低身長
内分泌専門医がおこなう子どもの低身長の診断と成長ホルモンによる治療
2017/08/04
糀谷こどもクリニック
髙木 優樹 院長
Masaki Takagi
- 日本小児科学会 小児科専門医・指導医
- 日本内分泌学会内分泌代謝科 (小児科)専門医・指導医
- 人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
- 日本内分泌学会評議員
- 日本小児内分泌学会評議員
- 経歴
- 平成14年3月 慶應義塾大学医学部卒業
- 平成14年5月 慶應義塾大学医学部小児科学教室入局
- 平成19年4月~平成23年3月 慶應義塾大学医学部大学院博士課程
- 平成24年4月~平成28年6月 東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科医員
- 平成28年7月~平成29年3月 川崎市立川崎病院小児科医長・川崎市小児慢性特定疾病審査会委員
小児科・内科・アレルギー科・皮膚科の専門医がそろう子どものためのクリニック
糀谷こどもクリニックは「小児科専門医」「臨床遺伝専門医」「内分泌代謝科専門医」「アレルギー専門医」「皮膚科専門医」がそろうお子様のための専門クリニックです。一般的な小児科診療はもちろん、子どもに有りがちな様々な疾患に対応できる体制を整えています。6月の開院からまだわずかな期間しか経過していませんが、糀谷の街の新たな医療の拠点として広く受け入れていただき、既にたくさんのお子様が親御さんと共に来院しています。
私自身は小児科専門医であると同時に内分泌と臨床遺伝の専門医でもあります。特に内分泌代謝(主に小児の成長)に関して大学病院や小児病院で、臨床・研究と研鑽をつんで参りました。このクリニックの専門外来として子どもの低身長に関して内分泌専門医の立場から的確な診断・治療をおこなっていきたいと考えています。
様々な原因が考えられる子どもの低身長。まずは原因の究明と基準の確認が重要です
子どもの低身長の原因が成長ホルモンの分泌不全である場合には成長ホルモン製剤で治療が可能となります。しかし、子どもの成長はご存知の通り個人差や、環境にも大きく影響を受けるため、一概に成長ホルモンの投与だけで解決するわけではありません。お子様が成長ホルモン投与の適応となる低身長なのか、それ以外に原因があるのかを、しっかりと見極めて治療を進めていく必要があるのです。
お子様の低身長のことで私が相談を受けるのは、3歳児健診で医師から指摘を受けた場合や、幼稚園への入園や、集団保育への参加で、同年齢の子どもと比べてお子様の身長が低いと感じられた場合が多いです。また、小学校、中学校への入学時など、お子様の身長が思うように伸びなかった場合に相談されることもあります。
お子様の身長が伸びない原因は様々あり、遺伝による家族性(体質性)低身長が8〜9割といわれています。ご両親が小柄の場合、お子様も小柄な場合が多く、これは自然なことで治療の対象とならないことがほとんどです。栄養不足、極度の偏食などによって成長が止まる場合もあります。また、子どもの成長に影響する慢性的疾患や、虐待や受験などの心的ストレスによっても身長の伸びが止まる可能性もあります。
実際に低身長の相談に来られるケースの8割が家族性(体質性)低身長あるいは栄養不良による低身長にあたります。残る2割程度が成長ホルモンの分泌不全等を原因とする低身長と診断されます。
−2SDという低身長の基準値とは?
子どもの低身長について治療が保険適応となる条件にお子様の身長が−2SD以下であるという基準が設けられています。SDとはSDスコアという標準偏差を表す数値で、−2SDは全体の2.3%に入る身長の低さということになります。ただこの数値は、家庭での判断は難しく、医療機関で正確に測定した上での判断が望ましいです。例えば、お子様が保育園で一番小さかったとしても、その保育園の子どもたちの身長が平均よりも高ければ、お子様が−2SD以下とは限りません。もしお子様が「低身長なのでは?」と思われた場合は、直接当クリニックでご相談いただく、あるいはかかりつけ医師に相談していただき、必要に応じて専門医の診察を受けることをすすめます。
お子様の身長が−2SD以下で、家族性(体質性)低身長や栄養不良、心的ストレス、等が否定されたとき、成長ホルモンの分泌不全かどうかの精密検査をおこないます。それは成長ホルモンの分泌刺激(負荷)試験という検査です。点滴で成長ホルモンの分泌を促す薬剤を投与し、30分に1回、3-5回にわたって採血をおこないます。その血液検査によって成長ホルモンの分泌状況を測定し、成長ホルモン製剤の投与による治療が適応となるかを確認します。成長ホルモンの分泌不全が確認されれば、−2SDの基準と合わせて保険適応となり、成長ホルモン製剤の投与による治療が可能となります。
総合病院でしかできなかった成長ホルモン分泌刺激(負荷)試験が当クリニックで可能になりました
成長ホルモンの負荷試験は専門的な知識を要し、所要時間が1-2時間以上であるため、通常は大学病院や専門病院に入院しておこなうのが一般的でした。しかし専門外来として内分泌専門医が在籍し、検査のためのスペースとベッドを用意できる当クリニックでは、この負荷試験が日帰りで可能です。血液検査の結果は1週間程度でわかります。
負荷試験の結果、成長ホルモンの分泌不全と診断されると、ご本人およびご家族と相談して成長ホルモン製剤による治療をスタートします。この成長ホルモン製剤の投与は就寝前に毎日必要で、注射しか方法がありません。成長の止まる高校生ぐらいまで投与を続けるのが一般的です。小さなお子様にはご家族が注射をおこない、注射が可能な年齢に達してからはお子様自身が注射をおこないます。
成長ホルモン製剤の副作用まれな副作用にはインスリン抵抗性の増大による耐糖能異常(糖尿病のような状態)、脊椎の側湾を助長する、といったものがあります。インスリン抵抗性については薬の投与を終了すれば改善します。定期的な副作用チェックが必要です。
早く思春期が訪れることによる低身長の治療も可能です
子どもの成長は男子も女子も思春期に劇的に進みます。思春期は成人身長を決める最後の伸長期でもあり、この思春期が早く来すぎてしまうことによって低身長になってしまう場合があります。女の子の場合、思春期が訪れる時期を知るには胸が膨らみ出す時期で判断します。一般的には7歳半より前に胸が膨らみはじめた場合は、思春期早発症の可能性があります。男の子の場合は精巣容積の増大で思春期に入ったかどうかを判断しますが、外見的にも本人にもわかりにくく、熟練した内分泌科医の診察を受けるしかありません。
身長が−2SD以下でかつ思春期早発症の場合、条件を満たせば医師による月に1回程度の注射によって思春期の進行を遅らせることができます。この治療によって、最終的な低身長を予防できる可能性があります。思春期の発来が早いのではないかとご心配な方はまずは当クリニックでご相談ください。
成長ホルモン製剤で治療中の8歳の男の子のケーススタディ
私が勤務医時代から治療をおこなっている8歳の男の子の例をご紹介します。この男の子は、3歳児健診で低身長と診断され、4歳の時にかかりつけ医の先生からの紹介で、私が治療することになった患者さんです。
この男の子の4歳時の身長は−3SD以下で低身長の基準をさらに下回る身長でした。負荷検査の結果、成長ホルモン分泌不全が確定しました。ご両親に就寝前の注射について説明し、成長ホルモン製剤による治療をスタートしました。薬の効果はしっかりとあらわれ、現在8歳となったこの男の子の身長は同年の男の子の平均身長に達しています。
しかし治療はこれで終わりではありません。男の子の身長の伸びが止まる高校生ぐらいの時期まで投与を続け、医師が状況を見ながら投与を終了していきます。また、成長ホルモンには身長を伸ばす以外に体組成をコントロールする機能や心に影響することもあり、成長ホルモンの投与を辞めると人によって太ったり、筋肉が痩せたり、元気がなくなったりする場合があります。条件を満たせば成人向けの少量の成長ホルモン製剤投与による対応が可能です。
お子様の低身長は親御さんにとっても心配なところだと思います。大切なのは家族性(体質性)低身長のように経過観察のみでよいものなのか、治療が可能な病的な低身長なのかをしっかりと見極めることです。当クリニックでは総合的な低身長によるご相談をお受けしていますので、お子様の成長が気になる方はお気軽にご相談ください。