循環器専門医インタビュー (沼南ハートクリニック)

循環器専門医

大学病院、地域中核病院での経験をクリニックで活かす循環器外来診療のスペシャリスト

矢部 彰久先生

2017/05/25

MEDICALIST
INTERVIEW
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沼南ハートクリニック
矢部 彰久 院長
Akihisa Yabe

  • 医学博士
  • 日本内科学会認定 総合内科専門医
  • 日本循環器学会認定 循環器専門医
  • 日本心血管インターベンション治療学会認定 名誉専門医
  • 日本医師会認定 産業医
経歴
  • 1989年 獨協医科大学卒業 同循環器内科学教室入局
  • 1990年 東京都老人医療センター(現:東京都健康長寿医療センター)循環器科
  • 1991年 心臓血管研究所付属病院 内科
  • 1994年 獨協医科大学循環器内科 助教
  • 2005年 獨協医科大学循環器内科 講師
  • 2011年 佐野市民病院 循環器内科部長

地元沼南で循環器・総合内科専門医として地域医療に貢献

私はこれまで大学病院や地域の中核病院において、循環器内科の専門医として、心不全、心筋梗塞、不整脈などの循環器疾患の治療に携わってきました。狭心症や急性心筋梗塞に対するカテーテル治療をおこないながら、これらの原因となる高血圧、糖尿病、脂質異常に対する外来診療をおこない、多くの患者さんの循環器に関わるさまざまな病気の治療に力を注いで来ました。そんな私がプライマリケアをおこない、総合病院よりももっと身近に患者さんと関わっていけるクリニックを開業したのは2016年10月のこと。まだ新しいクリニックですが、駅に近い便利な立地から周辺の方々だけでなく、沿線にお住まいの方々まで、総合内科と循環器の専門の新たな地域医療の拠点として期待をいただいています。

狭心症とは?体の中で何が起こっているのか

運動した後や、重労働をおこなった時など、抑えつけられるような胸の苦しさを感じる。また睡眠時や明け方など、安静にしている時に突然これも胸を押されるような苦しさを感じて目覚めてしまう。これらの症状は狭心症のせいかもしれません。狭心症とは、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈という3本の太い血管が狭くなって心筋への血液の供給が不足して起こる病気です。運動時などに現れる労作性狭心症は、運動によって心臓が激しく動く必要があるのに、冠動脈が狭くなっていることによって心筋への血液供給が間に合わなくなり、胸苦しさや痛みを覚えます。これとは逆に睡眠中などの安静時に現れる狭心症を安静時狭心症、または冠れん縮性狭心症といい、冠動脈が狭くなるのではなく痙攣することによって血行を阻害し、同じく胸の苦しさを感じる病気なのです。労作性狭心症は、コレステロールが血管壁に蓄積し、血管が硬化するために起こることがわかっています。一方、冠動脈がれん縮(けいれんして縮む)する安静時狭心症は若年層の人にも現れ、労作性に見られる、高コレステロール、高脂質傾向と必ずしも一致しないという特徴があります。冠動脈にけいれんが起こる原因はまだ不明ですが動脈硬化の前兆とも言われていて、労作性狭心症と同じくニトログリセリンなどの狭心症治療薬によって症状が改善します。

狭心症から心筋梗塞へ…決して進めてはならない循環器疾患のステップ

健康診断で狭心症の傾向が見つかったり、自覚症状によって狭心症の疑いがある場合は、早急に専門医による診断が必要です。また心筋梗塞は緊急性を要する疾患で、診断されればクリニックではなく循環器の専門医チームのいる総合病院への搬送が必要となります。狭心症はこの心筋梗塞の前段階となる病気と考えて良いかもしれません。狭心症は前述のとおり冠動脈が狭くなることによって血液が足らず心筋の細胞が酸欠を起こしている状態を指します。心筋梗塞はこの冠動脈が完全に詰まることによって、心筋が壊死を起こすものです。心筋細胞が完全に死んでしまうと、たとえ血流が再開しても蘇ることはありません。心筋壊死の範囲が大きければもちろん死につながります。このように心筋梗塞は生死に関わる病気で、狭心症はその一歩手前。狭心症から心筋梗塞へと悪い方向に進んでいかないよう、薬剤の治療と生活習慣の改善が不可欠なのです。

狭心症の検査方法と診断そして治療法は?

当クリニックには、健診によって狭心症の疑いを指摘された方や労作時や安静時の胸苦しさを感じて自ら受診される方の二つのパターンがあります。狭心症は症状に規則性があり、日常生活や症状が出た際の状況などを詳しく問診していくことによって、かなり正確な診断に近づくことができます。そして狭心症の検査に有効なのが心電図による検査で、狭心症を持っている人には独特の波形が現れます。また、ある程度の運動負荷をかけ、その前後での心電図を比較することでも狭心症を特定することができます。現在では小型で装着したまま日常生活が可能なポータル心電図があり、24時間、あるいは48時間など、心電図の記録を取りながら生活してもらいます。症状が出た時刻やその他の生活状況など患者さんにメモをとってもらい、心電図の状況と付き合わせていきます。これらの検査により、狭心症と診断された場合は、軽度であれば薬剤による治療という選択肢もありますが、基本的には基幹病院で冠動脈CTなどによる検査をおこない、さらにカテーテルによる検査と治療をおこなうことをおすすめしています。基幹病院でおこなう狭心症の治療は、まず冠動脈CTによって血管が狭くなっている部分を見つけます。さらにカテーテルと呼ばれる細いチューブで冠動脈を直接造影したうえで、血管の狭い部分をバルーン(ふうせん)で拡げたり、ステントという金属製の網を血管内に留置して血管が再び狭くならないように内側から支えたりします。冠動脈は太いといっても外径はわずか3〜3.5mm程度です。カテーテルによる治療は高度な手技と医療チームによるサポートや緊急時のバックアップが不可欠で、体制を整えた一部の専門クリニック以外では、大きな病院でないとできない治療なのです。

当クリニックでおこなう狭心症の二次予防

狭心症と診断されれば、それはすでに冠動脈のどこかが狭くなっていたり異常があるということです。ご高齢で普段から安静に過ごされている方や、不安でどうしてもやりたくないおっしゃる方以外は、基幹病院でのカテーテル治療や外科手術をおすすめしています。そしてこれらの治療のあとには、二次予防としてまた継続治療が必要となり、私たちのクリニックでおこなうことが可能です。狭心症は冠動脈の狭くなった箇所を治療しても、また他の部分が狭くなってしまっては元も子もありません。狭心症になるということは、その患者さんの体質や生活習慣がそのままでは狭心症になりやすい状態にあるともいえるのです。二次予防ではその患者さんに必要な薬剤の投与や生活習慣の改善をおこないます。血圧を下げ、糖尿病、高脂血症などのリスクをコントロールして、二度と狭心症にならないための健康管理おこなうのです。狭心症は慢性的な生活習慣病の結果現れる症状です。治療したから、手術したから終わりではなく、健康的な状態へと向かう生活習慣を身に付け、治療を継続していくことが大切なのです。

循環器疾患の悪い流れを断ち切る血圧のコントロール

循環器の疾患には狭心症、心筋梗塞の他にも危険な疾患があります。不整脈のひとつである心房細動という疾患は、電気的なけいれんが心臓に起きたようなもので、通常の心拍をはるかに超えるような回数で心臓が収縮したり収縮のリズムがバラバラになったりします。このため、心房内の血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。この血栓が脳動脈に流れて脳梗塞を起こす危険があるのです。脳梗塞は生活水準を著しく下げるので、心房細動の治療と脳梗塞の予防が現在クローズアップされています。血圧が高いとそれだけ心臓や血管に負担がかかり続けていることになります。心臓への負担で心房細動が起こりやすくなりますし、血管への負担で動脈硬化が進行し狭心症や心筋梗塞を引き起こします。50代60代の高血圧を放置して、70代、80代で狭心症や心筋梗塞、心房細動による脳梗塞をおこしてしまう。循環器の病気には高血圧からはじまる悪い流れがあるのです。つまり高血圧を解消してこの流れを断ち切ることができれば、循環器に関わる多くの病気にかかるリスクを減らせるのです。

本当の自分の血圧を知る。家庭での血圧測定が健康の第一歩

現在では家庭用の血圧計も普及しており、公共場所で気軽に血圧を測れる場所も増えています。そんな場所で血圧を測ったことがある方なら、ご自分の血圧がいかに簡単に上下するかもご存知のはずです。安静時の血圧は上が120〜130、下が80〜90ぐらいが正常とされています。しかし、少し運動しただけで大きく血圧は変わりますし、医師や看護師に計測される際、緊張して血圧が上がりやすい方もいます。たった一度医療機関で計っただけの血圧では何もわからないと言っても過言ではありません。本当の血圧を知るためには、血圧の測定に慣れていただき、家庭でリラックスした状態で複数回測定してもらうほうが正確なのです。私の場合、クリニックでの測定で一度上の血圧が150を超えたからといってすぐに薬剤治療をすすめたりはしません。まずは1ヵ月程度じっくりと家庭血圧を測っていただき、多くの測定値から患者さんの本当の血圧を判断して、薬剤治療が必要か、減塩や脂質をとらないようにするなどの生活習慣の改善で対応していくかを判断していきます。高血圧はサイレントキラーと呼ばれ自覚症状はありませんが、さまざまな臓器にダメージを与える大きな原因です。患者さん自身が根気よく取り組む必要がある生活習慣の改善はむしろ薬を服用するより難しいです。しかしこの生活習慣の見直しこそが、循環器疾患の悪い流れを起こさないための基盤となる方法なのです。高血圧にならないためには適度な運動と食生活のバランス、そして減塩が重要です。今血圧が高めの方はもちろん、特に体の不調を感じていない方も、10年後20年後の健康のためにぜひ小さな目標からはじめて生活習慣の改善をはじめてみてください。