おねしょの専門医インタビュー (宮川クリニック)

おねしょ

小さな患者さんの晴れやかな笑顔が一番うれしい夜尿症のスペシャリスト

久保田 亘先生

2017/11/03

MEDICALIST
INTERVIEW
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宮川クリニック
久保田 亘 院長
Wataru Kubota

  • 小児科専門医
  • 小児科指導医
経歴
  • 2006年 昭和大学医学部 卒業
  • 2006年 東京歯科大学市川総合病院
  • 2008年 慶應義塾大学病院
  •     小児科学教室入局
  • 2009年 神奈川県警友会 けいゆう病院 小児科
  • 2010年 横浜市立市民病院 小児科
  • 2013年 東京都立小児総合医療センター
  •     腎臓内科

地域で愛される小児科クリニックに新院長が就任しリニューアルオープン!

宮川クリニックの外観

宮川クリニックは二子新地で20年以上地域の子どもたちの健康に貢献してきた地元の方々から厚い信頼をいただいている小児科クリニックです。2017年4月のリニューアルに伴い、宮川桂子先生に代わって私が院長を務めることとなりました。これまで大切に培われてきた皆様からの信頼にこれからも応えていけるよう、新たなメンバーで全力を尽くしていきたいと思います。

当クリニックの特徴はおねしょ・肥満・低身長・食物アレルギー・育児相談など、各分野の小児科エキスパート複数名で診療にあたることです。また、お子様ばかりでなく家族が受診できるファミリークリニックとして、皮膚科、内科の診療をおこなっています。また院内感染防止のための隔離待合室の設置やベビーカーでの移動を簡単にするため、内装も一新いたしました。スマートフォンやパソコンから診察内容に応じて簡単に予約ができるようにもなりました。来院されたお子様やご家族が、家に帰ったときのような安心感を得ていただくクリニックにするために、地域の皆様の声を大切に一歩一歩進んでいきたいと考えています。

小中学校でも実は6%の子どもが!夜尿症は実は身近な病気なのです。

未就学の小さなお子様がおねしょをしてしまう。これは決して悪いことでも珍しいことでもありません。おねしょは、夜間、睡眠中に無意識に排尿してしまう状態で、脳の排尿抑制機構が発達する5歳前後に解消するといわれています。個人差もありますので、小学校入学のになるまでに自然と治まるのが理想です。小学校になると、「お泊まり教育」などが3〜4年生でおこなわれることも多いようです。小学校の入学時にまだおねしょがあったら、しっかりと治療して、お子様の成長に合わせて集団生活に対応できるようにしていくこともお子様のために大切です。

実は小中学校の子どもたちの中にも6%程度の夜尿症の子どもがいるといわれています。中学生のような大きな子どもの場合でもクラスに一人程度は夜尿症の子どもがいる計算です。さらに、20歳を過ぎて大人になっても夜尿症の人はいます。年齢が進むにつれて恥ずかしさも大きくなり、自分で対処してしまい、治療をしないまま大人になってしまう人もいます。しっかりと治療に取り組むタイミングとしてやはり小学校入学前がベストなのです。

夜尿症の背景となっている病気がないか、6歳になったら一度相談を

おねしょについてのインタビューを受ける久保田先生

先に申し上げた通り、5〜6歳までおねしょがあることは異常ではありません。当クリニックを訪れる夜尿症を心配されるお子様も6歳児以上がほとんどで、それより早いお子様は5歳児健診をきっかけに相談に来られる場合もあります。6歳以上になってもおねしょが続く場合に特に注意しなければならないのは、背景となる他の病気がないかどうかです。脳や腎臓の働きの問題で起こる「尿崩症」や先天性疾患の「二分脊柱」などが原因で夜尿症が起こっている場合もあります。このほかにも「過活動膀胱」「尿路感染症」などの泌尿器に関わる病気や、「糖尿病」など体全体に影響する病気が夜尿症の背景に隠れている場合もあるのです。

これら夜尿症の背景となる病気には総合病院等で治療が必要な深刻なものもあります。その見極めには医師による診断を受けるのが最も良い方法です。おねしょが6歳以上まで続くようなら一度は医師に相談して、背景に重篤な病気がないかを確認してください。

便秘や生活習慣の改善で治る夜尿症

背景に病気がないと診断されれば夜尿症の治療を開始していきます。他の病気と同様、ていねいな問診からはじめますが、6歳〜7歳のお子様の場合、自分で受け答えできるかどうかはそれぞれです。付き添いのお母様など、ご家族から状況をうかがうのが中心になります。

私が問診で特にうかがうのはお子様の生活や食事の状況です。就寝前に飲み物を飲んでいるか、便秘はないかなどを確認しています。便秘がちな子どもは、どうしてもお腹の中の圧力(腹圧)が上がってしまうため、夜尿症が出やすいです。また、就寝前に飲み物を飲むのもおねしょがある場合は避けるべきです。また就寝途中で目が覚めて水やお茶を飲んでしまうという子どもがいますが、それは脳の異常や糖尿病などの可能性も考えられますので、夜尿症とは別の対応が必要です。

今の子どもは習いごと、おけいこごとなども多く、日常的に夕食の時間が遅くなっている傾向があります。当クリニックで受診されるお子様も週3〜4日以上も習いごとがあることも珍しくありません。1日のスケジュールを見ると、夜9時に帰宅、すぐに夕食、10時就寝というような生活を送っている場合も。おねしょをしにくくするためには、やはり食事や入浴後の水分摂取は、就寝2時間前までに済ませておくのが望ましいです。

薬を使った治療法は?数ヶ月、数年の期間でおこなう夜尿症の治療

薬についての説明

生活習慣の改善と併せて、今では夜尿症に有効な治療薬もあります。私たちは睡眠時にトイレにいきたくならないように尿の量を調整する抗利尿ホルモンが分泌されています。この抗利尿ホルモンを薬で補うことで、おねしょを抑える効果があります。また膀胱を柔らかくすることで、尿を蓄えられる量を増やす効果を期待できる薬があります。

この二つを併用する場合、どちらか一方を使う場合とお子様にあわせて処方は変わります。問診により状況を聞いて、処方を決め、だいたい3ヵ月間薬の効果を見ていきます。状況が改善したら薬を継続し、改善が見られなければ、量を増やしたり、他の薬を試したりして治療をすすめていきます。

薬剤治療は、夜遅い飲食や便秘など生活の様子で夜尿症の原因が見つけらない場合におこないます。また、便秘が原因の夜尿症も多いので、これら夜尿症の薬を使用する以前に、便を柔らかくする薬や、腸の動きを活発にする小児用の便秘薬で治療する場合もあります。

また薬剤治療の他にアラーム療法という方法もあり、これは就寝時お子様の下着にセンサーを取付け、尿が出るとアラームが鳴るようにする治療法です。大音量のアラームが鳴るため、お子様だけでなくご家族も一緒に起きてトイレにいくことになります。これを繰り返すことで、12時、1時、2時とお子様がトイレに行く時間が遅くなっていき、最終的に朝までトイレに行く時間が延びていきます。

このように夜尿症は生活習慣の改善や様々な治療をおこなうことで治ります。しかし、これから夜尿症の治療をしたいと考えるお子様とご家族に知っておいてほしいことは、治療によって一朝一夕で治る病気ではないということです。使用する薬剤はお子様によって大きな効果を現しますが、それでも今日飲めば今晩効くというものではありません。薬によって少しずつおねしょが止まったら、薬を減らす、なくすという段階を経て、夜尿症を完全に治すことができるのです。早くて数ヶ月、ときには1〜2年かかる場合もあります。根気よく治療に努めることが根治の早道です。

宮川クリニックの受付・待合室

お子様自身のモチベーションが夜尿症を治すカギ

6歳ぐらいの子どもたちにとって、おねしょはまだそれほど深刻な悩みではないかもしれません。クリニックに来るお子様の様子を見ても、お母様は真剣ですが自分から「おねしょを治したい」という思いを表に出すお子様はまれです。しかしそれはお子様本人がまだ幼いというのもありますが、恥ずかしいからこそはぐらかしたい、ごまかしたいと思う気持ちがあるからでもあります。だからこそお母様と私だけの問診にせずに、お子様に主体になっていただくことも大切です。

当クリニックで治療中の6歳の男の子はじっくりお話しすることで、おねしょを治すモチベーションを持ってもらうことができました。治療法は排尿日誌をつけることと食事時間などの生活指導をおこないました。朝起きたらトイレでしたおしっこの量を計量カップで量ってもらいます。おねしょせずに成功した日にはカレンダーにシールを貼って記録づけをしてもらっています。

お子様の朝の排尿量を量ることで夜の様子がわかります。生活を改善して成功した日が出てきたらしめたもの。お子様にとって成功体験は大きな喜びで、「次も頑張る」という強いモチベーションにつながるのです。結果が出はじめると、このお子様にも晴れやかな笑顔が見られるようになりました。最初はお母様の後ろに隠れがちだったお子様ですが、今では元気に生活の様子を話してくれています。夜尿に関してお子様自身がしっかりと意識を向けられること。これがおねしょを大きく改善する場合もあるのです。