認知症の専門医インタビュー (ほどがや脳神経外科クリニック)

認知症

さまざまな認知症に的確な診断を。物忘れ外来に注力する「脳神経外科」の専門医

日暮 雅一先生

2016/12/15

MEDICALIST
INTERVIEW
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ほどがや脳神経外科クリニック
日暮 雅一 院長
Higurashi Masakazu

  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本頭痛学会専門医
  • 日本認知症学会専門医
  • 日本脳卒中学会専門医
  • 認知症ケア専門士
  • 医学博士
経歴

1999年、横浜市立大学医学部卒業。脳神経外科医として、横浜市立大学脳神経外科教室に入局する。横浜市内の複数の基幹病院での修練。その後、小田原市立病院脳神経外科では主任医長、横浜市立大学大学院医学研究科では医局長を務めた。オーストラリアMacquarie大学へ留学。帰国後、新緑脳神経外科・横浜サイバーナイフセンター医長を経て、2016年11月に「ほどがや脳神経外科クリニック」を開院した。脳神経外科医としての輝かしいキャリアの中では、頭痛・認知症・脳卒中それぞれの分野で学会専門医も取得。研鑽に裏打ちされた診療技術を生かし「脳のあらゆる症状を診る」クリニックとして、患者の診療にあたる。

認知症診療に注力。研究テーマをきっかけに研鑽を積み専門分野へ

認知症のインタビュー時の日暮先生

当クリニックの専門は、「頭痛」・「認知症」・「脳卒中」です。この3つの領域を専門とするクリニックは数少ないので、大きな特色といえると思います。そのなかでも、近年私が研鑽を積んできたのが認知症でした。

もともと、私は脳神経外科医として横浜市立大学および関連基幹病院で脳動脈瘤やバイパス手術、良性脳腫瘍の手術を中心に診療にあたっていました。

一方で、外科キャリアと並行し、頭痛であれば間中病院の間中信也先生に師事するなど、脳神経疾患におけるさまざまな学びを続けていました。認知症に取り組むようになっていったのも、そのような背景からです。

きっかけは、医学博士の学位取得を目指していたころです。当時なかなかよい研究テーマに巡り会えず、医学部学生のころから交流のあった神経薬理学の五嶋教授にアドバイスを仰ぎました。そこで、「微小管重合蛋白質」という神経細胞を形づくる骨格を調節する蛋白質をテーマに研究するご縁をいただきました。微小管重合は、アルツハイマー型認知症など精神疾患の原因に関係することが明らかになっています。この頃から、脳神経科学や認知症に興味をもつようになりました。

その後、グループホームなどで、認知症の在宅医療にも関わるようになり、認知症の患者さんに携わる機会も増えていきました。そこで、認知症指導医の先生のもとで修練し、認知症ケア専門士、認知症専門医の資格をそれぞれ取得。以降、自分の専門分野として研鑽を積んできました。

認知症には複数の種類がある。知っておくべき「三大認知症」とは?

車椅子

認知症と聞くと、まず皆さんが思い浮かべるのは、「アルツハイマー型認知症」でしょう。認知症=アルツハイマー型認知症と思われている方も少なくないと思いますが・・・、しかし、あくまでも認知症は総称。実際には、さまざまな種類があります。

まず挙げられるのが、アルツハイマー型認知症を含む「三大認知症」とよばれる、「脳血管性認知症」や「レビー小体型認知症」。脳血管性認知症は、糖尿病など生活習慣病により動脈硬化が進行し、脳梗塞や脳出血を繰り返すうちに、階段状に脳の障害が進むことで発症するもの。有病率ではアルツハイマーに次ぐ疾患です。もう一つのレビー小体型認知症は、パーキンソン病と同じα-シヌクレインという物質が脳の神経細胞に特異的に蓄積され発症する認知症です。症状としては、幻視や夢遊病のような症状などを引き起こします。

ほかにも、神経細胞にピック球やTDP-43という異常蛋白質が蓄積して発症する「前頭側頭型認知症」、脳脊髄液という脳内を流れる液体の循環異常から発症する「特発性正常圧水頭症」。また「脳腫瘍」や「甲状腺機能低下症」、「ビタミン欠乏症」などが原因となる認知症もあります。

認知症には治療できるタイプも

このように、数々の種類があり原因も症状も違い、ひと括りにはできない疾患が認知症です。そして、治療もさまざまにある。“治せない病気”といったイメージがあるかもしれませんが、すべてがそうではありません。

確かに、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症に関しては、進行を遅らせるお薬はあるものの、残念ながら有効な治療法は確立されていません。しかし、特発性正常圧水頭症や脳腫瘍は手術で、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症は内服薬で治療が可能。つまり、認知症にも治せるものがあるのです。

また、治療が難しい認知症についても、介護保険サービスなど社会資源を活用すれば、さまざまな対策ができます。経済的負担の少ない非薬物療法のアイデアもあります。そういったことも含め、患者さんやご家族に貢献できる情報はたくさんあります。認知症専門医として、私も積極的に啓発していきたいと考えています。

アルツハイマー型認知症は突如発症する病気ではない。若いうちに神経細胞には変化がおきている

認知症専門医 日暮先生の診察風景

もうひとつお話しするとすれば、アルツハイマー型認知症は “高齢者の疾患”というイメージがあると思います。確かに、有病率は70代の方で6~7人の1人、80代では3~4人に1人とも言われています。しかし、気をつけておきたいのが、“突然発症”するわけではないということ。原因物質と考えられている「アミロイドβ」は、30~40代でも神経細胞に確認されることが研究で明らかになっています。実は、徐々に発症に向かっていく疾患なのです。

私は、この30~40代という年代をあらためて考えると、健康にとって非常に重要な時期だと思っています。働き盛りであるものの、一方で体に転機が訪れる年代でもあり、糖尿病や高脂血症など生活習慣病のリスクも高まってきます。つまり、健康に留意した生活を送るべきタイミングなのです。そして、健康への取り組みは、糖尿病など生活習慣病が、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の要因となることを考えれば、認知症の予防にもつながります。

過度な心配は不要ですが、30代からの健康管理は一生涯の健康管理という意識をぜひ持っていただきたいと思います。

脳の総合専門医的視点で診断。認知症を見逃さず的確に鑑別

クリニックの診察室

当クリニックとしてのこだわりは、何よりもまず的確な診断です。前段としてお話ししますが、認知症の診断は容易ではありません。

認知症か軽度認知障害か正常かといった判断を行う。認知症であればその種類をしっかりと鑑別する。そのためにも認知症専門医による診断は不可欠。

また、脳の器質的疾患や脳卒中は、認知症と密接なつながりがありますので、脳の総合専門的な視点も併せた診断が行えればなおよい。そこを実現しているのが当クリニックです。検査環境においても、アルツハイマー型認知症発症前の段階で萎縮する海馬を定量化できる「VSRAD(ブイエスラド)」というMRIを用いた検査、高次機能評価として、長谷川式簡易知能スケールや時計描画テスト、錯視率の定量、気分障害の評価などを導入し、スムーズに検査を受けられるようにしています。

ほどがや脳神経外科クリニックの受付

クリニックは“羅針盤”

私は、クリニックは“羅針盤”であり、道筋を正しい方向へしっかりと立てることが使命であると考えています。正確な治療は、正確に診断されなければできません。患者さんの悩みは傾聴して正しく把握しなければ、よいアドバイスはできません。また手術が必要であれば自分が直に確認した確かな腕を持つ医師を紹介し、現状の治療で悩まれる方がいればセカンドオピニオンとしてアドバイスを行うなど、患者さん一人ひとり、抱えている問題点と行うべきことをしっかりと見極めたうえで的確な医療を提供していく。当クリニックは、そこをめざし診療体制を整えてきました。

地域の皆さまに寄り添える「脳のかかりつけ医」として、認知症ほか、頭痛、脳卒中、その他脳にまつわるすべての症状に対し、安心いただける診療を提供しております。特にもの忘れ外来では、介護者の介護疲れ対策や、環境調整・社会資源の活用などさまざまなアドバイスも行なっています。何か心配事がある方は、ぜひお気軽にお越しください。