この記事の監修ドクター|市川 壮一郎先生(いちかわクリニック)
不整脈の中でも危険な房室ブロック。どんな病気でどんな症状が出るのでしょうか。
房室ブロックは不整脈の一種です
房室ブロックは、脈が遅くなるタイプの不整脈ですが、自覚症状はない場合が多く、偶然受けた検査で見つかることも多い病気です。
- ・病気の仕組み
- まず、正常な心臓の仕組みから説明しましょう。心臓は規則正しいリズムでポンプの役割を果たしています。このリズムは、右心房にある洞結節という部位で作られる、小さな電気信号を元にしています。洞結節で作られた電気信号は、心房(心臓の上の部屋)と心室(心臓の下の部屋)のつなぎ目(房室結節)を通って心室に伝わり、心臓全体を巡って消えていきます。電気信号が消えるとすぐに次の電気信号が作られて、心臓全体を伝わっていくのです。房室結節におけるこの電気信号の伝達回路が不具合を起こして、心房から心室へ、うまく伝わらなくなるのが房室ブロックです。
- ・原因①加齢
- 房室ブロックは高齢者に多く見られる不整脈です。加齢に伴って、心房と心室のつなぎ目である房室結節や周囲が変性、あるいは炎症を起こしてしまい、電気信号の伝達回路が障害されて房室ブロックが起こります。房室ブロックの半数が加齢によるものと考えられています。
- ・原因②虚血性心疾患
- 次に多いのが虚血性心疾患を原因とする房室ブロックです。特に心筋梗塞と併発することが多く、とても危険な状態となります。心筋梗塞が起こった場所によって、一時的な症状で済む場合と、広い範囲で伝達回路に異常を生じる場合に分かれます。
- ・原因③腎不全
- 腎不全に関連して起こる、尿毒症や高カリウム血症などの病気が房室ブロックの原因となります。
- ・原因④薬剤の副作用
- 高血圧に対して処方される降圧薬や、うつ病に対して処方される抗うつ薬、不整脈に対して処方される抗不整脈薬などの副作用として房室ブロックが起こることがあります。直接心臓の電気信号の伝達回路に影響する他、自律神経に働きかける成分によっても起こります。
房室ブロックは重症度で症状が異なります
房室ブロックは心臓の洞結節で作られた電気信号が、心房から心室へ伝わりにくくなるために起こる不整脈です。伝わりにくさの度合いで重症度が分けられています
- ・Ⅰ度
- すべての電気信号が伝達されてはいるが、伝達に時間がかかっているため、脈がゆっくりになります。無症状のケースも多く見られます。
- ・Ⅱ度
- 電気信号が時々伝わらなくなり、脈が飛んでいる状態です。さらに、伝達が突然ストップするものと、伝達がだんだん悪くなってから途絶えるものに分けられます。動悸やめまい、失神などの症状が起こることもあります。
- ・Ⅲ度
- 房室結節において全く電気信号が伝わらない状態です。高度房室ブロックや完全房室ブロックと呼ばれる状態で突然死のリスクがあり、とても危険です。
房室ブロックの検査
- ・心電図
- 胸に電極を付けて心臓の電気信号を記録します、5分ほどで終わります。
- ・24時間ホルター心電図
- 小さな携帯型記録器に繋がる電極を胸につけて、通常の生活をする中での心電図を24時間記録します。
- ・電気生理学的検査
- 電極付きの細いカテーテルを、足の付け根や首の静脈に挿入して心臓に運び、心臓の電気信号の状態を詳しく調べることができる検査です。検査後はカテーテルを抜去します。
房室ブロックの治療
上記の検査で房室ブロックの診断が下りると、重症度に適した治療を行います。ふらつきや失神などの症状がある場合のほとんどがペースメーカー治療となります。
- ・薬物治療
- 急性期に点滴か静脈注射で行いますが、症状を一時的に改善するのみで、根本的な治療はペースメーカーになります。
- ・ペースメーカー
- ペースメーカーは、脈が途切れた時に代わりの電気信号を作ってくれる機械です。一時的で回復が見込める場合は体外式ペースメーカー、それ以外は恒久式ペースメーカーを使用します。ペースメーカーは静脈に細い電極付きの電線を心臓まで通し、鎖骨下あたりに埋め込む電池に接続します。電池は4センチほどの直径で、寿命が7~8年ほどです。ペースメーカーの手術は局所麻酔で行い、1時間ほどで完了します。
房室ブロックは危険な不整脈です
房室ブロックは軽度であれば治療が必要でないケースも多く見られますが、重症度Ⅲ度では、ペースメーカーが必要になる危険な不整脈です。原因となる病気を持っているなど、なりやすい人は注意しましょう。異変を感じたら、循環器内科専門医を受診してください。