やけど、熱傷を専門に診療する熱傷専門医
熱傷専門医は、やけど、熱傷を専門に診療する専門医です。熱傷は、高熱の物に触れて、皮膚や粘膜が損傷することを指します。原因も重症度もさまざまで、患者さん一人一人に適した治療を見極めるために、高度な専門知識と経験、技術が必要とされる分野です。
熱傷専門医になるには
熱傷専門医になるには、日本熱傷学会の行う試験を受験して合格する必要がありますが、受験資格も厳しく定められています。
- ・医師免許を持ち、5年以上日本熱傷学会の会員であること
- ・熱傷に関する臨床経験を5年以上積んでいること
- ・日本熱傷学会が定める研修施設で熱傷医療臨床修練を行い、経験と学識、技術を習得していること
- ・定められた学会誌その他に、論文掲載があること
上記受験資格を満たして試験を受験し、合格して初めて、熱傷専門医となることができるのです。さらに、専門医認定の期限は5年と定められており、5年を過ぎると更新する必要があります。
熱傷とは
熱傷とは、高熱の物に触れて皮膚や粘膜が損傷を受けることで、一般にはやけどと言われるものを指します。熱傷の原因はさまざまで、主に以下の5つに分けられます。
温熱
熱湯や水蒸気、揚げ物油やアイロン、花火や火災なども含まれます。
低温
45℃以下の物でも長時間触れていると深い熱傷を負うことがあります。電気毛布やアンカ、ホットカーペットや湯たんぽなどにも注意が必要です。
電気
家庭用電源でも感電が起こることがあります。また落雷でも熱傷を負います。
化学物質
酸やアルカリなどの薬品に触れて起こるのも熱傷の一種です。
放射線
日焼けや放射線を浴びても熱傷が起こります。
熱傷専門医が治療を行う前にすること
①冷やす
まずは冷やすことです。流水で短くても5分間、長くて30分ほど冷やします。痛みや症状が緩和されます。着衣を脱ぐのが難しいときは、服の上から冷やします。
②重症度を判定する
熱傷は命に関わることがあります。重症度は、熱傷の深さと面積を見て判定します。熱傷の深さは、大きくⅠ度∼Ⅲ度に分けられています。
熱傷の深さ:Ⅰ度
患部は赤みを帯びています。ヒリヒリとした痛みがありますが、損傷しているのは皮膚表面の表皮のみにとどまります。
熱傷の深さ:Ⅱ度
患部は白や灰色になります。さらに深くなると茶褐色に見えることもあり、表皮のさらに奥、真皮まで損傷されています。しばらくすると水泡ができ、強く痛むことが多いのですが、重症に近くなると、鈍い痛みや重い痛みを感じることもあります。
熱傷の深さ:Ⅲ度
熱傷が皮下組織や神経まで及び、皮膚のすべてが損傷されています。神経まで損傷されるため、痛みを感じません。感覚がないと感じることもあります。脱水症状を起こしやすいので、特に子どもは注意が必要です。
熱傷の面積:手のひらの面積は、体表面のすべての面積のおよそ1%です。
これらを合わせて重症度の判定を行います。熱傷の重症度は、軽症、中等症、重症の大きく3つに分けて判定されます。
軽症=深さⅡ度で面積15%未満か、深さⅢ度で面積2%未満
中等症=顔や手、会陰などの特殊部位を含まない場合。深さⅡ度で面積15~30%、深さⅢ度で面積2~10%
重症=顔や手、会陰や気道などの特殊部位を含む場合。気道は火災の煙を吸い込んだ場合などで、熱傷の患部は腫れるので、患部の膨張で窒息の危険などがあり、特別な配慮が必要です。また、化学熱傷や電気熱傷の場合も、重症と判定されます。それ以外の場合、深さⅡ度で面積30%以上か、深さⅢ度で面積10%以上
熱傷専門医が行う治療
熱傷専門医は、重症度それぞれの場合、以下のような治療を行います。
・軽症:主に外来での処置になります。軟膏やクリームを処方し、数日で治癒します。
・中等症:一般病棟に入院する必要があります。患部への細菌感染の危険がありますので、軟膏の他、抗菌薬も使います。治癒までの目安は2~3週間が多く、重症に近いと5週間ほどが目安です。
・重症:救急センターの集中治療室に入院して、全身状態の管理が必要となります。重症の熱傷では自然治癒は難しく、植皮手術が必要となります。
重症熱傷に対して熱傷専門医が行う治療とは
①熱傷ショック期
熱傷を受けてから3日間の超早期を、熱傷ショック期と呼びます。深く広範囲に負った熱傷のために脱水症状が起き、血液量が減り、全身の臓器や器官に危険が及ぶことがあります。この時期はICU(集中治療室)で厳重な管理と観察が必要です。全身状態をチェックしながら、植皮手術の検討も行います。このため、麻酔科、皮膚科、形成外科、口腔外科などの他の診療科専門医との連携が必要になることもあります。
②熱傷感染期
熱傷を受けて5~7日以降の時期で、熱傷患部に細菌が感染しやすい時期になります。このため、抗菌剤を使用して感染予防に努めます。また、患部の皮膚切除や、皮膚移植(植皮手術)を行う時期でもあります。
③社会復帰準備期
治療を継続しながら、リハビリテーションや心理相談などの支援を始め、患者さんの社会復帰に向けた準備を始めます。熱傷患部は突っ張るので動かしにくくなります。このため、リハビリテーション科と連携して、患部の可動域を確保するのは、患者さんの生活の質を落とさないために大切なことです。
また、気道熱傷の場合は、呼吸リハビリテーションも必要になります。また、理学療法士や言語療法士とも連携して、発音の練習なども行います。栄養士の支援で、食事の工夫やサポートなども行います。
熱傷は早期治療が大切です。早めの受診を!
小さい、浅いと思っていた熱傷が、時間が経つにつれ深くなったり、細菌感染することは多く見られます。また、熱傷は軽症でも痕が残りやすいものです。痕を残さずきれいに治すには、熱傷専門医を早めに受診することがおすすめです。