前立腺
前立腺疾患を泌尿器科専門医の確かな目で診断。 医院でこそできる患者に向き合った手厚いフォロー
2017/05/12
- 経歴
- 1971年 岩手県北上市生まれ
- 1990年 岩手県立盛岡第一高等学校卒
- 1997年 昭和大学医学部卒
- 1998年 国立病院機構災害医療センター泌尿器科
- 1999年 総合高津中央病院泌尿器科
- 2000年 昭和大学病院泌尿器科
- 2004年 昭和大学横浜市北部病院泌尿器科
- 2009年 川崎市立川崎病院救命救急センター救急部
- 2010年 NTT東日本関東病院泌尿器科
- 2012年 昭和大学藤が丘病院泌尿器科
- 2013年 医療法人光和会在宅支援診療所
- 2015年 すがわら泌尿器科・内科開院、昭和大学藤が丘病院泌尿器科 兼任講師
男性、女性、小児まで含めた泌尿器全般から内科まで対応する総合医院
すがわら泌尿器科・内科は、2015年9月に綱島に開院したまだ新しい医院です。泌尿器に関する悩みは男性特有、女性特有、そしてお子さん特有のものとさまざまあり、その対応や治療法はそれぞれ変わってきます。また、泌尿器の病気と、内科の病気は非常に関連が強く、実際の診療を泌尿器科、内科のふたつの視点からおこなっていくことが有効です。
当医院では、泌尿器科専門医・指導医として長年培ってきた私の専門的な知見と、救命救急や在宅医療の現場で得たさまざまな症例に対する対応力を活かして、地元の皆様の健康に貢献できる幅広い医療を展開していきたいと考えております。
加齢とともに大きくなる前立腺肥大、前立腺肥大症より若年者に多い治療が難しい慢性前立腺炎
前立腺は男性にしか存在しない生殖器で膀胱の下、尿道を囲むかたちで存在していて、精液の成分である前立腺液の製造、分泌をおこなう臓器です。前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺がんなどがこの臓器で起こる主な疾患です。
前立腺肥大症は、前立腺が大きくなることよって、取り囲んでいる尿道が圧迫され、排尿に障害が起きてしまう症候群をいいます。前立腺は精巣より分泌されるテストステロンによって加齢とともに徐々に大きくなっていきますが、この肥大すること自体は異常ではなく生理的なものです。年齢によって前立腺が大きくなっても、尿道を圧迫しなければ問題は生じず、治療も必要ありません。また前立腺が肥大していることによって、前立腺がんを心配される方もいますが、前立腺肥大と前立腺がんは組織の発生母地が異なり、前立腺がんは前立腺の大きさにかかわらず発症します。
次に前立腺炎ですが、言葉のとおり、前立腺が炎症を起こしている場合をいいます。前立腺炎には急性と慢性があり、急性は細菌感染により前立腺がむくみ、熱が出て、排尿が困難になり、排尿時痛や残尿感が出現し、ひどい場合は完全に尿が出せなくなり、急性腎後性腎不全や敗血症にまで移行してしまうこともあります。治療には細菌を叩くために抗生物質を投与し、排尿できない場合には尿道から尿が出せるようにカテーテルを通す導尿などを行うこともあります。 慢性の前立腺炎にはさらに細菌性と、非細菌性の2種類があり、急性と比べるとどちらも症状は穏やかです。しかし、慢性の前立腺炎は原因の究明が難しく、治療法も多岐にわたり、泌尿器科医にとって「手強い疾患」のひとつです。
例えば細菌性の慢性前立腺炎であっても前立腺の中だけに細菌があって、尿には細菌が現れず、細菌性のものだとなかなかわからない場合もあります。教科書的には前立腺マッサージを行い、前立腺液を採取し、細菌の存在を確かめて細菌性と非細菌性を鑑別するとされているものもありますが、実際の私の経験上では、1例のみでしたが前立腺マッサージ後に発熱し、敗血症にまで至った経験をしてしまうと、不用意に前立腺マッサージを行うことは避け、抗生剤の短期間投与により、改善具合を図ることで、診断的治療として鑑別しています。
非細菌性に関しては、まさにさまざまな要因が考えられ、心因性の場合もありますが、やはり、会陰部の長時間の圧迫による血流障害が原因とされており、ツーリングが趣味の方や、デスクワークの方、長距離運転手の方などに多い傾向にあります。過去の文献には慢性前立腺炎と診断されたツーリングの選手の海綿体からの採血で、酸素飽和度を計測したら、一般人に比べ、明らかに低下しているとの報告がなされておりました。血流が悪くなると細胞への酸素の供給が低下し、結果様々な不定愁訴が出現するようです。慢性前立腺炎には下腹部、会陰部(陰嚢と肛門の間)、鼠径部部の痛みや違和感、不快感などがありますが、理学的所見や検査では異常がなく、患者さんの主観のみで判断することになり、客観性に欠けるため、治癒判定は患者さんの症状頼みということになります。炎症を抑える生薬や、細菌に対する抗生剤の治療に効果が見られない場合、抗不安薬や抗うつ薬などを処方することで効果が現れる場合もあり、メンタルに左右される要因もしばしば見受けられます。 また、当クリニックでは、原因の究明が難しい不定愁訴には漢方薬も積極的に処方しています。ターゲットに対して的確に作用しますが、外れると全く効かないのが西洋薬に対し、一方で漢方薬は患者さん個々とのマッチングが適していれば、西洋薬では見られなかった劇的な改善効果が見られることがあり、体全体のバランスを良い状態にし、回復力を上げる効果があります。心と体のバランスが崩れている時など、西洋薬よりも漢方薬が高い効果を示すことも多いのです。
罹患率、死亡率の急増で注目される前立腺がん
前立腺癌はほんの数年前までは国内男性の悪性腫瘍の罹患率第2位で、2020年までには1位になると予測されておりましたが、予想をはるかに上回る速度で急増しており、ついに2015年の時点で肺がんを抜いて男性の悪性腫瘍の罹患率第1位となりました。罹患率の上昇に伴い、前立腺がんによる死亡者数も増加傾向にある状況です。
しかし、前立腺がんは「スローキャンサー」と呼ばれていて、他のがんと比べて進行がとても遅く、症状が出にくいという特徴をもっています。80代で亡くなった方を死後調べると、およそ5割以上の方が前立腺にがんがありながら、生活に支障のない状態で、老衰や他の要因で亡くなっているという報告もあります。 前立腺がんの治療には、手術療法、放射線療法、内分泌療法など数多くの治療法があり、それぞれの治療法にリスクとベネフィットがあります。 手術療法はいわゆる開腹手術によって、前立腺をがん細胞を含めて丸ごと取り除いてしまう治療法のことです。また、最近はダビンチというロボットを用いて開放創を小さくし、術野の細部に渡り拡大して良好な視野で細かく的確な手技で手術が行われ、根治性を高め、尿失禁の合併症を激減させ、性機能の温存率も高まってきています。 放射線療法は、がん細胞に放射線を当てることでがん細胞を死滅させる治療法で、皮膚を切開する必要は無く、手術療法と比較すると合併症も少ないといわれていて、勃起神経の温存もしやすい治療法です。小線源療法による内照射や、体外から照射する外照射などがあり、従来から問題となっていた直腸出血の合併症も減少し、根治性もかなり高まってきているのが現状です。
また前立腺は副腎や精巣からのアンドロゲンやテストステロンなどの男性ホルモンに依存しており、前立腺内のがん細胞もこれによって成長しています。この男性ホルモンを内服薬や注射によって抑制することでがんの進行を抑えるのが内分泌療法です。 これらの治療法により、前立腺がんは数ある癌腫の中でも非常に治療効果の高いがんでもあります。5年後の相対生存率(男性2003年〜2005年)は93.8%と他の部位のがんと比べても非常に高く、それだけに早期発見・早期治療が重要といえるのです。
前立腺がんの発見に有効なPSA検査、触診、MRI、針生検
当医院では、排尿障害のある方や、健康診断で二次検査が必要と診断された方が検査のために来院されるケースが多いです。前立腺の疾患を調べるためにはPSA検査が有効です。これは前立腺特異抗原の量を調べる検査で、血液で検査をおこないます。健康な人のPSAの値は基本カットオフ値である4 ng/mlまでが正常といわれていて、前立腺がんの他、加齢や前立腺炎、前立腺肥大の場合にも数値は上がります。
一方で4〜9 ng/ml台がグレイゾーンといわれていて、この範囲の約25%の方が前立腺がんだといわれています。逆に7割以上の方が前立腺癌以外の要因でPSA高値となっているわけです。またPSAの値は前立腺の大きさにも影響を受けますので、正常な状態の前立腺であってもサイズが大きい場合はPSA値も大きくなります。つまり、前立腺が小さいのにPSA値が高い場合はそれだけ前立腺癌の可能性が高くなり、PSAがグレイゾーンでも無駄な生検を減らす努力も必要で、今回のようなPSA値と前立腺体積を用いて前立腺癌の可能性を図るPSAD(PSA density)や、遊離PSAと総PSAの比率を用いるPSA(F/T)などで我々泌尿器科医は各市町村で行われている前立腺癌特定健診でPSA高値で紹介される患者さんのその後のさらなる精査を行っております。
当医院では、PSA検査や直腸から前立腺の触診をおこない、さらに超音波で前立腺重量を計測し、上記のごとく解析しております。PSAが4以上で、PSADやF/Tの結果、グレイゾーンからよりブラックに近い(がんの可能性が高い)と判断され、さらに検査が必要と判断された場合は連携病院でMRI検査を受けていただきます。MRI検査の結果は当院で受取り、患者さんと私で共覧し詳細に説明します。MRIの結果によって、より確実な生体検査(針生検)に進むか、経過観察するかをここで判断していくのです。生体検査は、前立腺に針を刺して組織を取り出し、悪性かどうかを調べる検査です。ごくまれにですが合併症(発熱、出血、尿閉)が起こる場合もありますので、病院で行うことが一般的です。生検でがんと診断されれば、MRIに追加してCTや骨インチグラフィーなどで前立腺局所における周囲への浸潤度や遠隔転移を調べ、病期を決定したのち、年齢や合併症などを考慮したうえで前述した3つの治療法のうち、適正なものを選択することになります。
前立腺がんで重要なのは悪性度と病期
前立腺がんは前述のとおり、治療効果が高く、長期間の生命予後が期待できる癌腫です。しかし、前立腺がんの中でも悪性度の高いものと低いものがあり、悪性度の高いものは進行が早く、体の他の部分に転移する可能性を持っています。他臓器のがんと比べて癌死につながる可能性の低いがんではありますが、決して放置していいものではありません。特に骨転移を来しやすいという特徴があり、生命予後が長期化することで逆に闘病生活が長くなり、ひいては激しい疼痛が出現したり、下半身不随などの麻痺が出現したりと、医療費負担増だけではなく、介護者である家族の負担も増えてしまうという問題も出てきます。
ですから前立腺がんの診断で重要なのは、腫瘍の有無だけではなく悪性度と病期で、悪性度が高い場合には、手術療法、放射線療法などの積極的な局所の根治療法が必要になります。逆に悪性度の低いがんで早期の場合、早急な治療をおこなわず、待機療法でPSA値を定期followしていく選択肢もあります。
当医院でおこなう前立腺がんの治療相談とアフターフォロー
針生検まで進んだ場合、当医院では針生検は合併症の可能性を考慮し、行わないこととしておりますので、病院での検査・治療に移っていきますが、当医院では病院でおこなわれる検査や治療について、紹介する前に、事前にていねいに説明し、実際に提携先の病院を受診してから困らないよう予習のつもりでお話しさせていただいております。私自身、基幹病院の泌尿器科専門医として勤務した経験からわかるのですが、基幹病院の医師には患者さん一人ひとりと向き合ってお話しできる時間がとても限られています。当医院では、そのことで患者さんが不安に陥ることのないよう、病状についてしっかりと説明し、病院で検査や治療に向けて十分な予備知識を持っていただけるようにしています。
また、前立腺がんの治療には根治を目指すか、勃起神経を温存するかなどのさまざまな選択肢も存在し、どの病院のどの治療法を選択すべきかなど、患者さんの状況に合わせてアドバイスさせていただいております。
また、手術療法や、放射線療法、内分泌療法など、前立腺がんの病院での入院治療が終わった後には、当院で再びフォローをおこなうことも可能です。手術後の合併症として昔ほど多くは見られなくなりましたが、前立腺全摘後の尿道括約筋と膀胱吻合という尿路再建が必須となる術式ですので、1年以内には9割以上の方が緩解(尿取パッドフリー)しますが、腹圧性尿失禁に対しては術後早期から骨盤底筋体操を中心としたトレーニングを開始するほうが回復が断然早まるという結果が出ていますので、当院でも骨盤底筋体操の指導や、OAB(過活動膀胱)治療薬併用なども取り入れて術後のQOLの向上に努めております。また、吻合部狭窄による排尿困難に対しては、軟性鏡を用いて診断し、外来でガイドワイヤーを用いて先導し軟性鏡でのブジー効果で吻合部の拡張を行うことも可能です。
色々綴って参りましたが、50歳以上の方にはまず健康診断や身近な泌尿器科でのPSA検査をおすすめします。罹患率が急増する前立腺がんですが、早期発見、早期治療で十分治癒が可能な病気なのです。