呼吸器と呼吸器疾患の手術治療のスペシャリスト〜呼吸器外科専門医〜
呼吸器外科専門医は、呼吸に関わる臓器である呼吸器の治療の中でも、手術治療を行う専門医です。呼吸に関わる臓器はいくつもあって、胸部に集まっており、肺などの大きな臓器も含まれています。呼吸器外科専門医は、これら呼吸器と呼吸器疾患の手術治療のスペシャリストです。
呼吸という生命の維持に不可欠な活動を支える臓器を、深く知り、高い技術で診療しているのが呼吸器外科専門医です。そんな日本の呼吸器外科は、世界中から信頼を寄せられています。
呼吸器外科専門医になるには
呼吸器外科専門医は、日本呼吸器外科学会の行う試験を受験して合格する必要がありますが、受験資格も以下のように厳格なものです。
- ・医師免許証取得者であり、外科専門医でもあること。
- ・外科医師として7年以上の修練期間があること。
- ・既定の手術経験があること。
- ・日本呼吸器外科学会が定める学会発表、論文発表、学会やセミナー、講習会への参加が規定数を満たしていること。
- ・日本呼吸器外科学会の会員として3年以上が経過していること。
上記の受験資格をもって試験を受験して合格し、呼吸器外科専門医となることができますが、認定を受けた後も5年ごとに更新が必要であり、その際、論文発表や学会、セミナー、講習会への参加はもちろん、5年間に100例以上の手術を行っていることなど、厳しい規定をクリアしなければなりません。
呼吸器外科専門医は、呼吸器の手術治療を行います
呼吸器外科専門医は、呼吸器の疾患の手術治療を行います。呼吸器外科が扱う呼吸器とは、喉の奥、気管と食道に分かれる咽喉から肺の下にある横隔膜までの間にある、呼吸に関する臓器のことを指します。
咽喉
食物と空気を選別する部分、喉の奥
気管
空気の通り道を指します
気管支
気管が左右に分かれている部分
細気管支
気管支の先端がさらに枝分かれしている部分
肺
呼吸によってとり込んだ酸素を血液に送り込んで、血液中の二酸化炭素を呼気に取り込むガス交換を行う臓器
縦郭
左右の肺の間のことで、気管、食道、大血管、心臓などがあり、上は頸部から、下は横隔膜までです。
胸壁
胸部の内臓がある場所を胸腔と言いますが、その胸腔を囲んでいる肋骨と横隔膜などのことを指します。
横隔膜
胸腔と腹腔(腹部の内臓がある場所)を隔てている筋板で、呼吸の際に大きく動いて呼吸運動を助けています。
呼吸器疾患の主な症状と疾患
胸痛
胸が痛みますが、痛みの様子はさまざまで、指すように痛む、締め付けられるように痛む、鈍く痛む、長く痛む、瞬間的に痛むなどあります。痛む個所やどんな時に痛んだかもさまざまです。原因は、胸部の臓器の疾患や、神経障害など多岐にわたり、緊急度が高いものが多く見られます。
呼吸器外科が扱う胸痛を起こす呼吸器疾患に、肺に穴が空いて空気が漏れてしまう気胸、胸膜に炎症が起こる胸膜炎、胸部に膿が溜まる炎症性疾患の膿胸などがあります。
息切れ、呼吸困難
呼吸の際に力がいる、不快感がある、空気が足りない、息が詰まるなどの症状を指し、体に必要な酸素量が不足しているときに起こります。原因となる疾患は幅広く、呼吸器疾患以外にも、心臓、血液、神経、精神の疾患などが関わっていることもあります。
呼吸器外科が扱う息切れや呼吸困難を伴う代表的な呼吸器疾患に、慢性閉塞性肺疾患(COPD) があります。長年の喫煙を原因とする疾患で、気管支の炎症のために空気の通り道が狭くなり、咳や痰、息切れや呼吸困難が起こります。他には気管狭窄や気管支狭窄があり、これらは肺炎の原因ともなります。
咳や痰
咳は、痰を排出するために起きる他、気道が刺激に対して過敏になって起こることもあります。痰は、もともと気道を守るための粘液にほこりやウイルスなどの異物が絡めたられたものです。気道に炎症が起こると、体の防御反応として粘液が増え、痰も増えます。
呼吸器外科で扱う炎症性疾患に膿胸というものがありますが、細菌感染によって胸部に炎症が起き、膿が溜まっていく病気です。
血痰
痰に血が混じる症状です。呼吸器外科が扱う疾患の中では、肺真菌症や肺がんに血痰の症状が現れます。
胸部レントゲンで影が映る
呼吸器外科が扱う疾患の中では、縦郭腫瘍や胸壁腫瘍、肺真菌症や肺がんなどがあります
呼吸器外科専門医が行う治療とは
呼吸器外科では、呼吸器に関わる疾患の、手術治療を行っています。例えば、気管狭窄や気管支狭窄の場合の気管・気管支拡張術、胸腔にチューブを挿入して、膿胸の場合は溜まっている膿を、気胸の場合は漏れた空気を排出する胸腔ドレナージ術などもあります。これら手術治療に伴って、抗生剤の処方や点滴なども行います。
肺がんは早期発見の場合、呼吸器外科で部分切除や区域切除、片方の肺を全摘出する肺全摘術を行います。検査のためのリンパ節切除も、呼吸器外科が行う手術です。肺がんの治療は、手術治療以外に、放射線療法や抗がん剤治療も行う必要があることが多い疾患です。そのため、放射線科など他の診療科の医師とも連携をとって治療に臨みます。
日本の呼吸器外科専門医は世界最高水準です
呼吸器外科は、外科の中でもあまり知られていない診療科ですが、毎日の健康を底から支えているのは呼吸であり、呼吸に関わる臓器の疾患を扱い、手術治療を行うのは呼吸器外科専門医であることを考えると、とても身近な専門医です。
あまり知られていない呼吸器外科専門医ですが、日本の呼吸器外科専門医は、世界最高水準として、世界の医学会で知られています。肺がん手術の死亡率は世界最低、術後長期生存率も世界をリードしています。
これらの数字は、呼吸器の悩みを抱え、呼吸器外科専門医にかかろうとしている患者さんには心強く映るのではないでしょうか。気になる症状は早めに受診し、世界最高水準の医療を受けて、健康な生活を送りましょう。