できればなりたくない鼠蹊ヘルニア…その原因は?

できればなりたくない鼠蹊ヘルニア…その原因は?

この記事の監修ドクター|笠井 謙和先生(笠井整形外科)

脱腸という病気を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。でも、脱腸ってどんなものなのでしょうか。脱腸は実は「鼠蹊ヘルニア」の一種です。では鼠蹊ヘルニアとはどんな病気なのでしょうか。

ヘルニアとは?

実はヘルニアとは病気ではなく、何かの原因により、体の組織が正しい位置からはみ出したことを言います。ヘルニアとはラテン語で「脱出」を意味しているのですが、その名のとおり、臓器などの組織が体から脱出した状態を表しているのです。脱腸もこのヘルニアの一種で、正式名称は「鼠蹊ヘルニア」と言います。腸が腹筋の圧力に耐えられずに、脚の付け根である鼠蹊部にある薄い膜を突き破って出てきてしまうのです。

子供も大人もなる病気で、一度なってしまった場合、手術をして治療するしかありません。この病気は、人間が二足歩行したことにより生じるようになった病気であると考えられており、人間の臓器を支える筋肉や筋膜が人体の構造上、重力に耐えられない弱い部分で起こってしまうのです。

3種類の鼠蹊ヘルニア

外鼠蹊ヘルニア
外鼠蹊ヘルニアは、小腸が腹壁の外に出てきてしまうのが特徴です。幼児・成人問わずなります。
内鼠蹊ヘルニア
内鼠蹊ヘルニアは鼠蹊部の少し外側が膨れ、鼠蹊三角というところから、腸が出てしまいます。男性に多いのが特徴です。
大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは出産経験豊富な中年女性によくみられるヘルニアで、鼠蹊部よりやや足よりにある大腿管と呼ばれる管を通り、お腹の内容物が出てしまいます。このヘルニアは嵌頓状態(かんとん:腸などの内臓器官が腹膜等の隙間から出てしまい、もとに戻らなくなった状態のこと)になりやすく、早急に治療が必要です。

鼠蹊ヘルニアの症状

立った時やお腹に力が入った時に鼠蹊部のあたりが腫れます。腫れは特に痛みもなく、押したり横になると引っ込みます。この段階では初期症状ですが、次第に不快感や痛みが出るようになり、長時間立っているのがつらくなったり、息苦しさを感じるようになります。また、腫れが硬くなったり、腫れた部分を押しても引っ込まないようになると嵌頓(かんとん:前述)が起こってしまっているため、至急手術をする必要があります。

鼠蹊ヘルニアになる5つの原因

鼠蹊ヘルニアを引き起こす主な原因は5つあります。

①加齢

成人のヘルニアの多くは年をとることにより引き起こされると考えられています。筋肉や筋膜が加齢によって弱くなり、内臓を支えきれなくなることで発症します。

運動不足や仕事や生活習慣によるもの

運動不足により筋肉が衰えたり、また、仕事で重い荷物を運び、頻繁に下腹部に力を入れている場合になるケースがあります。

妊娠・出産

妊娠中に腹圧が高まるために鼠蹊ヘルニアになります。出産経験が多い中年の女性もなりやすく要注意です。

他の病気が原因で鼠径ヘルニアになるケース

喘息のために激しい咳を何度もしている人、便秘がちで腹部にしょっちゅう力を入れている人などがかかりやすいようです。

先天性

この場合は母体にいる時に、すでに鼠蹊ヘルニアになっています。

鼠蹊ヘルニアはアメリカでは年間80万人がこの病気で受診しているといわれており、日本でも年間14万人がこの病気で受診しています。決して珍しい病気ではないのですが、恥ずかしさが先に立ってしまい、なかなか治療せずに悪化させることも多いようです。もし当てはまるようであれば、早めに病院で診てもらうようにしましょう。