この記事の監修ドクター|日暮 雅一先生(ほどがや脳神経外科クリニック)
認知症というと治らない病気というイメージが大きいですが、治る認知症もあるのです。どんな病気で、どんな原因や症状があるのでしょうか。
治る認知症とは
治療によって治る認知症は複数あります。原因や症状を挙げてみます。
慢性硬膜下血腫:外傷によって起こります
頭部を軽くぶつけた、転んだなどの衝撃で、脳の表面に血液が溜まってしまうことがあります。溜まった血液が脳を圧迫して認知症状が現れます。きっかけとなる頭部打撲はごく軽いものでも血腫ができることがあります。血腫は非常にゆっくりと大きくなることも多く、打撲直後では異常が認められないこともあります。
麻痺や意識障害があればわかりやすいのですが、もの忘れが増える、トイレを失敗するなど認知症のような症状が数週間から数か月後に出ることもあり、認知症かと考えた家族と受診した患者さんが、慢性硬膜下血腫と診断される場合もあります。
診断はCT検査やMRI検査で行われます。治療は溜まった血液を手術で取り除きます。早期治療が効果的で、治療後は認知症のような性格や症状も元通りになることが多く、生活機能も回復します。頭をぶつけたときは、念のため受診すると良いでしょう。
脳腫瘍:腫瘍によって脳神経が障害されて起こります
脳内や脳の表面に腫瘍ができ、周囲の脳を圧迫して、認知症のような症状が現れます。腫瘍も良性の場合と悪性の場合がありますが、良性腫瘍は上手に手術をすれば、症状も消えることが多いです。
特発性正常圧水頭症:脳室や脳溝の髄液循環が悪くなって起こります
脳室内では髄液という水分が常時作られています。この髄液は脳内や脳の周りを巡って吸収されていくのですが、これが滞ることで脳機能が障害され、歩行障害や認知症のような症状が起こります。原因が分からない特発性の場合が多く、認知症と診断された高齢者の中にはこの病気の患者さんもおり、手術で改善する可能性があります。
歩行障害が早期に起こることが多いのですが、ゆっくり歩くようになった、小刻みにすり足で歩くなど、高齢者によくみられる症状のために発見が遅れることも多いです。その他には集中力や注意力、意欲の低下も見られます。好きな趣味をしなくなった、何もしないでぼーっとしている時間が増えたなどです。
診断はCTや頭部MRIの他、腰から髄液を抜いて症状の改善の有無を確認するテストなどで行われます。治療は、滞った髄液を腹腔内へ流す管を留置する「シャント術」です。治療後は、歩行障害から徐々に改善することが多いです。
甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンの不足によって起こります
甲状腺ホルモンの分泌が不足して、全身の代謝が落ち、活動が低下することで起こる病気です。疲労やむくみ、抑うつ症状や更年期障害のような症状などさまざまですが、認知症と似た症状が出ることがあります。
血液検査で甲状腺ホルモンを調べて診断します。治療は甲状腺ホルモンを補充します。
原因となる病気を見つけることが大切です
治らないというイメージの強い認知症ですが、治るものもあります。認知症と診断されても、諦めずに専門医に相談してください。原因となる治療可能な病気がないか?調べることが大切です。