興奮を与えることで、文字通り心臓のペースをつくります。徐脈は本来一定の電気刺激を起こすべき洞結節という部分の不調や、その刺激を伝える系統が途切れて心室に興奮が伝わらないなどの状況で起こっています。ペースメーカはこの洞結節に代わったり、補ったりして電気的興奮を起こし、正常な心臓の拍動を起こすのです。

ペースメーカには電池と電気回路からなる本体があり、それに心筋に接して電気刺激を伝える電極が先端についたリード(導線)2本がつながっています(1本のこともあります)。ペースメーカの植え込みは基本的に2種類の方法があります。一つは鎖骨下の静脈からリードを挿入して心臓に到達させ本体は鎖骨下の胸部に埋め込む方法で最もよく用いられる方法です。もう一つは手術で開胸して心臓の表面に電極を直接固定し、腹部に本体を植え込む方法です。この方法は成長期にある小児や静脈からのリード挿入ができない場合に用いられる方法です。また最近ではリードレスペースメーカーといって、心臓の中に直接ペースメーカーをカテーテルで入れるころのできる機械も用いられています。

不整脈のカテーテルアブレーション、ペースメーカの植え込みなどは、入院設備の整った総合病院でおこなう治療です。当診療所ではこれらの治療が必要となった場合は、患者さんの希望やお住まいの地域などを検討し、最も適した病院へ紹介状と検査データを送り、すみやかな連携治療をおこなっています。また患者さんの希望により、手術終了後退院されてから、当診療所への通院治療を続けていただくことも可能です。

医師でも発見が難しい場合もある不整脈。患者さん自身の検脈で早期発見を。

松下浩平先生

当院を訪れた60代の女性で、他院では「異常なし」と診断されたが、どうしても動悸がおさまらなくて気になるとおっしゃる患者さんがいました。問診で動悸の起こり方から私は心房細動を疑いましたが、その場でおこなった心電図検査には異常が現れません。そこで私は24時間にわたって患者さんの心電図の記録が可能な前述のホルター心電図を使用し、夜中に起った心房細動を発見することができました。

また、50代の女性で動悸が激しくなり救急車を呼ぶも病院に到着すると症状が治まってしまうという患者さんがいました。これを繰り返してしまうことから、精神的なものと判断され、心療内科での薬剤治療を進めていました。症状が改善しないまま10年もたったある日、はじめて心電図には異常な波形があらわれて、本当に不整脈だったということがわかったという例もあります。

動悸などの異常が起こった時にすぐに検査ができるとは限らないのが不整脈です。そこで私たち不整脈の専門医が集まる学会では、皆さんに向けてご自身で「検脈」をおこなうことをおすすめしています。手のひらを上にして左手首の外側、親指の付け根の下あたりのくぼみに右手の指(第2~4指の3本)をあて、脈を取る方法はご存知でしょうか。不整脈が起こっている時、頻脈は明らかに脈が早かったり、リズムがバラバラだったりしますので、すぐにわかります。また徐脈の場合は、脈拍が途切れ途切れとなりますので、これも落ち着いて様子を見てもらえれば一般の方でもわかるはずです。自分の健康状態を知るためにもこの検脈を習慣的におこないましょう。もし、異常を感じたらすみやかに医師に相談を。正確な診断が治療への早道です。