糖尿病の専門医インタビュー (かなざわクリニック)

糖尿病

ひとりでも多くの方を寛解へ 。患者さんと二人三脚で最適な治療をすすめる糖尿病専門医。

金澤 健太先生

2017/04/11

MEDICALIST
INTERVIEW
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かなざわクリニック
金澤 健太 院長
Kenta Kanazawa

  • 医学博士
  • 糖尿病専門医
  • 総合内科専門医
  • 内科認定医
経歴
  • 埼玉医科大学 卒業
  • 埼玉医科大学大学院 博士課程修了
  • 埼玉医科大学病院内分泌・糖尿病内科入局
  • 関越病院内科出向
  • 埼玉医科大学病院内分泌・糖尿病内科復職
  • 坂戸中央病院内科入職
  • 2017年2月 かなざわクリニック 開設

糖尿病・生活習慣病と消化器内科の専門医がそろう接遇重視のクリニック

院長先生へインタビュー

2017年の2月に開業したばかりのかなざわクリニックは、東武東上線若葉駅から徒歩3分の便利な場所にゆったりとしたスペースを確保して患者さんの来院をお待ちしています。

このクリニックでは、私が専門とする糖尿病・生活習慣病と妻が専門とする消化器内科のふたつの専門診療を軸に、内科全般にわたる幅広い診療をおこなっています。 糖尿病に関しては専門クリニックとして、血糖値とHbA1c(ヘモグロビンA1c)の血液検査をものの数分、その場でおこなえる検査体制をしいており、外部検査機関に送って結果を待つといった手間もありません。また消化器内科では、上部、下部内視鏡での検査・治療も実施しており、高度な診断・治療に対応しています。さらに当クリニックにはCTも完備しており、2つの専門分野と一般内科を網羅する診療体制は、地域のみなさまの「かかりつけ医」として十分な機能と設備を有しています。

そして何より、当クリニックが大切にしているのは患者さんへの「接遇」です。いつも患者さんに気持ちよく診察を受けていただけるよう、スタッフ一同ホスピタリティを大切に医療を展開しています

自覚症状がない糖尿病には健康診断や受診による早期発見を!

国内で糖尿病の患者さんが増えてきたのは、高度経済成長以降のこと。理由は日本人の食生活の欧米化と自動車社会。穀物食から、肉食が中心になったことから脂質の過剰摂取になったことが大きいと考えられています。

健康診断で、血糖値が高い、あるいはHbA1cの数値が高いという検査結果を受けて、はじめて糖尿病を意識する人も多いと思います。基本的に糖尿病に自覚症状はなく、初期や軽度の状態の場合、全く気づかずに生活を続けられている方もいらっしゃいます。職場や自治体で定期的の健康診断を受けていらっしゃる方は大丈夫ですが、忙しさにかまけてついつい健診を先送りにしている方などは注意が必要です。病気が進行してしまってからではそれだけ治療が難しくなっていくのは糖尿病も他の病気と同じです。また、糖尿病は一度なってしまうと、治療により症状を押さえ込むことで寛解することはあっても、完治することはないといわれています。何も体に不調がなくても年に一度の健康診断は必ず受けるようにしてください。

また、糖尿病には「のどがかわきやすい」「夜何度もトイレに行きたくなる」「疲れやすい」「急激に体重が増えた、あるいは減った」 などの症状が現れる場合もあります。これらの症状が気になったら、健康診断を待たず、糖尿病・生活習慣病の専門医に受診して、検査をおこなうことをおすすめします。

糖尿病が起こるメカニズムとは?インスリンの役割を知る

それでは糖尿病になると体の中でどんなことが起こっているのでしょうか。血液中の糖分が増え、つまり血糖値が上がって血液がドロドロになって体のあちこちに不具合が生じる。糖尿病についてそんな風にすでにご存知の方も多いと思います。それではなぜ血糖値が上がってしまうのでしょうか?それにはインスリンというホルモンが関わっています。インスリンはすい臓でつくられ、血液中の糖分を肝臓や筋肉、脂肪に振り分けて血液中から取り出す役目をおこなっています。糖分は肝臓、筋肉でグリコーゲンに変え、脂肪組織にはエネルギー源として人が活動するために蓄えられるのです。

糖尿病とはこのインスリンの分泌が十分ではない、あるいは全くできないことによって起こる病気です。免疫の異常によりインスリンを分泌する細胞が破壊されることでインスリンが出なくなるタイプが1型糖尿病、生活習慣によって徐々にインスリンの分泌能力が落ちてきたタイプが2型糖尿病とされています。 血糖値が上がったままになってしまうのは、インスリンが血液中の糖分を取り出すことができないから。つまり食べ物を摂取して血糖値が上がっても、それをエネルギーに変えることができないのです。糖尿病になると急激にやせてしまったりするのは、体の中でこんなことが起こっているからなのです。

境界型と言われたら?糖尿病の診断基準と怖い3大合併症

健康診断やクリニックや病院での受診によって、「あなたは境界型糖尿病です」と言われる場合があります。これは糖尿病になる予備軍とでもいいますか、一歩手前の状態を表しています。糖尿病は空腹時の血糖値が126mg/dl以上、食後血糖値(ブドウ糖負荷試験2時間値)が200mg/dl以上、HbA1cが6.5%以上となった時に診断されます。血糖値は食事や運動の影響を受けることが多いので、現在ではHbA1cの数値により注目されることが一般的です。境界型はと言われるのは大体、HbA1cが6.2〜6.4%の人のこと。糖尿病になる危険性が高く、糖尿病の患者さんと準ずるかたちで食事療法、運動療法に取り組むべき状況といえます。

また前述した通り、初期には自覚症状がほとんどない糖尿病ですが、重症になると危険な合併症を起こすことが知られています。血液がドロドロになることで全身にさまざまな症状を引き起こしますが、中でも三大合併症といわれている症状が深刻で目と腎臓、それに神経に現れます。目は目の中の毛細血管が破壊されて最悪失明に至ります。腎臓は腎臓の血液をきれいにする機能に障害が起こって腎不全になり、透析が必要になります。そして神経の障害は足の感覚が鈍くなってきたり、感じなくなったり、はたまたビリビリする痛みを感じるようになったりします。そうすると足に起こった異常に気づかなくなり、水虫や打撲など足のけがにも気づかず、最終的には感覚障害、血行障害から足が壊疽を起こして、切断することになってしまうのです。

1型糖尿病と違い2型糖尿病は現代人にとってはちょっとした生活習慣の違いで起こる病気です。しかしそのことによって起こる症状は日常生活ばかりでなく命にも関わるものです。自覚症状がないからと安易に考えず、少しでも不安に感じたら必ず専門医の受診をおこなってください。

境界型、初期の糖尿病さんにすすめる食事療法

当クリニックには私が開業するまで勤務していた坂戸中央病院の患者さんで私の継続治療を望まれる方と、新しくできたこのクリニックを看板やホームページで見つけて来院される方がいらっしゃいます。新しい患者さんの中には、職場や自治体がおこなう健康診断で、糖尿病の疑いが出た方、もしくは気になる症状があり糖尿病を心配されて自ら来院される方もいらっしゃいます。

当クリニックでは糖尿病内科のクリニックとして、その場で血糖値とHbA1c検査ができますので、待つことなく気軽に検査を受けていただくことができます。境界型、もしくは軽度の糖尿病と診断された方は、食事療法と運動療法をすすめていただくことになります。

食事療法は、一般的にメタボリック対策としてすすめられている方法と同じで、患者さんの体に合わせた量をバランス良く取ることが重要です。エネルギーとなる炭水化物を6、脂質を2、タンパク質を2の割合で取ることでこのバランスが保てます。ダイエットのために炭水化物をカットする方法などが話題ですが、代わりにタンパク質や脂質の過剰摂取をすると、また体に別の悪影響を与えてしまうこともあります。食事から摂取した栄養を効率よく使うには、朝食を多めに、夕食を少なめにするのが理想です。また、繊維質の多い野菜などを食事のはじめにとることで過剰な糖分の吸収を抑えることもできます。

また糖尿病の方にとって注意すべきなのはソフトドリンクの過剰摂取です。炭酸飲料や果汁飲料には多くのブドウ糖が入っていて、飲むと急激に血糖値が上ります。これによって、口が渇く、倦怠感などの症状が出て、さらにソフトドリンクを飲みたくなるという悪循環を生みます。血糖値の上昇の程度によってはケトン体と呼ばれる有害な酸性物質が体内に増え、倦怠感がさらに増し、最終的には意識障害や昏睡状態になることがあります。これをソフトドリンクケトーシス(ケトアシドーシス)といい、大変怖い合併症です。

代謝のバランスをゆっくりと変えていく運動療法

当クリニックで多くの患者さんに指導する運動療法は筋トレを強化したり、100mダッシュをするような強度の高いものではなく、基本的には毎日30分程度の散歩を推奨しています。日本糖尿病学会では60kgの体重の人が30分間ゆっくりと歩いて消費されるカロリーはたった100kcalとされています。これでは大して効果が期待できないのではと考えられるかも知れません。しかし、この30分の散歩によって体の代謝が活発になる効果は2〜3日間持続するといわれています。代謝の良い状態であれば通常の日常生活自体も健全な方へと向かいます。実際この1日30分の散歩を毎日続けるだけで、血糖値のコントロールが改善する患者さんが多く、単に1回100kcalを消費するだけの効果ではないのです。

糖尿病は強い運動をおこなうことで必ずしも劇的に改善されるわけではありません。どんな風に日常生活に運動を取り入れていけるか、患者さんそれぞれが無理のないかたちで、自分に合った運動方法を継続していくことが大切なのです。

かなざわクリニック待合室

薬剤介入と患者さん一人ひとりに向き合った治療法

糖尿病が進んだ患者さんには食事療法と運動療法だけでなく、薬剤を使った治療が必要になります。それではHbA1cの検査結果がいくつになったら薬剤介入が必要でしょうか。私が診察する場合、必ずしも血糖値、HbA1cの値だけで食事・運動療法だけ、または薬物療法をおこなうといった決まった基準はありません。患者さんとよく話し、治療に対してどれだけ真剣に取り組んでいただけるか。これまでの日常生活の話もよくお聞きして、その患者さんだけの治療方針を立てていきます。糖尿病の治療法は5人の専門医がいれば5通りの方針があるというくらい、治療法に答えのない病気だといわれています。だからこそ患者さんと医師とのコミュニケーションと信頼関係が不可欠で、医師だけの力で治療するのではなく、患者さん自身の意識や行動にも治療の結果は大きく左右されるのです。

薬物療法の方法はインスリンを投与する方法が知られていますが、その他として、体内でインスリンの分泌を促す薬や、インスリンの効果を上げる飲み薬なども用いられます。また、血糖値をコントロールするために腸管から糖の吸収を抑える薬、腸で吸収した糖分を尿で排出してしまう薬などがあります。 インスリンの過剰投与は極端な低血糖状態をつくるので命の危険があります。薬物療法には医師の適切な処方と指導が不可欠です。境界型や初期の糖尿病の方には薬物療法はおこなわずに食事療法・運動療法で寛解につながることが理想です。

当クリニックでは、患者さんと医師が二人三脚で治療をすすめていきます。医師のアドバイスから患者さん自身が自らの生活をデザインし直し、健康的な生活習慣を身に付けることが糖尿病を快方に向かわせる一番の治療法なのです。