この記事の監修ドクター|菅原 草先生(すがわら泌尿器科・内科)
前立腺肥大症は進行性の病気で、症状によって治療法がいろいろあります。どんなものがあるのでしょうか。
前立腺肥大症とは
前立腺は尿道括約筋の奥、膀胱の下にある男性生殖器のひとつで、精液の一部を作る役割があります。前立腺肥大症はこの前立腺が肥大して尿道を圧迫し、排尿障害を起こる病気です。もともとはクルミほどの大きさの前立腺が、肥大すると卵やミカンほどの大きさになります。
前立腺肥大症の自覚症状は…
初期は自覚症状が少なく、辛うじて排尿に違和感を感じる程度です。具体的にはトイレの回数が増える、排尿の勢いがなくなった、尿を出すのに時間がかかる、尿を出し切るのに時間がかかる、下腹部に不快感がある、などです。この時期に治療が行えると負担が軽くて済みます。
肥大が進んで尿道を圧迫するようになると、膀胱内に出し切れない尿が残尿として残るようになります。そのため残尿感や排尿に力が要ることなどが自覚症状になります。残尿から細菌感染する尿路感染が起こりやすくなり、腎臓の負担も増します。
肥大がさらに進むと前立腺が尿道をほぼ塞いでしまうようになり、充分な尿が溜まっているのに排出できず、排尿にかなり力が要るようになったり、尿が全く出ない尿閉が起こります。
前立腺肥大症の治療① 保存療法
温熱療法
尿道や直腸から前立腺に高周波を当てる治療法です。肥大した前立腺が縮小し、尿道が広く確保でき、排尿障害などの症状が軽減します。患者さんへの負担が小さい治療法でかつては広く行われていました。
治療を止めてしまうと前立腺が元の大きさに戻ってしまうので、根本治療とはなりません。薬物療法が向かない人や、肥大が軽度の人に効果的な治療法とされていましたが、今現在ではほとんど行われなくなりました。
尿道ステント
前立腺部尿道に特殊な金属の管を留置し、肥大した前立腺で圧迫されている尿道を広げて、排尿を改善する治療法です。寝たきり患者さんや手術がハイリスクな患者さんでバルーンカテーテル留置による弊害(尿道裂傷、自己抜去)を来す場合に用いられる方法です。しかし、コンセプトは恒久的留置ステントですが、実際には前立腺組織が1年も経つとステン内腔を覆うようになったり、結石が形成されたりと、旧ステントを抜去して新たに留置しなおすケースもあります。
前立腺肥大症の治療② 薬物療法
α受容体遮断薬
前立腺部尿道に存在するα―1受容体を阻害することで、前立腺部尿道の抵抗が軽減され、排出障害が改善され、尿勢が増し、残尿を減らしていきます。
PDE(ホスホジエステラーゼ)5阻害剤
体内に存在する一酸化窒素(NO)が前立腺部尿道を弛緩させるサイクリックGMPの産生を促進する働きがあります。このサイクリックGMPを代謝し、働きを不活化させる物質がPDE5であり、このPDE5の働きを阻害することでcGMPが多くなり前立腺部尿道を弛緩する作用が増強し、延長することで、排尿障害が改善します。この働きは膀胱の排尿筋にも同様の機序が起こるため、排尿筋のコンプライアンス(排尿筋の伸展がしやすくなる)を増し、結果畜尿障害も改善させます。
漢方薬
頻尿や残尿感、下半身の冷えや、むくみの改善に役立ちます。肥大した前立腺を縮小する働きはありませんが、手術が難しい場合や他の薬の服用が難しい場合に効果的な薬です。
前立腺肥大症の治療③ 手術療法
TURP(経尿道的前立腺切除術)
内視鏡と電気メスを使用して尿道内から肥大した患部を切り取って治療を行います。少しずつ削り取るように患部を切り取り、尿道を広く確保します。痛みや出血がなく、傷跡も残らない広く行われている手術ですが、肥大が進みすぎたり、尿道が狭すぎたりすると適用されないこともあります。
レーザー治療(Holep)
近年広まってきた治療法で、内視鏡下にレーザーを用いて前立腺内腺を外腺から剥離していき、内線をくり抜く手術法です。塊としてくり抜いた患部は蒸散させて排出します。TUR-Pよりも圧倒的に出血が少なく、かなり肥大が進んだ症例に対しても行える治療であり、近年主流になりつつあります。
異常を感じたら早めの受診を
このように、前立腺肥大症は症状や進行状況によって、治療法がさまざまにあります。排尿障害がメインなのか、畜尿障害がメインなのか、それとも両者が混在しているタイプなのかをIPSS(国際前立腺症状スコア)やOABSS(過活動膀胱症状スコア)などの問診や尿路エコーによる前立腺サイズや形態の評価、そして尿流量測定による客観的な排尿機能の評価等を経て、QOL疾患であるがゆえに適切な薬物療法の選択、手術療法の適応を泌尿器科専門医に直に行ってもらうことが重要と考えます。