「沈黙の臓器」と言われる肝臓。進行すると危険な病気も?

「沈黙の臓器」と言われる肝臓。進行すると危険な病気も?

この記事の監修ドクター|石橋 一慶先生(西大井内科)

悪化するまで自覚症状を現わさないゆえに「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓。肝臓の病気にはどのようなものがあるのでしょうか。

肝臓の役割

肝臓には、食事などで取り込んだ栄養素からエネルギーや体の材料となるタンパク質などを合成する代謝機能、菌やウイルスを無毒化する免疫作用、薬や有害物質を分解する解毒作用、赤血球の老廃物であり消化も助ける胆汁を生成分泌する作用など、様々な役割をもつ生体内の重要な総合工場です。

「沈黙の臓器」と言われる理由

肝臓は障害が起きても、よほど悪化しないと症状として現れません。肝臓は細胞の自己修復能力が高いうえに、障害が起きている細胞の働きを補完する能力も高い臓器です。肝臓の障害を原因として症状が現れるときは、肝臓の細胞の多くがダメージを受けて壊れてしまい、自力では再生できない深刻な状態なのです。

肝臓の病気

脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝炎、NASHなど)

食事で取り込んだ脂肪は小腸で脂肪酸に分解され、肝臓に運ばれて中性脂肪になります。取り込む脂肪が増え過ぎると、中性脂肪が肝臓に溜まってしまいます。脂肪肝は食べ過ぎや肥満、糖尿病が原因で起こる肝臓の肥満症状で、動脈硬化などの生活習慣病のきっかけとなります。体重の多い方は適度に減量し、炭水化物などの摂取を減らすことで脂肪肝の改善が図れます。
食生活も体重も特に問題がないのに体質的に脂肪肝になりやすい方もおられます。 そのような方は適切なアドバイスのもと脂肪肝の悪化がないことを確認するために年一回の超音波検査をすることを推奨します。
国民の3人に1人が脂肪肝と言われております。過度な心配は無用ですが、生活習慣病の入り口となったり、一部は放置すると肝硬変となることがありますので、日常での留意が必要です。

アルコール性肝障害

アルコールのとり過ぎで肝臓に障害を起こします。肝臓がアルコールの分解を優先するため、脂肪の分解が滞ってしまい脂肪が沈着します。悪化すると炎症が起きて肝炎へ進行します。

アルコール性肝障害の進行には段階があり、初期は脂肪の沈着(脂肪肝)だけですので、禁酒・減酒で改善します。 進行すると肝細胞の周りに繊維が増加し、肝炎による肝細胞の壊死が生じ、最終的に肝硬変になります。肝臓機能の低下により倦怠感や黄疸が生じます。重要な問題は肝がんの発生です。肝硬変は肝がんの原因となります。

ウイルス性肝炎

肝炎ウイルスに感染することで肝臓に炎症が起こる病気です。A型、B型、C型などがあります。それぞれの型で感染経路や症状の出方が異なり、A型は感染排泄物に汚染されている魚介類や野菜から感染します。海外旅行で感染することが多く、上下水道が整備されていない地域では注意が必要です。
B型は血液を通して感染します。母子感染や注射針の使いまわし、性行為感染が主な原因です。血液以外の体液からも感染する可能性が少ないながらあるため、日常生活でも留意が必要でワクチンの接種が推奨されます。
C型は血液製剤による感染ですが、現在は予防策が採られており、新たな感染は激減しております。
ウイルス性肝炎の問題は将来の発がんです。肝がんの90%はB型肝炎とC型肝炎が原因となっていますので、肝炎の方は定期的な検査が必要です。

原発性肝がん

肝臓自体の問題から発生するがんを原発性肝がんと呼びます(大腸がんなどが肝臓に転移して生ずる肝がんは転移性肝がんと呼ばれ区別されます)。
原因となるのは70%がC型肝炎ウイルス、20%がB型肝炎ウイルス、10%がアルコール性肝障害や脂肪肝となっています。近年、C型・B型肝炎が減少しており、相対的に脂肪肝が進行して生ずる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による発症が増加しています。

自覚症状はほとんどなく、進行するまで自覚症状がありませんが、適切な画像検査(超音波検査など)により比較的容易に評価できます。
肝がんは胃がん・大腸がんと異なり、周囲の臓器に転移することは比較的少ないため、根治が困難であっても、時間をかけて対応できる症例が少なくありません。

肝嚢胞

健康な人でも10%以上に見られます。肝臓の中に嚢胞(液体の溜まった袋)ができる病気です。自覚症状はなく、腹部超音波検査で偶然発見されることが多い腫瘤(しこり)です。ごく稀に腫瘍を伴うものもありますが、ほとんどは全く問題ありません。非常に大きいのう胞の場合は圧迫による膨満感や痛みを感ずる場合がありますが、それ以外は治療は全く必要ありません。増大の有無の評価のために年に1回超音波検査でチェックするだけで十分です。

肝血管腫

良性の肝腫瘍の中では最も多いもので、自覚症状はありません。ほとんどは腹部超音波検査を受けた際に偶然発見されます。肝がんなどの悪性腫瘍との区別をつけるためにMRIなどの検査が行われることがありますが、多くは超音波検査で診断可能です。悪性のものはほとんどありません。肝がんなどの他の腫瘍と区別されれば、年に1回の超音波検査で増大の有無を評価するだけで十分です。

小さな異常が大きな問題であるときも。
専門医へ相談を

ジョギング中の女性

肝臓はさまざまな重要な役割を担っている臓器です。
「沈黙の臓器」と言われ、病気があってもなかなか自覚症状がでず進行してから発見される場合が多々ありますが、胃や大腸に対する内視鏡のような検査とは違い、クリニックの外来で行える超音波検査のような比較的簡単な検査で評価し得る臓器です。心配なことや症状がありましたら、ぜひ専門医へご相談ください。